第3話 ダンジョンの秘密

ダンジョンで拾った、というより絡まれた黒猫であるニャップを連れて帰って瑠衣に見せた瞬間、彼女の表情が険しくなった。


「……なんてものを拾ってきたのよ?!」


「いやぁ、懐かれちゃってね。離れてくれないから仕方なく……」


見た目は猫だが、私や早紀を瞬殺するくらいの強者である。

平静を装っていたものの、瑠衣に被害が及ばないか気が気ではなかった。

何とか誤魔化せないかと思っていたが、勘の鋭い彼女には通用しなかったようで、かなりきつめの口調で詰められる。


瑠衣とニャップの板挟みとなり、目からは涙が、背中からは冷や汗がにじみ出てきそうになる。


『案ずるな。主の困るようなことはせぬ。強いとはいえ所詮は人間。主にするように遊んだりはせんよ』


安心していいのか、暗にまた私で遊ぶ気であることに戦慄していいのか分からないが、とりあえず瑠衣の安全は確保されたと思って良いのだろうか。

なんとか無害であることを瑠衣にアピールするために、私は必死で取り繕う。


「あ、ああ。大丈夫よ。瑠衣に危険は無いはずだから!」


「……それって、彩香は危険ってことでしょ? 気に入らないわね……。そもそも彩香はそいつが何者かわかっているの?」


「……黒い猫? 猫の割には、ちょっと強いみたいなんだけど……」


分かるわけないよ?! と言いたい気持ちを押さえて、できる限りの情報を瑠衣に伝えようとした。

しかし、私自身、このニャップの情報についてほとんど知らないことを再認識しただけであった。


「……本体じゃないみたいだけど、こいつはイレギュラーよ。それも100階層じゃ済まないレベルのね!」


「えええ?! 拾ったの30階層なんだけど!」


ヤバいを通り越した、想像の及ばないレベルの相手だったことを知って、驚愕する。

そんな私の状況を見て、彼女はため息をついた。


「どういうことなの? アンタみたいなやつが30階層に出るはずないんじゃない?」


瑠衣は何かを知っているのか、確信めいたようにニャップを詰問する。


『ふふふ。珍しいな。我の本質を見れるほどの人間がいるとはな。しかも、それを知りてなお正気を保っておるとは、僥倖である』


「ニャップ?! どういうことよ!」


二人の世界に入りそうになっていたので、慌てて私もニャップを問い詰める。


『そうだな。これから主の世話になるわけだし、少しくらいは話しても良いだろう。ダンジョンの意味についてな』


「ダンジョンの意味? 資源不足から人類を救うために神から与えられた恩恵、って聞いたことがあるけど」


私の言葉を聞いたニャップが鼻で笑う。

猫のくせに。


『ふふん。そんな戯言を信じているヤツがいるとはな。少なくともそっちのヤツは信じていないぞ?』


「えっ?! マジで?」


「そうね。むしろ、それを信じているような頭がお花畑の人間なんてほとんどいないわよ」


さりげなく瑠衣に酷いことを言われて落ち込む。


「あッ! 彩香は別よ! 彩香のその純粋さが長所なんだから! そのままでいいのッ!」


『物は言いようだな……』


「そこ、うるさい!」


落ち込んでいる私を慰めようとする瑠衣とニャップが再び盛り上がる。


『まあ、主の純粋さは長所として我も認めておるからな。我が人間について認めるなど滅多にないことだぞ!』


「ニャップ! ありがとう!」


感動してニャップに抱き着くと、少し鬱陶しそうだったが、私の腕の中でおとなしくなった。


『ふむ、主の腕の中は安心できるな! まあ、そんなことはどうでも良い。ダンジョンが何故できたのか。それは我々……というと語弊があるな、我と近しい存在が地球を侵略するための前哨基地みたいなものだ』


「やっぱりね。さしずめイレギュラーはダンジョンの管理者みたいなものということでしょ?」


『鋭いな。イレギュラーは、我と近しい存在の眷属でもある。そ奴らが姿を現わすのは人間を殺して魂をダンジョンの糧とするためよ。モンスターに倒されるものもおるが、それに安心しきっている人間を葬るためにな』


「やはり、ダンジョンの最奥には管理者、いわゆる『神』がいるのかしら?」


『なんだ、分かっているのか? そうだ。ダンジョンの最奥には我と近しい『神』がダンジョンを統べる存在として眠っておる。いまだに最奥までたどり着いたものもおらんからな、目を覚ましたものもいないが……。このままダンジョンにエネルギーが貯まれば、いずれは目を覚ますだろう』


「目を覚ますとヤバい?」


『そうだな。それまでに人間が対抗できる力を付けられなければ、かつてのように彼らに支配されることになるだろう』


言っていることはよく分からないが、あまり良くない状況であるように思えた。


「それって、良くないのかな?」


『少なくとも人間にとっては好ましくないだろう。我にとっても、玩具が無くなるのは好ましくはないな』


「玩具って……」


『遊べる相手ということだ。主のようにな!』


「それで、どうすればいいの?」


『強くなる。それしかないな!』


「いや、最近レベル上がっていないんだけど……」


『……主のレベルでは30階層程度では上がらんだろうな。せめて90階層以上にはいかないとな。しかし、主は戦い方の基本ができていない。どうだろう、武術を習得するというのは』


「えっ? 武術って、私は賢者で……、いわゆる魔術師系の職業なんだけど?」


『はっはっは。冗談は頭の中だけにしとけ。とりあえず、主はこれから武術の特訓だな!』


何故か、なし崩し的に武術の特訓をすることになってしまった。

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