※要加熱

 貿易会社に勤める中年独身サラリーマンを主役とした短い一話完結のドラマと共に、主人公の男が訪問しているという設定で、実在する個性的な飲食店を紹介する番組がある。私はこの日、偶々その番組を見ていた。

 今回は主人公が突然遠方に出張となり空港に行くところから話が始まった。普段なら彼は搭乗待ちの間に目的地近くの飲食店でまず腹を満たしそうなものだが、この度は真っ直ぐゲートに向かった。

 しかし、ここでいきなり彼はアクシデントに見舞われる。なんと空港が突然テロリストの集団に占拠されたのだ。全てのフライトの運航を見合わせるアナウンスが終わると同時に、私は


 『俺』になっていた。目の前には黒っぽい服を着て黒い布で人相を隠し銃を持った、如何にも犯罪実行中というべき格好のテロリストたちがいる。彼らに目を付けられないように、『俺』は忍び歩きで物陰に隠れながら、兎に角出口を目指した。

 そして脱出には成功した。やれやれ、命拾いしたな。

 空港に背を向け、よさげな店を探す。幸い、そう歩き回らない内に暖簾のかかった定食屋が見つかった。ほー。悪くないな。『俺』は引き戸を開けた。

 その薄暗い室内にあったのは、汚れた壁に貼り付いて蠢く赤い肉塊たちと床を埋め尽くすような夥しいケーブルの数々だった。

 『俺』に言えたのは、ただ一言だけだ。


「流石の俺も、これは食えない……」

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