第10話 ダンジョンアタック準備
『開拓者』との会合の翌日、私と瑠衣、早紀はダンジョン向けの専門店街にやってきていた。
もちろん、普段から消耗品などの補充のために訪れることは多いが、今回は一週間後に予定されている有明ダンジョン90階層以降の攻略のための準備である。
「うーん、準備って言っても、何を準備すればいいんだろう」
「まずは最深部に行くわけだから、『身代わり』の護符は必須ね。もっとも1枚しか持てないけど」
「え? なんで?」
私は1枚しか持てないのかと驚いた。
「護符の身代わりは彩香の服と違って、ダメージを受けたときに死亡が確定した時、そのダメージを無効にするって仕様なのよ。だけど、1回で持っている全部の護符が燃え尽きるから、何枚持って行っても1回しか恩恵が得られないのよ」
「ほえぇぇぇ。知らなかったわ」
「彩香さん。顔が残念になってますわよ!」
「い、いや……私、貧乏だったから……。そんなもの買う余裕もなかったんだよぉ」
私が泣きまねして早紀に縋り付いた。
すると、何故か周囲の気温が10度くらい下がったように感じた。
「はいはい、彩香の分は買ってあげるから、とっとと離れなさい」
「ふぁぁい。瑠衣、ありがとう!」
瑠衣がジト目で私を見ていたが、買ってくれるというので、おとなしく早紀から離れてお礼を言う。
「でも、よく考えたら、私は『身代わり』の服持っているからいらないんじゃないかな?」
「うーん、効果は違うからね。効果の名前も便宜的に付けているだけだし、問題ないはずよ」
「そっかぁ」
とりあえず、私たちは1人1枚、身代わりの護符を購入した。
私の分は瑠衣と早紀が折半して買ってくれた。
「ありがとう、二人とも」
「いえいえ、お安い御用ですわ。九條の財力があれば、そんな護符の1枚や2枚余裕で買えましてよ」
「もう、私だって八尋の財力があるんだから! それに先に彩香に買ってあげるって言ったのは私なんだからね!」
瑠衣は何故か自分一人で買うと言っていたが、早紀も出すと言ってくれたので、それじゃあ折半でお願いします、と言ったところ、瑠衣が拗ねてしまった。
「まあまあ、瑠衣は今までたくさんお世話になっちゃったし。瑠衣ばかりに負担させるのも悪いと思っただけだよ」
「ふぅん。そんな気を使わなくてもいいのに……。まあ、そう言うことならいいわ」
どうやら瑠衣の機嫌も直ったので、私たちは買い物を続ける。
「他には何を買えばいいのかな?」
「あとはテントと寝袋、それに携帯食料と飲み水が三日分くらい?」
「ですわね。おそらく最低限でも、それくらいは必要でしょう。食料などは5日分くらいでもいいかもしれませんわね」
……どこの山に籠るつもり?!
「どこの山に籠るつもり?!」
思わず、心のツッコミが声に出ていた。
そんな私の言葉に、二人は不思議そうな顔をする。
「えっ? 最深部の攻略なんて、数日がかりは普通でしょ?」
「……」
最近こそ奥の方へ行くことも増えてきたが、これまで私は第一階層でちくちくとやってきた。
それもあってか、ダンジョンに行く感覚はほとんど、近所のコンビニに行くような感覚である。
だが……。
「配信って、どうするの? あまり長い時間配信してるの見たことないんだけど」
「それは進むときだけを1日に何回か配信するに決まっているじゃない」
「でも、奇襲とかされたら……」
「それは大丈夫よ。最近の攻略は休憩時に結界張れるようになっているからね」
そう言えば、かなり制限があるが結界を張るための松明があるという話を聞いたことがある。
かなり制限が多く、結界を張ると移動させたり、中から攻撃する、正しくは人が攻撃すると中からでも外からでも壊れるという欠点があった。
それだけでなく、結界を張る際にモンスターが付近にいないことも条件になっていて、私は何の役に立つんだろうと思っていた。
それでいて、金額が1本でも身代わりの護符が100枚は買えるであろう価格になっているので、誰も買わないだろうと思っていたが……。
「なるほど、こういった時に使うのかぁ」
「まあ、人が攻撃すると簡単に壊れるから、有象無象のいる浅い階層だと使いにくいので、実質は私たちみたいなトップ探索者専用になるんだけどね」
「そういうこと。私たちも10本くらい買っていきますわよ」
「えッッッ?!」
一本数千万するアイテムを特売品の10本セットみたいに買おうとする早紀に驚きの声を上げる。
しかし、早紀は事も無げに言った。
「まあ、今回は『開拓者』の攻略ですので、私たちは使うことはまずないと思いますが……。使わなかったとしても、今後は使うことも増えるでしょうし、無駄にはなりませんわ。先行投資ですのよ」
先行投資なんだろうけど……。
「数億円を一瞬で使うとか……早紀、おそろしい子!」
「大丈夫ですわよ。九條の家の資産もありますが……。そもそも最深部の収入は数百万単位。これだけ買っても黒字ですわ」
「ほぇぇぇ」
想像のできない世界に私はただただ驚くことしかできなかった。
「まあ彩香も、こういう世界に入ってきたんだから、早いとこ慣れることね」
「う……わかったわ。そう言えば、学校はどうするの?」
「学校はもちろん休学申請出していくわよ。ダンジョンアタックともなれば、許可が下りないなんてことはまずないから安心して。もちろん、帰ってきたあとで補習だけどね」
「うぇぇぇ」
補習と聞いて、私はただ呻くことしかできなかった。
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