第22話  天才賢者は全裸になりたくない②

ダンジョンアタックが終わり、最高級猫缶をニャップにプレゼントしようとして喧嘩になった日の翌日、『開拓者』と『アニマルスターズ』のメンバーは、首相官邸に呼ばれていた。


今回、ダンジョンを世界で初めて完全攻略した偉業を表彰するためである。


もちろん、表彰だけではない。

その後にはマスコミに囲まれての公式会見がある。


特に、今回のダンジョンアタックにおける一番の功労者である私に対しての質問は厳しいものが多かった。


これが普通の探索者であれば問題は無いのだろう。

しかし、今や私は日本はおろか、世界でもトップクラスの探索者である。

そんな探索者が毎度のように全裸になって、あられもない肢体を視聴者に見せつけているのである。

これが社会問題にならないはずがなかった。


子供にまで「えっちなのはいけないとおもいます」と言われる私である。

弱みを突くことに定評のあるマスコミにとって、私は絶好の餌である。

あまりに分かりやすい弱みがばらまかれているせいか、マスコミは肝心のダンジョンアタックについての質問を全くしなかった。


「いつもいつも全裸になることについて、社会的な……」

「子供の教育上、あまりよろしくない風潮……」

「あれではまるで、日本が破廉恥な……」

「最近の風紀の乱れの原因と思われて……」


その代わりとして、このような私の全裸にまつわる質問を容赦なく浴びせてくる。

そんな、私にとっては針のむしろのような会見だった。

しかし、そのことにより細かい追及を避けられたと、首相をはじめとした政府関係者に感謝された。


「別に全裸になりたくてなってるわけじゃないんですが! むしろ全裸になりたくないんですよ、私は!」


精一杯の主張をするが、冗談だと思われているらしく、生暖かい目で見られただけだった。

そんな苦痛極まりない一日が終わり、私はダンジョンアタックから始まった煩わしいことから解放され、平穏な日々を送ることになった。

――なんてことはなく、世界で初めてダンジョンの完全攻略を果たした私たちと、つながりを作るために連日のようにパーティーのお誘いがあった。


「うあぁぁぁ、めんどい……」


「彩香さん。気持ちはわかりますけど、もう少しシャキッとしてくださいな」


机に突っ伏す私を、早紀が窘める。


「いやぁ、みんな、よく平気だよね。あんな毎日のように引っ張りまわされてさ……」


「まあ、小さいころから社交界にはいたからね。それに――」


「あら、毎日のようにではありませんわ。私は3日に1回くらいですわよ」


「私もそうね。八尋は梨乃が当主だから、梨乃が出られないときだけ出席しているだけだしね」


「えっっ?!」


みんな毎日のように疲れるパーティーに招待されて、よく平気な顔してるな、と思っていたのだが、毎日のように招待されているのは私だけだったようだ。

よくよく話を聞いてみると、最終的にラスボスであるクトゥルフ(と言うの名のタコ)を倒したのが私だったということで、どのパーティーの主催者も私は外せないと言って招待しているらしい。

一方で、他のメンバーは毎日招待されても大変だろうと、主催者側が気を使って、スケジュールを調整しているらしかった。


「その気遣い……私にも欲しかったよ……」


「んん、どうだろ? 結局、彩香を除いて全滅しちゃったからね。それもあって、大変だからと彩香を招待しないで、他のメンバーを招待するのは失礼だと気を使っているらしいからね」


気を遣う部分がおかしいと思うが、偉い人にとっては大変であるかどうかよりも、プライドを傷つけられるかどうかという方が問題になるらしく、このような結果になったらしい。


「あーもー。よしっ、断ろう。招待は全部断ろう!」


「それは止めた方がいいよ。これまでに出席したパーティーもあるでしょ? 立場の低い人のパーティーに出席して、高い人のパーティーを欠席するとプライドを傷つけられたって思う人が多いからね」


「それ、もう欠席できないやつじゃん! もういい、私はダンジョンに籠る!」


ヤケになった私は、全てを捨ててダンジョンに籠る決意をした。


「ちょっと! これは『アニマルスターズ』の問題でもあるんですのよ。そう簡単に雲隠れされては困りますわ!」


「えぇぇ、完全に退路を塞がれてる?!」


そんな感じで騒いでいると、窓からニャップが入ってきた。


『主よ、何を騒いでおるのだ』


「ニャップぅ、聞いてよ! 毎日パーティーで疲れたから、ダンジョンに籠ろうとしたんだけど、ダメだって!」


『なんだ、そういう話か。それならちょうどいい。主に手紙が届いておるぞ』


「え? なんの手紙? いや、そもそも誰からよ?」


『クトゥルフからだ』


手紙の主が意外な相手だったことに驚いた。


「え? あのタコ?!」


『言っておくが、あのタコはあやつのアバターだぞ。ヤツはふざけてあんな形にしていたが、本体はあんな姿ではないぞ』


「ほぇぇ、そうなんだ」


そんなやり取りをしつつ、私は手紙を開いて読む。

そして、床の上にへたり込んだ。

私の手から落ちた手紙には、次のように書かれていた。


『拝啓 彩香殿 ならびに 探索者一同

先日は僕を楽しませてありがとう。

そのお礼と言ってはなんだけど、パーティーを開くので、是非とも参加してください。

かしこまったものではないので、いつもの服装で大丈夫です。


でも、全裸はやめてくださいね』


またしてもパーティーのお誘いであった。

そして、最後の一文は完全に余計であった。

それに――。


「何か企んでいそうなんだよね。ニャップは何か知らないの?」


『知ってはいるが、本人から直接聞いた方がよかろう。何、そんな肩肘張らんでも大丈夫だ。友達からの誘いだと思って気楽に受けるがよい。だが、親しき中にも礼儀あれ、だ。全裸で行くような真似はするなよ?』


ニャップまで、私のことをそんな風に思っていたことにショックを受ける。


「私は! 決して、全裸になりたいわけじゃありませんから!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

面白かったと少しでも思われましたら、★とできれば激励のレビューコメントを頂けますと幸いです。

こんな話が読みたいなどと言う希望も大歓迎(本編で難しい場合は番外編として採用するかもしれません)ですので、お気軽に書いていただければと思います。

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