大きな悲劇の終わりなのか、これが悲劇の始まりなのかは知らない。
およそ快適とはいいがたい管理下にいるようであるのに、独白者の心は安らかで、羊のように静かに作業にいそしんでいる。
その血を見るまでは。
独白者は、女のようだが、違うのかもしれない。
『貴方』は実在しているのか、瞼の影なのかも分からない。
『貴方』は、途中から『あなた』に変わる。急激にこの二人が打ち解け合い、親しくなったかのように。
よろこびに満ちて、独白者は『あなた』と共に収容所の外へ走り出す。倖せの日。
それすらも、生死の境目に見る誰かの臨死体験なのかもしれないのだ。
この詩だけを投げ出されて、これをもとに自由に小説を書けといわれたら、さぞかし力作が集まるのだろう。なかなか脳から消えてくれない謎めいた一篇。