第7話 約束された未来

翌日、私は早紀を誘ってダンジョン探索へとやってきた。

この間のことがあったので、早紀はダンジョンに行きたがらないかなと思ったが、完全に杞憂だった。


「ダンジョンでは大変な目に遭いました。けれども! 彩香さんが行かれるのでしたら、私も行きますわ!」


ダメかもと思って誘った時の答えがこれである。


「え、えっと。今日も二人きりですか? 瑠衣さんも一緒に?」


食い気味に行くといった直後に、何故かモジモジしだして、遠慮がちに聞いてくるという謎の挙動をしていた。

しかし、今回は二人きりであることを伝えると、目を輝かせて「今回こそ良いところを見せて、彩香さんと……」のようなことを言い出したため、聞こえなかったふりをした。


「それじゃあ、さっそくダンジョンに行きましょうか!」


「はい、よろしくお願いしますわ!」


私たちは奥多摩ダンジョンに向かった。

このダンジョンも特殊なダンジョンになっていて、巨人族しか出現しないダンジョンになっていた。


その巨体から繰り出される攻撃は非常に強力で、しかも巨体ゆえに耐久力も

あるという非常に厄介な相手である。

しかし、動きは比較的鈍重なため、スピード重視の私にとっては比較的組しやすい相手でもあった。

まさに、新魔法のお披露目にはうってつけの相手である。


「こんにちは! 今日は私の新魔法のお披露目のために、ここ奥多摩ダンジョンへとやってまいりました。」


《こんにちは! 今日も期待しています!》

《でも新魔法かぁ。アヤカたんが強くなると全裸のチャンスが減るんじゃないか?》

《それは困るな……》

《いやいや、まだあきらめるには早いぞ!》

《そうだな、何だかんだ言って、毎回期待に応えてくれるからな!》


「今日も友人の早紀と一緒に来ています。彼女のレベル上げも兼ねて、サクサク攻略していきますね!」


巨人族は強いものの、回避アタッカーである彩香と後衛魔法職である早紀のペアにはまともにダメージを与えることすらできず、文字通りサクサクと狩られていた。


《二人だと全く隙がないな……》

《これは初のパーフェクトクリアなるか?》

《というか……相変わらず早紀たんのメテオがヤバいな。主にアヤカたんに対しての殺意が高い》

《もはや、モンスターじゃなくて早紀たんを応援した方がチャンスが高まるんじゃね?》

《それな!》


などと、私を全裸にすべく、早紀を応援する視聴者まで現れ始めた。

実際に、巨人族の攻撃は私にとっては遅すぎて、全く脅威ではなかった。

さらには、その巨体ゆえに不意打ちなどもできるはずがなく、戦闘中はモンスターの攻撃じゃなくて早紀の異能の方に気を付けて戦うという状況であった。


そうは言っても、早紀の異能ですら回避は慣れたもので、全く危なげなく戦うことができていた。

そして、1時間と経たずに私たちは60階層にあるボスの部屋の前までたどり着いた。


この階層のボスはジャイアントガーディアンという全身を甲冑に覆われた巨人である。

その装甲ゆえに耐久力が非常に高く、また、甲冑に付与された効果により魔法系ダメージがほとんど通らないという奥多摩ダンジョン攻略するパーティーの最初の難所とも言えた。


今回の新魔法は、このボスで行う予定だ。

魔法が効きにくいということだが、ニャップが言うには私の魔法であれば、問題なく通るらしい。


「今日は、こちらのボスに新魔法の犠牲となってもらうことにしますね」


《ボス頑張れ! お前だけが頼りだ!》

《一矢報いてくれぇぇぇ!》


視聴者は私のあられもない姿を見るために、ボスにエールを送っていた。

魔法を使った結果、どうなるかはあえて視聴者には伝えないようにしていた。


私は両腕に魔力を集中させ、ガーディアンを連続で殴りつける。


五芒元素猛襲撃ペンタエレメントラッシュ!」


私の拳を受けたガーディアンの全身がツタで覆われ、炎、電撃、氷結の嵐に襲われる。

その効果が切れると、前と変わらない甲冑に覆われた巨体が姿を現わす。


《おおお?!》

《マジか?!》

《さすがアヤカたんだぜ!》


ボスの強さにチャットがにぎやかになる――わけではなかった。


《でも、なんでいきなり全裸なんだ?》


そう、魔法と同時に受けた反動によって私の身体はあられもない姿になっていたのである。

視聴者たちは私が突如としてあられもない姿になったことでわき立っていたのだ。


《これは……。もしかして技を使った時の反動じゃね?》

《なるほど、自傷系のスキルみたいなものか!》

《この新魔法は、もしかして俺たちの救世主なんじゃないか?!》

《たしかに、全裸と言う約束された未来を俺たちに与えてくれる?》


チャット欄が好き勝手な話で盛り上がる中、再び新魔法を使うために魔力を集中させる。

初回は全裸になるというためらいがあったが、一度なってしまい躊躇う理由がなくなったことにより、私は連続で新魔法を叩き込んだ。


「五芒元素猛襲撃! 五芒元素猛襲撃! 五芒元素猛襲撃! 五芒元素猛襲撃! 五芒元素猛襲撃! 五芒元素猛襲撃! ……」


私の怒涛の新魔法ラッシュを喰らったガーディアンは、あっという間に肉と鉄の混ざった塊となってしまった。


《この魔法? 必殺技、攻撃力がえぐいな!》

《自傷系って言っていたけど、アヤカたんがダメージ受けているように見えないんだが……》

《もしかして、受けるダメージ自体は大したことない、ってことか?》

《ありうるな……。まるでアヤカたんを全裸にするための魔法みたいだ》

《なんだと?! 言われてみれば、確かにそうだな……》

《まさか、自ら全裸になる必殺技を編み出すとは……。アヤカたん恐ろしい子!》


「いやいや、違いますからね! 結構ダメージ大きいですよ。HPが高いから大したことないように見えるだけですから! 今日は使いましたけど、特別ですからね! それと必殺技じゃなくて魔法です!」


《どう見ても必殺技ですが……。魔法には……見えませんね》

《いやでも、この必殺技を使わせれば俺たちの勝利が確定すると考えると画期的じゃねーか?》

《そうだな! これは今後の配信が楽しみになってきたぜ!》


私がボスを瞬殺したことに、チャット欄の盛り上がりが最高潮に達した。

決して、この魔法で全裸確定になるからではない……と思いたい彩香であった。



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