第16話 疑惑

《アヤカたんがステータス偽装?!》

《それって犯罪じゃね?》


犯罪と言われて、私の心に動揺が走る。


「えっ?! そ、そそ、そうなんですか?! いや、でも私はそんなつもりじゃ……。たしかに魔力が全然上がらないから、おかしいとは思っていたけど……」


《確かにステータス偽装は犯罪なんだけど……普通は高く見せるんだよな》

《当然だろう? ステータス高い方が良く見られるしな》

《低く見せる意味……真の力を隠すため? いや、意味がないな》

《でも、アヤカたん魔法使ってるの見たことないわ。自称魔法だったら、いつも使っているけどな!》

《それな! 魔力3ってこともあって、アレを魔法だと誰も思っていなかったしな!》


「いやいや、あれはれっきとした魔法ですよ!」


《どう見ても物理なんですけどね!》

《あれを魔法と言い張るのはアヤカたんか頭おかしい人くらい》

《アヤカたんが頭おかしいみたいに言うのやめてさしあげろ!》

《そうだそうだ! アヤカたんの頭は残念なだけでおかしいわけじゃない!》

《……草w》


「でも、普通の魔法は全然ダメなんですよね。確かに」


そう言って、私は初級魔法である『火球ファイアボール』を使った。

手のひらの上にゴルフボール大の火の玉が現れる。

それを壁に向かって投げつける、しかし、それは急激に減速し、壁までたどり着くことなく地面に落ちる。

しょぼい爆発音がして、直径10㎝ほどの窪みが出来上がっていた。


《しょぼい!》

《さすが魔力3!》

《予想通りの結果に戸惑いを隠せない……》

《やっぱり、アヤカたんに魔法は無理だったんや!》

《当然の結果に落ち込んでいるアヤカたんを抱きしめてあげたい!》

《↑通報しました!》


分かりきった結果とはいえ、あまりにしょぼい魔法に私が落胆していると、ニャップの声が頭の中に聞こえてきた。


『やれやれ、人間どもが……。中途半端な物差しで測った結果をもって、我が主を愚弄するとは、愚かしいにも程があるぞ』


「中途半端な物差し?」


『そうだ、人間どもの言っている魔力は、体外に発せられる魔力量を計測したものだ。その本人の魔力総量を計測したものではない』


「……?」


私には、ニャップの説明がよく分からなかったので、沈黙してしまう。

ニャップは猫のくせに、呆れたようなため息をついて、詳しい説明を付け加える。


『今の人間どもの技術では、魔力の出力量しか計測できんのだ。わかりやすく言えば、蛇口から水がどれくらい出るかは測れるが、タンクにどのくらい水が入っているか測れないのだ』


「なるほど……」


『だから、主の魔法は普通に使うとしょぼくなるのだ。だが、体内で魔力を変換してしまえば、問題なく主でも扱える、そういうことだ。だから計測しても大した数値が出ないだけだ』


「えーっと、ニャップ――この黒猫から聞いたんですけど、私は魔力を出す蛇口が小さいみたいで、だからステータスが低く出るみたいですね。でも、魔力のタンクは大きいらしくて、そのお陰でさっきは無事だったみたいです!」


《ニャップ? 黒猫?! しゃべれるのか?》

《なんか会話している風なそぶりはちょくちょくあったけどな》

《でも、猫喋っているのはみたことないんだが?》

《念話的なものかと》

《というか、その猫は何でそんなこと知っているんだ?!》


「あ、ニャップって言うのは、私がつけた名前ですよ! 本当は『ニャルなんとかプ』って言う名前らしいんですけどね!」


《何となく聞いてはいけない名前な気がしてきた!》

《俺もだ、さっきのは聞かなかったことにしてやろう》

《とりあえず何もなかった。いいね?》

《しかし、そうなると魔力の数値って、あまり当てにならないのかな?》


『そんなことは無いがな。その値は魔法の威力に直結する。そして鍛錬で上げることが可能だ。主みたいな例外を除いてな。だが、総量の方は基本的に変わらん。まあ、魔力は総量以上には上がらんから全く意味ないわけでもないがな!』


ニャップの話を視聴者にも、そのまま伝えた。


《それって、魔力高くても魔法の素質がない人もいるってことじゃね》

《そうだな、その話が本当なら、魔力が高くても総量が低ければ、素質はないってことになる》

《今まで魔力高くてドヤっていた連中が愕然としているのを想像してニヤニヤが止まらない!》

《むしろ、魔力低くても希望があるという方が重要じゃね?》


良く分からなかったが、ニャップの話は視聴者にとっては衝撃的だったらしく、私を置いてきぼりにした議論で白熱していた。


「ま、まあ、私みたいに前世が賢者だったから、魔力総量が多い人もいるかもしれないし!」


《賢者……アヤカたん、まだ諦めていないんですね》

《むしろ忍者だと(ry》

《でも、さっきの発言、黒猫が言ったってことになっているけど、実際にはアヤカたんが知っていて、黒猫が言ってたってことにしたかもしれないぞ》

《だとすると、アヤカたん意外と賢者? 言った自分が信じられないわ!》

《それな! 普段の言動見ていると、信じられないんだよなぁ》

《だが、それが罠である可能性も微レ存……》

《そんなこと、どうでもいいじゃないか! 俺たちにとって、アヤカたんは全裸忍者! それだけの話だ!》

《そうだな!》

《YES! 全裸忍者!(英語)》

《YES! 全裸忍者!(フランス語)》

《YES! 全裸忍者!(イタリア語)》

《YES! 全裸忍者!(ドイツ語)》

《YES! 全裸忍者!(アラビア語)》

《YES! 全裸忍者!(中国語)》

《YES! 全裸忍者!(ロシア語)》


私の前世が賢者だったという話がにわかに信じられようとしていたが、逆に世界規模で全裸忍者が定着してしまった。


「もうぅぅぅ! とりあえず、ステータス偽装はしていません! それじゃあ、どんどん進みますよ!」


《アヤカたんが拗ねた!》




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る