第21話 侵略者たち

彩香たちが有明ダンジョンを攻略した翌日、ニャップことニャルラトホテプは、有明ダンジョンの101階層へとやってきていた。


「ちょっと! 酷いんじゃないの? あんなのをけしかけるなんて!」


クトゥルフは彼に抗議の声を上げる。


「ふん。お前こそ、ふざけすぎだ! なんだ、あのタコは?!」


「いやぁ、だって僕ってタコみたいな形のイメージだと思われているじゃん? だったら、その波に乗らないと申し訳ないと思わない?」


クトゥルフはへらへらと笑いながら彼の言葉に疑問で返す。


「さすがに、そのまますぎるだろうが! 危うく偽物だとバレるところだったのだぞ!」


「いやぁ、大丈夫じゃないかな? 一部の視聴者は疑っていたみたいだけど、強さもばっちり演出したし、ラスボスっぽい複数形態も出したし、何より僕のイメージに近いからね!」


「そのまんまのタコといい、強さも複数形態も演出が雑すぎると言っているのだ! お前は、この星を支配するつもりがあるのか?!」


クトゥルフはヤレヤレといった感じで肩を竦める。


「もちろんだよ。でも、支配って言ったって、こうやってうまく飼いならす方が効率的じゃない? 他の奴らみたいに、全部消し炭にしたり、有能な人間を片っ端から下僕にして全滅させるよりもね」


「確かに、それは一理ある。お前にとっては人間など家畜同然と言いたいのだろうがな!」


「それは、人間をオモチャ同然と思っている君には言われたくないなぁ。それにしては新しい人間オモチャにはご執心のようだけどねぇ」


揶揄うクトゥルフにニャップは鼻息を荒くする。


「ふん、あんなに面白い人間オモチャなど、そうそう手に入るものではないからな! 飽きるまでは捨てるつもりはないぞ」


「飽きるまでって……。君が飽きるまでって数百年単位の話でしょ? 人間だったら、君が飽きるまで生きていることはまずないと思うけどなぁ」


その言葉にニャップは悪い猫顔をしながら嗤う。


「くくく、我が飽きるまで永遠にあのままにしておくに決まっているだろうが。建前上は主に力を与えたことにしてあるがな!」


「かわいそうに。 君が飽きたら捨てられるんだよね。数百年で終わればいいけど」


「バカを言うな。あんな逸材、たった数百年で飽きるわけが無かろう。人間オモチャは沢山あっても、面白いものは本当にごく一部だからな!」


「まあ、不老不死なんて、人間の夢みたいなものだし、考え方によっては幸せなんだろうけどね……」


クトゥルフはニャップの言葉に、諦めの交じったため息をついた。


「これは警告でもあるぞ。我のオモチャに手を出したら、誰であっても容赦はせぬ。決して忘れるでないぞ!」


「分かってるって。君と張り合えるのなんて、父親アザトース母親ヨグ・ソトースくらいだろうからね。でも、遊ぶくらいは良いよね?」


「それくらいなら大目に見てやるが、我のモノだということを忘れるなよ!」


「はいはい、分かりましたって」


お互いに言いたいことを言い合って、折り合いが付いたため、ニャップは階層から出ようとする。

しかし、出口の前で立ち止まると、何かを思い出したように振り返った。


「ああ、忘れていたが、近日中に火の玉娘クトグァ黄色マニアハスターが地球侵略に来るらしいぞ」


ニャップの言葉にクトゥルフがあからさまに動揺する。


「えっ! うそ! どういうことだよ! 派遣争って、旗色が悪くなった途端に逃げ出したあいつらが、なんでまた、今になって……」


「何を今さら、お前の『支配』が順調だからに決まっているだろう? さっき、お前も言っていたではないか。『全部消し炭にしたり、有能な人間を片っ端から下僕にしたり』とな」


「えぇぇ。もしかして、自分はやらかして手詰まりになったから、自分の星を捨てて、地球に戻ってくるってこと?」


「そうだ。うお座のフォーマルハウトも、おうし座のアルデバランも、完全に人類が絶滅したらしい……」


二人ともゲームオーバーになったから、順調な地球でニューゲームをしたいということのようである。


「ふざけんな! 僕が、ここまで、どんだけ、地道に、活動したと思っているのさ! あいつら、アホなの? クルクルパーなの?!」


「まあ、既に向かっているらしいからな。あとは頑張れ、としか言えぬ」


「ちょっと! なに自分は第三者みたいなことを言っているのさ! あいつらが荒らしまわったら、君の大事なオモチャも壊されるかもしれないんだよ?」


クトゥルフも何とかニャップを焚きつけようと必死の説得を試みる。


「それは問題ない。我のオモチャに危害が及びそうなら手助けしてやる」


「ちょっと! 地球はどうでもいいと思ってるの?」


「当然だろう? 我にとってはオモチャの方が大事だからな。何なら、我の世界に連れていってしまえばよい」


その言葉にクトゥルフは焦りの交じった叫び声を上げる。


「ちょ、ちょっと! そんなことしちゃダメだよ。そもそもそんな事したら遠からず壊れちゃうよ!」


「む、そうだな……まあ、どうしてもという状況なら手を貸してやらんでもないぞ。もっとも、主がいれば必要ないとは思うがな」


「やれやれ、とんだ化け物を作っちゃって、どうするのさ!」


「ん? 作ったのはお前だろうが。我は見つけただけだぞ?」


「僕がやらかしちゃったのかぁ……。ってマジかよぉぉぉぉぉ!」


ニャップは悲痛な叫びを上げるクトゥルフを無視して戻るべきところへ戻ることにした。



一方、そのころ、彩香はニャップへのお礼とばかりに最高級猫缶を手に彼を探していた。


「あれぇ? ニャップ、どこいったんだろ? 猫缶ですよぉ。最高級の!」


「たわけ! 猫扱いするな! 我がそんなものを食べるとでも思ったのか?!」


彩香の頭上に現れたニャップは、彼を探す彼女の後頭部に猫キックをお見舞いした。


「ふぎゃ! もう、ニャップったら、どこに行ってたのよ! はい、助けてもらったお礼で買ってきたんだよ!」


「ほほぉ、これは我に特訓をして欲しいということか? 主よ」


そう言って、ニャップはファイティングポーズを取って、彩香を威嚇する。


「うはぁ、やる気満々じゃん。もう、仕方ないから付き合ってあげるよ!」


そう言って、彩香とニャップは特訓と言う名のじゃれ合いを始めた。

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