第6話 新必殺技? 新魔法ですが何か

「いやいや、まだ何も教わっていないんですけど……免許皆伝?」


「そうです。あなたの強さなら、型を学ぶ必要はありません! ですから……もう来なくて大丈夫です!」


良く分からないが、明らかに適当なことを言って私を追い出そうとする気が満々であった。


「いやいや、私は何としても、ここで型を学ぶ必要があるのです!」


学ばなかったらニャップからの特訓が待っているので、私も必死である。


「型と言うのは弱者のためのものだッ! 強者にとって型など不要だッ!」


一方の講師も、先ほど死にかけたので明らかに必死であった。


この勝負、負けた方が――死ぬ(ほどつらい目にあう)!


一歩も引かない二人の戦いに終止符を打ったのは、黒猫のニャップであった。


『もういいだろう。ここでは主の力は引き出せぬよ。諦めて特訓に戻るしかないな』


「いやぁぁぁぁぁ、私はここで強くなるんだもん! 特訓はいやあああ!」


必死で嫌々する私を引きずって道場を後にする。

去り際に、ニャップは道場全体に念話を送る。


『迷惑かけたな、お前たち。せいぜい、そのゴミみたいな力でお遊戯にでも興じるがよい!』


それを聞いた道場の人たちは全員へたり込んで、足元に臭い水たまりを作っていた。

しかし、その時の私にとってはニャップの特訓の方で頭がいっぱいだったため、そのことに全く気付いていなかった。


三度、公園に戻った私たちは、広場の中央で向かい合う。


『大したことのないやつらだったが、それでも収穫はあったな』


「収穫?」


『主の最後に放った技、あれは五行拳の一つ炮拳だ』


「なんですって?! 知らないうちに新しい型をマスターしていた?」


『そうだ、恐らくは身体強化によるものだろう。それで思ったのだが、主は魔法が得意なのだろう? 身体強化をすれば型の習得も早くなるだろう』


まさに雷に打たれたような衝撃を受けた。


「それじゃあ、身体強化して特訓すれば、もっと楽だった?」


『そう言うことになる……言っておくが、最初の型は地道に練習しないとダメだぞ? 炮拳は崩拳に続く型だからうまく行っただけだ』


「なるほど、と言うことは、身体強化して流れるように型をつなげていけばいいのかな?」


『そういうことだ、では、早速始めるぞ!』


こうして、私の特訓は再開された。

しかし、最初の時とは異なり、身体強化の魔法を使って良いということと、型をつなげるような動きで良いということだったので、あっという間に全ての型を習得してしまった。


『くくく、さすがは我が主。最初からこうすればよかったのかもしれんな!』


「それは先に言って欲しかったわ」


『良いではないか。こうして新たな魔法を習得したわけだからな!』


私は魔力を両腕に集中させると、ニャップの作り出した的に向かって連撃を放った。


五芒元素猛襲撃ペンタエレメントラッシュ!」


私の連撃を受けた的は、瞬く間に全体を氷に覆われ、雷撃と炎に包まれたツタに雁字搦めにされてしまった。


『ふふふ、なかなかやるではないか。これで主も少しだけ強くなったな!』


「うん、この技、確かに強いよ……でもね……」


そう言って、私は言い淀んで、自分の体を見る。

普通の服ではあるが、既にボロボロである。


それだけではない。


私の身体も、所々傷ができていた。

傷とは言っても下級ポーションで治る程度の小さな傷である。

本当に大したことない、本来であれば……。


「これって、使うと私にもダメージ来てるんじゃないの?」


『まあ、仕方あるまい。ダメージと言ってもかすり傷じゃろう。心配するだけ無用だ』


「確かに、大したダメージじゃない。けど……、あの装備の付与効果発動するよね?」


私が最大の懸念について訊いてみると、何でもないことのようにニャップは言い放った。


『ん? ああ、そうだな。当然ながら発動する。まあ、大したことないだろう。せいぜい数分程度、服が消えるだけだ』


「大したことありますから! もう、迂闊に使えないじゃない!」


『大丈夫だ、問題ない。一度消えてしまえば、あとは使い放題だぞ!』


「問題ありまくりだわ! これは基本的に使わない方向で行くわ!」


私の言葉に、ニャップが何故か『意味がわからん』的な表情をする。

見た目は猫なのに、表情が豊かすぎではないだろうか……。


『何を言っておるのだ? せっかく新必殺技を習得したのだ。配信、とやらで盛大にお披露目をしようではないか!』


「新必殺技じゃなくて、新魔法ね! それはそれとして、全裸確定配信とかありえないから! それじゃあ、まるで私が変態みたいじゃない!」


ニャップが『何を今さら』的な表情に変わり、私の頭に念話が飛んでくる。


『モンスターの攻撃で服が消えると言っても、主が自分から当たりに行っている可能性もあるではないか。それなら自分の攻撃で服が消えても大して変わらんよ』


ニャップの言葉に堪忍袋の緒が切れた私は、両手に魔力を込めてニャップに殴りかかる。


「自分から脱ぐ?! そんなこと! あるわけ! ないでしょうがぁぁぁ!」


ブンブンと拳を振りつつ、文句を言うが、ニャップは涼しい表情で全て回避する。


『ふふふ。やっとやる気になってくれたか。それじゃあ、少し遊んでもらおうか! 大丈夫だ、死ぬことはせん』


そして、私とニャップのキャットファイトが始まった……。



数分後、私は地面にうつぶせに力尽きていた。


「うきゅぅぅ……」


『久々に遊んでくれたと思ったら、もう終わりか? つまらんのぉ』


「くそっ、この化け物め!」


『ほっほっほ。負けは負けだ。おとなしく配信をしてもらうぞ! そうだ、この間の娘も一緒に連れていくがいいぞ。我が直々に鍛えてやる』


波乱の配信が始まろうとしていた……。

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