肌身離さずのお守り人形
武海 進
肌身離さずのお守り人形
「光君、おはよう」
「あれ、由奈どうしたんだよ、こんな朝早くに」
大きく欠伸をしながら玄関の鍵を閉めていると、恋人の由奈が現れた。
「そういうば今日から出張で一週間北海道に行くんじゃなかったけ?」
「うーん、ちょっと光君の顔が見たくなっちゃってさ。最近全然合えてなかったし。あと、これも渡したかったから」
ポケットをごそごそして取り出した物を由奈が渡してくる。
それは小さな真っ白い人形だった。
「なにこれ? 見たことないけどなんかのマスコット?」
「近所の神社で買ったお守り。肌身離さず持ってたらその人形が身代わりになって持ち主を守ってくれるんだって。最近光君、運が悪いって言ってたから」
由奈の言う通り、職場でのトラブルが連鎖したり家族や友人たちに問題が起きたりと最近不幸なことが続いて由奈に中々会えない日々が続いていた。
「なるほどね。ありがとう、家の鍵にでも付けとくよ」
その場でキーリングにお守りの頭から伸びる紐を通して付けると、由奈は満足そうに帰った。
「お守りか。本当は別にこんな物、必要ないんだけどね」
鼻歌交じりに俺は会社へと向かった。
多少バタバタとはしたものの、今日も定時きっかりに仕事を上がった俺は、歓楽街へと向かう。
適当に軽い食事を済ませていつものバーで一杯ひっかけていると、妙齢の女性が声を掛けてくる。
「光さん、お待たせ。今日はどうしたい?」
「お疲れ様、茉奈さん。とりあえず一杯飲んだら」
茉奈さん、彼女は一月ほど前からこのバーで待ち合わせては夜を楽しむ中だ。
僕は彼女持ち、彼女は旦那持ちでお互いに浮気をしている状態だ。
正直お互いにこの関係は良くないものだとは理解しているのだが、背徳感とスリルがたまらず、ずるずると密会を続けてしまっている。
今日もある程度酒を楽しみ、お互いほろ酔い程度に留めた俺たちはホテルへと向かう。
もちろんそれからのことは言わずもがな。
一通り楽しんで休んでいると、ドアがノックされた。
「すみません、警察の者です。このホテルで事件が起きたので少しお話を聞かせてください」
何事かと驚き、慌ててバスローブを羽織ってドアを開けるとそこには警察ではなく全身黒づくめの服装の女が立っていた。
「お前誰だ……由奈?」
「お守り、肌身離さずにちゃんと持っててくれてありがとね。それじゃバイバイ」
どういうことか由奈を問いただそうとするが、言葉が出ない。
代わりに俺の喉からは滝の様に血が溢れ出ていた。
肌身離さずのお守り人形 武海 進 @shin_takeumi
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