第2話 外なる世界の黒猫
「一体、どういうこと?!」
《何が起こった?!》
《なんかボス部屋の黒猫を見た直後に早紀たんが死亡したらしい》
《しかも、アヤカたんも全裸だぞ?!》
《不可視の攻撃? いやいや、アヤカたんの全裸はともかく、早紀たんの即死はヤバくね?》
突然の大ピンチに私だけでなく視聴者も大混乱であった。
「いったい何をしたの?!」
『ほう、我が声を聞いて、生き残る者がいるとは……非常に興味深い』
《なんかアヤカたんが黒猫に話しかけているぞ!》
《もしかして、黒猫が何か話しかけてきているのか?》
『人間は脆弱だからな。我が少しでも力を込めて言葉を発するだけで、すぐに死んでしまう』
「死んでいないけど?」
『ふむ、その装備の効果かと思ったが、貴様、装備が無くても我が声に耐えるとは……実に面白い!』
「御託は良いから! とりあえずは……
私は右の拳に魔力を集め、黒猫に叩き込む。
「アンタはもう、死んでいるわ!」
しかし、黒猫の身体は傷一つ付かなかった。
『なるほどなるほど、魔力を体に直接叩き込んで、爆発させるのか。面白いな!』
「効かない? なんで?!」
私の魔法が全く効かなかったことに驚く。
『簡単なことよ。大海に焼けた石を突っ込んだところで、少し水面を揺らすだけ。それと同じことだ!』
《明らかに黒猫と喋っている風なんだけど、俺からはアヤカたんが独り言を言っているようにしか見えない!》
《それな! でも、念話とか、相当高位なモンスターしか使えないはずなんだが》
『ふむ、少し話をしたいところだが……。ここまで強い人間に合うのは久しぶりだからな。少し遊んでもらうぞ!』
その言葉が聞こえた直後、黒猫の周囲に無数の魔法陣が描かれる。
そして、魔法陣から黒いビームのようなものが私に向けて発射された。
慌てて回避するものの、何発かは回避が追い付かず、手や足を貫通する。
「うぐっ! 痛っ!」
激しい痛みに耐えきれず、私は地面にうずくまってしまった。
『ほうほう、これも耐えるとは。かなりの逸材だと思ったが、これはまことに興味が尽きぬな!』
《そんな! あの隕石でもダメージほとんど受けなかったって言っていたアヤカたんがめちゃくちゃ痛そうにしているんだが!》
《目黒ダンジョンって30階層までだろ? イレギュラーだとしても強さがおかしくね?》
《アヤカたん、この間は普通に40階層のイレギュラーボスとも戦ってた気がするんだが?》
そんな視聴者の心配の声もむなしく、再び黒猫の周りに魔法陣が浮かび上がる。
そして、魔法陣から放たれたビームは私の全身を刺し貫いた。
それと同時に全身の激痛を感じながら、私の意識は暗転した。
意識が戻ると、私は目黒ダンジョンの入口に立っていた。
不思議なことに体は元通りなのだが、自分の中の何かが欠けているような異質な感覚があった。
配信の方は、私が死亡したことですでに終了している。
チャットに私のことを心配するメッセージが大量に書かれていたので、一言『大丈夫です』とだけ書いた。
「彩香さん! ご無事でしたか?」
「ゴメン、やられちゃった。早紀は大丈夫?」
「私も気付いた時には、ここに立っていましたわ」
「あの黒猫はヤバいわ。再挑戦しても勝てなさそうだし、今日はこの辺で終わりにしましょ」
『それが良いぞ。我も久々で大変楽しめた』
帰ろうとした時、先ほど嫌と言うほど聞かされた声が頭の中に響く。
「え?! どういうこと?」
『心配するな。先ほどは、遊ぶだけ、と言っただろう。今はお前たちに危害を加えるつもりはない。声を聞いても何も起こらんだろう?』
それと同時に足元にさらりとした感触があったので、足元を見ると先ほどの黒猫が私の足にすり寄っていた。
「………………?!」
声にならない叫びを上げながら、私は飛び上がった。
一方の早紀は、何が起こったのか分からないという様子で、目を白黒させていた。
『つれないな、我が主は。こうやってすり寄って誠意を見せているのに避けようとするとはな……』
「どういうことよ! さっき、私を殺したくせに! しかも主って、どういうこと?!」
グチャグチャな感情の中、頭に浮かんだことを、そのまま黒猫にぶつけてしまう。
『だから、遊んでいただけ。と言ったでないか。今の我は猫の姿だろう? じゃれついていたら、ちょっと加減を間違った程度のことで目くじらを立てなくてもよかろう。それに、飼い主は必要だろうに、猫だからな!』
「お断りです! というか、あなた私を殺せるぐらい強いじゃないですか。飼い主なんて要らないですよ」
『いやいや、我がじゃれつける相手など、そうそう居るものではない。こうして、何年も探してやっと見つけた人間なんじゃからの。たいていの人間はじゃれつくどころか、話しかけた瞬間に死ぬから、主みたいにはいかないのじゃよ』
「お断り……したいけど、したら、他の犠牲者出すつもりでしょ?」
『犠牲者を出すつもりは無いぞ。じゃれつく相手を探しているだけで、人がどんどん死んでいくだけじゃ』
「それを犠牲者を出すって言っているのよ! 分かったわ、あなたの飼い主になればいいんでしょ」
『わかってくれて助かる。我の名前はニャルラ……ニャルホープとでも呼ぶがよい』
「ちょっと長いわね。ニャップでいいかしら?」
『……いいだろう』
そう言って、黒猫は私の腕の中に入ると丸くなった。
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