第14話 怒涛の進軍

結局、回避主体のタンクである私と、早紀の範囲収束した異能、そして瑠衣の強化された強化魔法によって、私たちは怒涛の勢いでダンジョンを突き進んでいた。


90階層からは、各階層に中ボスの部屋があり、そこには強めのモンスターが1体配置されている。

アヤメ様や二葉さん、三上さん、四宮さん、梨乃さんの提案により、中ボスは彼女たちが、道中は私たちが担当するということで、交互に休憩を挟みつつ進むことになった。

道中でモンスターを連れてくる役目も瑠衣に変わり、完全な2交代制で進む形になった。


「よもや、この階層でも戦力を分けて進めるとは……」


「これまでの苦労はなんだったのか……」


これまで攻略に苦労したのであろう、二葉さんと三上さんが、余裕で攻略を進める見込みが立っていることに、信じられないような表情をしながらつぶやいていた。


《アヤカたんのメンバー、強さ異常じゃね?》

《無駄に能力がかみ合っているのもあるんだろうな!》

《普通は90階層どころか40階層でも6人のフルパーティー必須やで》

《フルアーマータンクより堅い全裸タンク(回避型)が異常すぎるんや!》

《それに加えて超広範囲攻撃を一点集中させるとか、強化魔法が強化されるとか、意味がわからん》

《それな、しかも、瑠衣たんの装備効果、2本あるうちの1本っていうね……》

《もう一本の性能が割れていない=まだ隠された力があるという》

《というか、早紀たん、MPポーションがぶ飲みしていないか?!》

《うへぇ、いくら性能上がるからって激マズMPポーションがぶ飲みなんて信じられんわ》

《それがおまいと早紀たんの差なんだよ!》


チャットメッセージでも、90階層の敵を余裕で撃破する私たちのせいで、メッセージが飛び交っていた。


「ま、まあ、私たち3人だと、休む暇もないだろうし、コラボで良かったですよ! アヤメ様もいますし! 私も装備が消える危険が減ってWINWINってやつです!」


《合同で攻略じゃなくて、一色アヤメと一緒の方が大事だという……》

《そして、それよりも全裸回避の方が大事と言うね……》

《アヤカたんの本音が垣間見えるわ……》


「もうぅぅぅ! そんなこと言っちゃダメです! 今回は安全第一にクリアするんですよ!」


《ダンジョン最深部で安全第一というパワーワード》

《アヤカたんだけ生きるか死ぬかじゃなくて、全裸になるかならないかの戦いをしていて草》


「まあ、いいじゃないですか! さっさと先に進みますよ!」


こうして順調にダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。


徐々に敵が強くなり、倒すのに時間がかかり始めるが、90階層の時点での戦闘時間が10秒もかかっていなかったこともあり、時間がかかっていると言ってもせいぜい30秒ほどである。


「あ、ゴメン! 釣るのミスった!」


「そのくらいなら大丈夫!」


奥に行くごとに敵の間隔が狭くなり、リンクすることが多くなってきた。

しかし、早紀にとっては戦闘回数が減る方が都合がいいらしく、MPポーションの消費が気になり始めていたが、逆に少し余裕が出るようになった。

意外なほど順調に、私たちは95階層までたどり着いていた。


《あまりに普通に倒しているから忘れていたけど、この辺の敵って、即死攻撃使ってくるんだよな?》

《そうだな、『開拓者』もそれで攻略が難航していたって話だったけど……》

《その話の信ぴょう性が疑われるくらい全員無事なんだが……》

《確かに、アヤカたんの服も無事なんだが……》

《それはむしろ残念だな!》

《確かに残念だが……、この辺りでアヤカたんがやらかしそうな気配があるんだが?!》


「ちょっと! なによ、やらかしそうって?! 私は今回は安全第一なんだから! ぜーったいに服は消させないわよ!」


私は必死に装備が消えることを期待する視聴者に、問題ないことをアピールしていたが、視聴者はいつものことだと思って本気で取り合う様子はなかった。

私が頬をふくらませながらチャットとにらめっこしていると、瑠衣が後ろから声をかけてきた。


「そんな張り合わなくたっていいじゃない。今のところは特に問題もないわけだしね。変に気負うと逆にミスするわよ?」


「むむぅ……。まあ、そうだね! 今のところは良い感じだし、このまま最深部までサクサクいきましょうか!」


私の言葉に一同の顔色は少しだけ良くなるが、『開拓者』のメンバーの顔色はあまり良くなかった。


「そうは言ってもね。ここまでは、過去に来たことあるんだけど、この階層のボスでいつもやられちゃっていたから、この先はほとんど手探りなんだよね」


「仕方ありませんよ。ですが、今回はまだ身代わりの護符も残っています。この階層のボスを超えられれば記録更新ですよ。……超えられればですが」


二葉さんがため息交じりに言うと、一色アヤメ様も期待と不安の入り混じった声で言う。


「この階層のボスって、そんなに強いんですか?」


私が聞くと、アヤメ様が首を横に振った。


「ボス、それ自体はさほど強くはないんだ。ただ、この階層のボスは取り巻きを召喚するのが厄介なんだ。上の階層であれば問題は無いんだけどね。取り巻きも即死攻撃を持っているから厄介なんだ」


「そうだな。俺もターゲットを引き付けるだけで手いっぱいで、攻めに転じられないまま全滅ってのが、いつものパターンだ」


「なるほど、どうします? ここも4人だけでやりますか?」


「そうしたいところだが、厳しいだろう。俺たちはボスに集中する。君たちは取り巻きの対応をしてもらえないか?」


おどけた様子ながらも、真剣な表情で、二葉さんは私たちにお願いをしてきた。







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