第17話 最深部
無事に私のステータス偽装疑惑が晴れたため、ダンジョンの奥へと進んでいった。
幸いにも、それ以降の階層でイソギンチャク型モンスターのような厄介な敵は出てこなかった。
とはいえ、ボス単体はいずれも強く、二葉さんは早々に身代わりの護符を使ってしまったので、アヤメ様と二葉さん、三上さんが交代でタンクを受け持つことで被害を最小限にしていた。
タンク1人にそれ以外をアタッカー、四宮さんをヒーラーにして、それ以上の被害を出さずにダンジョンの最深部である99階層へと到達した。他のフロアと異なり、99階層にはボス級のモンスターであるダゴンやハイドラが雑魚モンスターとして登場する。
これには『開拓者』のメンバーの人たちは驚いていたが、既に私たちはダンジョンRTAで瞬殺したことのあるモンスターである。
本来であれば複数のハイドラが使う回復魔法によって、長期戦を余儀なくされるのだろうが、私たちにかかれば何の問題もなかった。
私たちがそれらを瞬殺しまくっている様子を見て、『開拓者』のメンバーはさらに驚いる気がしたが、気のせいだろう。
こうして、あっという間に私たちは100階層の階段の前までたどり着いた。
この階層は、ボス級が雑魚として登場する代わりに、中ボスが登場しないらしく、何の苦労もなく階段の前までたどり着くことができていた。
「えーと、このフロアは中ボスいないみたいなので、意外と楽に階段まで来れましたね!」
《ふーん、中ボスいないなら楽だね!》
《おいっ! 騙されるな! 途中ボスモンスターばかりだったじゃねーか!》
《楽の基準がおかしい……》
《それな! アヤカたんの攻略見てると、感覚狂って自分もやれそうな気になるわ……》
《それは危険だ! 冷静に落ち着くんだ!》
《お前こそおちつけ、ほら深呼吸だ!》
素直な感想を述べただけで、チャットにメッセージが怒涛のように流れていく。
「ふえぇぇ。すごいメッセージだけど、なんかおかしいって言われてるような……?」
『仕方あるまい。我が主の力は、そこらの凡愚とは比較にならんからな』
「むぅぅ、そんな私が人外みたいなことを言わなくたっていいじゃない!」
『我が主として認めたのだ。そのくらい当然であろう』
ニャップは、私がおかしいと言われていることにご満悦なようだったが、私はこう見えて未成年のJKである。
そう、未成年のJKなのである。
大事なことなので2回言ったが、ニャップはデリカシーと言うものが無さすぎであった。
「まあ、いいわ。しかし、いよいよラスボスね! この勢いでサクッとやっちゃいますか!」
『まて! この先にいるのは、これまでの敵とは違うぞ! かつて『神』と呼ばれた古代の支配者。数多の神々と星の覇権を争い勝ち残った強者がいるのだ! 主とて容易く勝てる相手ではないわ!』
サクッと倒して終わろうと思った私に、ニャップは待ったをかける。
「ふーん? そんな強いのが、なんでこんなダンジョンの奥にいるわけ?」
『そんなの決まっておろう。かつて支配者として君臨した。だが、そいつらは一体ではなく何体もいたからな。お互いがお互いを削り合い、弱ったところを忌々しい地球の神々に封印されたのだ!』
どうやら、ダンジョンのボスは内輪もめをした結果、全滅させられたらしい。
「封印されてるの? それなら放置しておいた方が良いんじゃないの?」
『馬鹿を言うな。すでに封印は解けておる。今は力を取り戻すために、ダンジョンを使って人間の魂の欠片を集めておる。ダンジョンで死んだ者の魂の欠片を糧としているのだ』
「あ、だから、死ぬと何かが無くなるような気がするのね」
この世界にダンジョンが生まれた理由は、彼らの復活のため、ということであった。
『そうだ、そうして魂を全て奪われた者は狂気に囚われて廃人となる。だが、ダンジョンの中だから一部で済んでいるのだ。外でモンスターに殺されれば、一度で全てを失うことになる』
「なるほど、スタンピードの犠牲者とかは死んだままなのは、そういうことかぁ」
『そうだ、ダンジョンは魂によって深くなっていき、こうして100階層までたどり着いたダンジョンは、古代の支配者が復活しつつあるということだ。この星を支配する足掛かりとしてな!』
どうやらダンジョンを放置していると、地球がモンスターに支配されるらしい。
「うーん、まあ、よく分からないけど。放置もできないって感じだよね? どっちにしても進むしかないんじゃない?」
『それはそうだが、準備を整えておいた方が良い。もっとも、戦力になるのは主とその友人の2人くらいだろう。他の奴らはおとなしく帰らせた方が良いがな』
「ええぇ。一応コラボ企画だし、さすがにそれは難しいと思うけど……」
そう言いながらも、一応は『開拓者』のメンバーにニャップの言葉を伝えてみた。
しかし、彼らも一線級の探索者である。
命の危険を知ってもなお、私たちと共にラスボスに挑むと言ってくれた。
『まあ、仕方ない……か。ならば、最初は我と主と瑠衣が突撃する。そして、ヤツの初撃が終わったタイミングで瑠衣が他の者が入るように指示すればよい』
「なるほど、ちなみに初撃が終わったかどうかって、どうやって判断すればいいの?」
『簡単だ。主の服を見ればよい』
「……どういうこと?」
『初撃は……回避不能だ。だから、初撃が終わった時には、主の服は消えているだろう。それで判断すればよい。難しくはないと思うが……』
確かに難しくはない。しかし、それは私の全裸が不可避であることと同義であった。
「えぇぇ。他に方法は無いの?」
『完全即死攻撃だからな。身代わりの護符があれば凌げるが、主の服は護符と違って、どんな攻撃でも身代わりになるから、主の服で受けるのが最善だ』
私はニャップの作戦をみんなに伝える。
もちろん、私が好きで全裸になっているわけじゃないことも一緒に。
みんなもニャップの作戦が最善だと判断したため、その順番で突撃することになった。
『その前に、瑠衣とやらの右手に持つナイフに魔力を込めさせろ。相手の敵意を消すことができるからな』
ニャップの言葉を瑠衣に伝えると、瑠衣はナイフに魔力を込める。
すると、ナイフが薄く光り出した。
『そうしたら、この状態で相手の敵意を切るようにすれば良い』
「敵意? 見えるものなの?」
『主には無理だろう。だが、瑠衣なら可能だ』
私がダメ出しされているようで不服ではあったが、そのことを瑠衣に伝えると、彼女は意味が分かっているらしく、静かに頷いた。
私と瑠衣とニャップは扉の前に立ち、静かに扉を開け、中に飛び込んだ。
そこは巨大な部屋になっており、壁面は奇妙な彫刻が施されていた。
そして、その部屋の中央に、これまた巨大なタコが鎮座していた。
「タコ……?」
『タコ……だな……?!』
「どこからどう見ても……タコだよね? あれがそうなの?」
『……確かに、どこからどう見てもタコだ。だが、油断するな! あれこそが古代の支配者の一柱。大海の支配者、クトゥルフだ!』
「あれが……、クトゥルフ?!」
《えっ?! クトゥルフ?》
《いやいや、どう見てもタコだよね? あんな見た目だったっけ?》
《全然違うはずだと思うんだが……》
「なんか違うって言ってるんだけど」
『たわけ、そんな凡愚の言葉に惑わされるな! あれは間違いなくクトゥルフだ!』
珍しくニャップが焦りを滲ませた様子で断言した。
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