第11話 ダンジョン事前攻略

準備を整えた終えた私たちは、ダンジョン攻略の日を待つだけ……ではなかった。

私たちは今、有明ダンジョンの70階層に来ている。


「こんにちは、私たちは今、ここ有明ダンジョンの70階層に来ています。これから今日は90階層までサクサクと進みますね」


《おつかれ! 今度のダンジョン共同攻略楽しみにしてますわ》

《今日は90階層のワープポイント解放かぁ》

《途中に深部のボス2体いるんですけどね》

《ボス攻略がついでみたいな扱いで草》


有明ダンジョンは珍しい水中型ダンジョンである。

中にいるのは水棲生物のようなものがほとんどである。

水中とはいえ呼吸は普通に可能な点はありがたいが、私にとっては鬼門なダンジョンでもある。


一つは水中と言うことで移動速度が落ちること。

これは回避型の探索者にとっては致命的である。


もう一つは攻撃の効果が変わる点である。

火属性は水中のため、発動しても一瞬で消されるし、雷属性にいたっては、水中であることから、全方位に拡散される。

そういったこともあり、同じ70階層のダンジョンと比べると難易度が高くなる。


他の二人にはほとんど影響がない制限なのだが、回避主体のメインタンクをすることになる私にとっては、常に全裸の危険が伴っているダンジョンでもある。


だが、今日の私は一味違った。


《あれ? アヤカたんいつもの装備じゃない?!》

《ホントだ、今日は全裸回避する気満々だな!》


さすがに一発くらっただけで全裸になる装備では厳しいので、私服(ユニ〇ロ製)を着てダンジョンに挑むのである。


《まて、これ装備じゃなくて、普通の服じゃね?》

《どう考えても普通にショッピングに来ました風な格好で草》

《背景との違和感が凄い》


「いやいや、そんなことはありませんよ。これでも世界のユニ〇ロが作った最新式の防具なんですから!」


そう……最新式の装備なのである。

しかも、価格もメチャクチャお買い得である。

ブランド物の装備が数百万するのに対して、最新式の装備がセットで数万円で手に入るとなれば、買わない手はないだろう。


《最新式って言うけど、安物だし……》

《まあ、でも全裸よりマシなんじゃね?》

《それな!》


「ほら、私たちが装備くらい良いのを買ってあげるって言ってるのに、最新式の装備っていう売り込みと値札だけ見て決めるから……」


「ユニ〇ロを馬鹿にしないで! コスパは最強よ!」


《命を賭ける難易度のダンジョン攻略にコスパを求める探索者w》

《さすがアヤカたんやね》

《まあ、普段もほぼ全裸みたいなものだしな! それよりは防御力に期待ができるはず……》


「ふっふっふ、今日はいつもの装備じゃないから、簡単に全裸にはならないよ!」


私は強気に宣言して、ダンジョン攻略を進んでいった。


そしてやってきた79階層。

この先には80階層のボスがいる。

そして、私の格好は既に半裸と言えるほどボロボロになっていた。

動きの制限された水中で早紀の異能メテオに当たりまくった結果である。


《まだ半分しか着ていないのに半裸……》

《これは終わるころには全裸じゃねーか!》

《だがよく見てみろ、服はボロボロだが、アヤカたんはピンピンしているぞ!》

《ユニ〇ロとはいえ最新装備だからな、性能はいいということか?》

《前にアヤカたん、全裸でもメテオ大して痛くないって言ってなかったか?》

《服の性能じゃなくて本体の性能とか草しか生えない》

《これみてユニ〇ロの最新装備で事故る探索者が増えるんじゃないか?》


「まだだ! まだ終わらぬよ! とりあえずボスはさくっと倒しちゃいますね!」


そう言って、ボス部屋に飛び込んだ。


80階層のボスは巨大な半魚人のような姿のモンスターである。


「ダゴンか、アイツは結構厄介だから気を付けて!」


私たちに気づいたダゴンは水のブレスを吐こうと身構えていたが、それよりも早く私が魔力を集中させながら懐に潜り込んだ。


五芒元素猛襲撃ペンタエレメントラッシュ!」


五行の属性がダゴンに襲い掛かると、瞬く間にダゴンは粉々になって砕け散ってしまった。

それと同時に、かろうじて私の身体を覆っていた服が、全て弾け飛んでしまった。


「え、ええ?! うそぉぉぉぉ!」


《何で唐突な全裸?!》

《前はここまで反動なかったよね?》

《もしかして……水中だからじゃないかな? 前に使った時、雷属性も付いていたよね?》

《それか! 意外とアヤカたんの新必殺技って、いい仕事してくれるよね》


「い、いい、いい仕事じゃないよぉ」


猫耳カチューシャを付けていない私の身体は、本当の意味であられもない姿になって、恥ずかしさのあまり蹲ってしまった。

辛うじて視聴者には配信サイトのモザイク機能が仕事してくれていたが、同行していた瑠衣と早紀には当然かかるはずもなく、生まれたままの姿をバッチリ見られた。


「とりあえず、それを着なさい」


そう言って、瑠衣は念のためと、いつもの装備を渡してくれる。

一方の早紀は……何故か向こうの方を向いていた。


「は、早く服を着てくださいまし! は、破廉恥ですわ!」


《早紀たんが何故か照れてる!》

《最近、一緒にいて仲がいいからなぁ》

《もしかして、好きな人のハダカ見て照れてるとか?》

《これは、間違いなく百合の香り!》

《しかし、瑠衣たんはどうなんだ? 三角関係?》

《俺は瑠衣たん推しだぞ! ぽっと出のヤツに取られるわけにはいかない!》


なぜか、コメント欄では私の恋人(?)が瑠衣か早紀のどっちかで言い争いになろうとしていた。


「もう、私はどっちも好きなんだから喧嘩しないでよ! 早紀も、もう服着たからね!」


私がそう言うと、早紀はこちらを振り向いたが、その頬はリスのようにふくらんでいた。


「今後は私服は禁止です! 毎回あんな破廉恥な格好して恥ずかしくありませんの?!」


何故か、その後10分ほど、早紀の前で正座させられて説教されることになった。

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