第二章 ダンジョンの奥に潜みし太古の支配者

第1話 ダンジョン修行

騒がしい日常が落ち着き始めてきた頃、私と早紀は二人で目黒ダンジョンに潜っていた。

今日の目的は早紀のレベル上げであるが、もちろん配信も行う予定だった。

あわよくば私のレベルも上げたいと思っているが、あの日以来、かなり奥まで進んでいるにも関わらず、一度もレベルアップをしていなかった。


「こんにちは! 今日は友達のレベル上げのために、ここ、目黒ダンジョンへと来ています!」


目黒ダンジョンは通称『蟻の巣』と呼ばれるダンジョンでアリ型のモンスターが大量に発生する初心者向けのダンジョンへとやってきた。


《アヤカたん! ニュース見たよ!》

《政府主導の探索者クランに組み込まれる超新星アヤカたん!》

《何でここまでの逸材が今まで知られていなかったのか……》

《隣にいるのが友達? って、アレ、九條早紀じゃね?》

《マジか! 確かに同じクランで活動するって話だったけど……》


さっそく、新クランと早紀の話題で持ちきりになるが、今日の本題は彼女のレベル上げなので、サクサク行くことにする。


「今日は、私が前衛で敵を引きつけつつ、早紀が異能で敵を薙ぎ払う感じになりますね」


《マジか?! 九條の異能って、なかなか見る機会無いはずなんだが、配信して大丈夫なのか?》

《それな! ちょっと前まで国家機密扱いじゃなかった?》

《クランのおかげで規制が緩んでる?》

《むしろガバガバじゃね?》


あっという間に話題をかっさらう早紀に、さすがは九條の後継者だけはあるな、と私は感心していた。

この分だと、私の方は平穏に配信できそうだと安心していた。


《今日のダンジョンは初心者向けだし、アヤカたんの本気は見れないかな?》

《本気と書いて全裸と読む……》


「今日こそは大丈夫ですよ! この程度の敵にやられるようじゃ、私もまだまだってことですからね!」


《やられる、っていうか1ダメージでも受けたらアウトな件》

《まあ、アヤカたん自体が回避主体のアタッカーだしね》


……どうやら少しは期待されているようだった。


「ま、まあ、早速潜っていきますよ!」


そう言って、私はそこら辺のアリを集めては、早紀の異能で大量の隕石を降らせて殲滅する、と言うことを繰り返しながら、奥へと進んでいく。


《これって、敵の攻撃より早紀たんの攻撃の方がヤバいんじゃね?》

《確かに、味方の魔法でも普通に当たるからなぁ》

《なんか、アリを集めてくる時より、降ってくる隕石を避けてる時の方が必死に見える……》


「あの……、本当に大丈夫ですの? なんか視聴者の方が私の異能の方がヤバいと言っているようなのですが」


「大丈夫! って、前に一回試したじゃない。この装備無くても、当たってもダメージほとんどなかったの見てたでしょ?」


《どういうこと?! 装備の『身代わり』無しでも、あの隕石に当たってダメージほとんど無いって……?!》

《アヤカたん、回避とチート装備だけかと思ったら、タンクも真っ青な防御力(全裸)だった?!》

《チートが過ぎるんだが! というか、その『身代わり』の装備いらなくね?》

《それ以上はいけない。アヤカたんの全裸が見れなくなるじゃないか!》


「何だかんだ言っても、この装備優秀だからね。『自動修復』のおかげで、装備買いなおす必要ないし!」


《政府主導クランに参加する探索者なのに、装備買いなおすのを躊躇するってどういうこと?》

《やはり政府は探索者を搾取しているんじゃないか?!》


「ちょっと前まで底辺探索者だったからね。お金は節約できるときに節約しないとでしょ? 全裸になると言っても、全て回避すれば問題ないわけだし!」


今日は初心者向けダンジョンということと、新クランの話題があったせいか、普段よりもチャットメッセージが多く流れてきていた。

私の方も、今日は攻撃を早紀に任せているため、私が発言しながら戦えるというのも大きいのかもしれない。


終始、和やかなムードでダンジョンを進んでいく。

途中現れる敵もアリだけなので、数が多いことと遠距離攻撃として酸を吐いてくる個体がいるくらいで、今のところ一度も攻撃を受けることなく、ラスボス手前の29階層までクリアした。


「さてと! 今日のメイン。目黒ダンジョンのラスボスに挑戦するよ!」


《ここのボスって女王アリ?》

《だな! ボス本体は大したことないんだけど、倒すのに時間がかかるんだよな》

《取り巻きを呼ぶのも結構しんどいけどな!》

《所詮アリ、とはいえ、呼ぶ数が半端ないからなぁ》

《前に別の探索者がアリの海に呑み込まれた動画みたわ》

《うへぇ、それはヤバいな!》

《死んでも終わりという訳じゃないけど、その探索者はアリ恐怖症になったらしい……》

《探索者はダンジョンでの死亡は回復できるから、体は無事でも心が壊れる人多いよね。》

《噂では、死ぬと魂が少しずつ削られていくらしいけどな。それで最終的には発狂した挙句に廃人コースだと言われている》

《そう言えば、イレギュラーって神話生物なんだけど、やっぱり関係しているのかな?》

《SAN値! ピンチ!》


「まあ、雑談はここまでにして、ラスボスに突入しますね!」


そう言って、私は扉を開けると、部屋の中には――。


1匹の黒猫が鎮座していた。


「何、あれ?」


『脆弱なるものどもよ。待ちわびたぞ!』


頭の中に恐ろしいまでの圧力を伴う声が響いた。


その直後、早紀が倒れたので、慌てて体を支える。


「し、死んでる……!」


早紀の身体は既に冷たくなっていた。


――そして、私の身体は何故か全裸になっていた。

















階層はそこまで深くなく、30階層までしかない初心者向けのダンジョンでもある。

単体が弱く大量に発生するため、魔法使い系の探索者がレベル上げなどに使うことが多い。

私も魔法使い系の探索者(自称)なのだが、このダンジョンとの相性は良くなかった。

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