【コント】河童放流禁止
あそうぎ零(阿僧祇 零)
河童放流禁止
ある公園内の池のほとり。薄暮。
池の岸に立て札があり、次のように書いてある。
「この池に、魚や亀などを放さないで下さい。
生態系を乱す恐れがあります。
特に、
公園管理事務所」
少し離れて設置されたもう一つの立て札には、
「生き物を飼う人は、最期の最期まで責任を持ちましょう。
特に、河童は自宅で看取らないと、
公園管理事務所」
と記してある。
河童は、よろめきながら歩いており、男が腕を持って支えている。
男 この辺で、よかろう。
河童、腕で顔を覆う。
河童 後生ですから、置き去りにしないで下さい。
男 お前、
河 ですから、せめて最期は家で。
男 家で死なれちゃ、始末に困るんだよ。
河童、涙ながらに歌う。
河 〽 狭いながらも楽しい我家ぁー。
男 泣き落としの手には乗らんぞ。
河 〽 愛の光の射す所ぉー。
男 お前は単なる
河 家族同然だとおっしゃいました。
男 そうか? だが、「家族同然」は「家族」とは似て非なるものだ。
河 嘘です。詭弁です。
男 第一、お前が死んだら、遺体はどうする?
河 煮るなり、焼くなり、お好きなように。
男 馬鹿言え。夏だから、すぐ腐って、異臭を放つだろう。
河 なら、土に埋めて下さい。
男 河童に、埋葬許可証が出るかよ。
河童、その場に土下座する。
男、立ったまま傲然と河童を見下ろす。
河 そこを何とか。
男 往生際が悪いぞ。何なら、体に重りを付けてやろうか?
河 そんなことしたら、あたしだって溺れます。
男 ははは。「河童の川流れ」っていうやつだな。
男と河童を発見し、駆け寄る。
係員 そこで何してるんですか! 池に河童を放すつもり?
男 いえ、違います。散歩ですよ。
河 あたし、池に沈められようとしてます。助けて下さい!
係 ダメじゃないですか。立て札が目に入らないの?
男 あなた、人間と河童と、どっちを信用するんですか?
係 時と場合によりますな。
男 それで?
係 この状況では、あなたは限りなく怪しい。
男 何だと! 聞き捨てならん。俺は、市長を知ってるぞ。
係 それが何か?
男 不届きな事をほざくと、市長に言うぞ。そうすれば、お前は首だ。
係 お好きにどうぞ。
男 首になってもいいのか?
係 私を首に出来るのは、内閣総理大臣だけなのだ。
男 え? 内閣総理大臣って、誰だっけ?
係 後で、スマホで調べなさい。
河童、立ち上がって二人の間に立つ。
河 頭の皿が、
係 連れて帰って下さい。放流は、絶対に認められません。
男 分かりましたよ。(ひとりごと)日を改めて、また連れて来よう。
係 近ごろ、河童の置き去りが増えて、困ってるんですよ。
河 ウチみたいに、薄情な飼い主が多いんですね。
男 何だと!
係 昨日も、女の河童が保護されましてね。
男 女の河童? 歳は?
係 まだ、若いですよ。なぜ、置き去りにされたのかなぁ。
男 その女河童と、こいつを交換するわけにはいきませんかね。
係 (首を横に振って)駄目、駄目。危ない飼い主には、任せられません。
男 女河童は、どこにいるんです?
係 警察や児相に相談したけれども断られ、ビジネスホテルに泊まらせてます。
河童、俄然元気になって、係員に話しかける。
河 あたし、戻るのやめました。
係 なぜ? 戻らずに、どうするの?
河 その、女河童を紹介して下さい。一緒に暮らします。
係 え⁈ それ、ほんと? そうしてくれると、助かるな。
男 こいつ。女河童と聞いて豹変しやがって。色呆け河童め。
河 あんたには、ほとほと愛想が尽きたよ。
男 どこへでも行け。野垂れ死にするがいい。
係 河童君。女河童と一緒になるのは結構だが、この池は困るよ。
河 なぜです?
係 この池は、ひどく狭い。隠れるところなんて、ないよ。
河 それは困ります。河童にもプライバシーってものがありますから。
男 ケッ! 動物園の動物に、プライバシーがあるか?
河 ひどいな。
河童、男に詰め寄ろうとする。
係 (河童を制しながら)まあ、落ち付いて。実はね、君の行き先はある。
河 どこです?
係 非公表だが、東北地方の某所に「河童保護研究センター」という施設がある。
河 そこに行けるんですか? 女河童と一緒に?
係 そうだ。そこなら、河童が大勢いるよ。仲間もできるだろう。
河 どうやって行けばいいんでしょうか?
係 車を手配するから、明日出発しよう。
河 有難い! でも、いよいよ皿が乾いてきました。もう、ダメかも。
係 この池に入っていいよ。ただし、10分だけ。必ず戻ってくるように。
河 有難うございます。必ず戻ります。
河童、池に入り姿が見えなくなる。
男 そんな施設があるなんて知らなかったなぁ。
係 首相直轄の研究所で、実は、私はそこの研究員兼河童ハンターなのだ。
男 何だって⁈
係 私を首に出来るのは、首相だけだと言ったでしょ。
男 なるほど。こりゃぁ、御見それしました。
係 研究所の事は、絶対に口外しないよう、今ここで、誓って欲しい。
男 はい、分かりました。誓います。
係 それとね。あなたには、向こう3年間、私服警官が身辺警護をするよ。
男 は? やけに物々しいな。
係 河童保護研究センターの存在は、厳秘だからね。
男 それと身辺警護と、関係があるんですか?
係 要は、あなたの監視だよ。
男 監視。その研究所は、いったい何を研究してるんです?
係 河童の生態とか。繁殖も手掛けている。
男 それだけ? なぜ、極秘なんです?
係 ふふふ。一番の目的は、河童の生物兵器化だ。
男 生物兵器化⁈
係 河童はね、水中での身体能力が極めて高い。そこに目を付けたのさ。
男 そんな事が、国民の知らない所で進められているとは。
係 一言でもしゃべったら、あんたも兵器に改造されるかもね。
男 (怯え切って)口が裂けても、しゃべりません。
係 その方が、身のためだ。
男 女河童も、その研究所へ?
係 女河童なんていないよ。あいつを釣るための嘘さ。
河童、池から戻ってくる。
河 すっかり元気になりました。ちょっとドブ臭かったけど。
係 じゃあ、行こうか。
河 (男の方を向いて)お世話になりました。お達者で。
男 お前も、達者でな。
河 子どもが生まれたら、ご連絡します。
男 せいぜい、たくさん子供を作ってくれ。(ひとりごと)お国のためにな。
暗転。
【コント】河童放流禁止 あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0
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