第19話 異能

百合子と早紀はお互いに30mほど離れた位置で向かい合った。


そして、審判役の男性が二人の中央に立つと、ルール説明を行う。


「この度は九條家における決闘を習わしに従い、以下のルールによって実施する。

一つ、中央の境界線によって分かたれた領域に限り自由に移動可能とする。

一つ、攻撃は異能をもって行うとし、武器や魔法を使うことを禁ずる。

一つ、対戦相手の動揺を誘うような行為を禁ずる。

一つ、直接危害を加えない装備の使用を許可する。

以上、双方問題ないな?」

「「はい」」

「では、開始!」


審判のルール説明の確認を終え、ついに勝負が始まった。


先手を取ったのは百合子の異能であった。


天雷テンライ


いつの間にかキツネの耳と尻尾を生やしていた彼女の周囲に怒涛のように雷が落ちる。

その範囲は広く、中央寄りに移動していたのもあり、闘技場のあらゆる場所に雷が落ちる。


地塔ジトウ


わずかに遅れて早紀の異能が発動する。

それは自分の周囲の地面を塔のように盛り上げるだけのものであった。

たったそれだけのことではあるが効果は覿面で、彼女の近くに落ちる雷は全て塔に吸収されてしまう。


「そんな攻撃、効きませんよ。お母様」

「ふん、小癪なマネを。だが、防御だけでは私は倒せません! 雷砲ライホウ


百合子は両手に雷を帯びさせると、早紀に向けて雷撃を放つ。

それは光の帯となって、一直線に彼女へと向かっていった。


「その程度、対策済みです! 地城砦チジョウサイ


早紀は雷撃を阻むようにして、地面を盛り上げて砦のように自分を取り囲む。


「ふん、自分を囲むとか愚かなことね。だが、そんなことをしたらお前も攻撃できまい。私が壊してしまえば終わりだ! 雷爆ライバク


百合子は雷撃の球を作り出し、砦に向かって投げる。


「ふん、壊れてしまえ!」

「甘いですわ。これがただの壁だとでも思いまして?」


不敵な笑みを浮かべる早紀の言葉を証明するかのように、土の壁から砲弾のような塊が雷球に向かって放たれる。

塊に当たった雷球は壁に届くことなく、巨大な爆発を引き起こしながら消えてしまった。


「な、馬鹿な! クソ、だが、これなら。雷――」

「させませんわ。流星リュウセイ


百合子が再び壁を攻撃しようと雷撃の球を大量に作っている間に、早紀は異能の力を解放する。

それは彼女の周りに赤熱した巨大な隕石を大量に降らせた。


それは、単純に地面に落ちるだけではなく、落ちた瞬間に周囲に爆発を起こし、それが収まった後も燃えるような高熱の領域を作り出していた。

最初のうちはかろうじて避けていた百合子も、次第に追い詰められ、ついには爆発に巻き込まれてしまった。


「きゃぁ!」

「そこまで! 勝者、早紀!」


審判の声を聞いた彼女は、すぐに異能を解除する。

すると降ってくる隕石だけでなく、それによってもたらされた高温の空間も何もなかったかのように消え失せた。


「ふぅ、瑠衣、彩香、いかがでしたか? 私でもお役に立てるでしょう?」

「最初から役に立たないとは思っていなかったけど……、これはズルくない? 強すぎでしょ!」

「彩香が言うと、説得力が全くないわね」

「なんで?! 私は、こんなに派手なことできないんだけど!」


私の主張に瑠衣はため息をついた


「そもそも、彩香は普通に近距離で戦えるじゃない。早紀は異能は強いけど、近づかれたら何もできないわ。さっきの迎撃も遠距離攻撃限定でしょ?」

「そうね。お母様との異能勝負でなかったら、効果は期待できないわね」

「うぐぅ……」


瑠衣と早紀の言葉に、私は何も言うことができなかった。


「だから、この3人でクランを作るのよ。彩香が前衛、私が中衛、早紀が後衛としてね」

「いや、私は賢者なんで、どちらかというと後衛寄りなんじゃないかと思うんですが?」

「あの配信を見て賢者だと言われても誰も信じないわよ? まあ、彩香の場合は力だけでなく装備のこともあるんだけどね」


装備と言われても、私にはあの欠陥装備しか思い当たらなかった。


「ふぇ? どういうこと?」

「普通は、『身代わり』の付与効果なんてついた装備無いわ。もし売られていたら値段が付けられないくらい高額になるでしょうね。ダンジョンの深層にもなると、即死攻撃使ってくるモンスターも出てくるからね。Sランク以上の探索者はみんな高いお金を払って、使い捨ての『身代わり』アイテムを買うくらいよ」

「いや、でも全裸になっちゃうし……」

「それくらい問題ないわ、Sランクともなると死ぬくらいなら全裸くらい余裕なんて人ばかりだしね」

「いまだにダンジョンが攻略されきっていないのも、深層を安定して攻略する方法がないからよ。『開拓者』ですら、『身代わり』を使った上で、消耗しながら進んでは全滅を繰り返しているからね」


その話を聞いて納得がいった。

未だにダンジョンが攻略されていないのは、『開拓者』クランですら、全員が『身代わり』を持った上で、死んで戻される人を出しながら、それでも進んで全滅を繰り返している結果なのだということである。


「特に、彩香は回避系前衛だからね。自動復活する『身代わり』とも相性がいいのよ。『開拓者』の前衛は防御系前衛だからね。安定感はあるけど、『身代わり』との相性は最悪ね」

「なるほど……」


そんなことを話していると、突然、闘技場にサイレンが鳴り響いた。


「いったい何が起こったの?!」


突然の状況にわけもわからず、隣にいた瑠衣に尋ねる。


「スタンピードの発生ですわ」

「そうね。どうする?」

「もちろん、迎え撃ちますわ! 私たちの力を披露する絶好の機会ですもの!」

「そうね。それじゃあ、行きましょうか!」


そう言って、二人は迷いなく建物の外へと向かう。


「え? ええ?! 私の意見は? ちょ、ちょっと待ってよぉ!」


私も泣く泣く、二人の後を追いかけるのであった。

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