第20話 スタンピード

私たちはスタンピードの発生した新宿ダンジョンの近くに来ていた。

 もちろん、歩いてきたわけではなく、建物の外に何故か待機していたヘリに乗ってきたのである。

 さすがお金持ちは違うなぁ、などとのんきに考えていたが、実際に新宿の街をヘリから見下ろすと愕然とした。

 ダンジョンからあふれるように湧き出てくるモンスターと、逃げ惑う人々。

 そして、モンスターを食い止めようと、必死に戦う探索者たちでごった返していた。


「それじゃあ、いくよ。準備はいい?」

「問題ありませんわ!」

「いや、装備を置いてきちゃったんだけど!」

「……心配いらないわ。すぐに到着するはずよ」

「え?! なんで?」

「連絡が来て、すぐに彩香の家に人を送ったわ。すでに、装備と共に近くに来ているはずよ!」


 明らかに不法侵入であった。

 しかし状況が状況なだけに深く追求せず、そのことについて感謝することにした。


 そして、ヘリがランディングポイントに着くと、私たちはパラシュートを背負わせられ、大空へと放り投げられた。


「きゃぁぁぁぁ!」


 初めてだった私は、当然ながらパラシュートを開くことができず、そのまま落ちていく。

 そして地面へと盛大に激突した。


「痛っ! ……あれ? 痛くないや! もしかして、ステータス上がると耐えられる?」

「普通は、怪我くらいはするんだけどね。どういうこと?!」

「ちょっと、瑠衣! 死ぬかと思ったんだから!」

「まあまあ、無事だったんだからよかったじゃない。まさかパラシュートの使い方を教わっていないなんて知らなかったのよ」

「そうですわね。小さいころにパラシュート背負わされて、崖から突き落とされたこともありますわ」


 瑠衣に文句の一つでも言おうと思ったが、彼女たちの境遇の方が自分よりも過酷だったと聞いて、怒りがどこかに行ってしまったようだ。


「ま、さっそく始めるとしましょうか。とりあえず、彩香はそこの装備に着替えて。それと、これもよろしく」


 そう言って、瑠衣は私の荷物からウクレレを取り出した。

 どうやら、私の歌声を聞きたいということらしい。


「わかったわ。任せてちょうだい!」


 すぐに着替えると、私はウクレレをもって、歌い始めた。


「HEY! HEY! 愛の魔法~♪ HEY! HEY! 叩き込む~♪ HEY! HEY! みんなまとめて~♪ HEY! HEY! KILL、KILL~♪」

拡声風域スタジオフィールド


 私の歌に合わせて、瑠衣が魔法を使う。

 すると、私の素晴らしい歌声が風の力に乗って新宿の街全域に広がった。


 しばらくすると、スタンピードによって解き放たれたモンスターたちが、私たちに向かって一目散に走ってきた。

どうやら、私の美声にひかれて向かってきているようだった。


「ナイス、そしたら、モンスターの相手をしてちょうだい」

「わかったわ!」


そう言って、私はモンスターの群れの中に走り出した。

魔力を右の拳に集中させ、モンスターを殴りつける。


連鎖爆烈四散拳チェインエクスプロージョン!」


殴りつけたモンスターが爆発四散し、その肉片に触れたモンスターも爆発する。

一方、その様子を見ながら、瑠衣は早紀に話しかける。


「あれではスタンピード相手だと厳しいわね。早紀も彩香を中心に異能を使えるかしら?」

「え?! 彩香に当たるんじゃないですか?」

「大丈夫よ。あなたの攻撃くらいじゃ、大してダメージ受けないから」


瑠衣の言葉を聞いて、早紀が愕然とした表情を浮かべる。


「ええ?! 九條の異能って、攻撃特化なんですけど……。それを大したダメージじゃないって、ちょっと凹むんですが……よよよ」


ショックのあまりさめざめと泣きだしてしまった。


「気にしない方が良いわ。彩香が特別なのよ」

「わかりました。彼女へのフォローは頼みますよ! 流星リュウセイ


早紀の異能が発動し、彩香の周辺に隕石が降り注いだ。


「ちょっ、ちょっと?! なんで、私のところに隕石が降ってくるのよ?!」


突然降ってきた隕石に驚きながらも、当たったら全裸確定になるため、必死になりながら全て回避していく。


「なんか、凄い怒っているように見えるんですが、本当に大丈夫なんでしょうか?」

「……後で一緒に頭を下げましょ」


そう言いながらも、早紀の使った流星によって、彩香の周囲に集まっていたモンスターたちは、瞬く間に数を減らしていく。


彩香の方も時折、隕石に当たって全裸となってしまい、そのたびに「ちょっ、ちょっとぉ?! くそぅぅぅ!」などと言っているが、全裸になった後で隕石に当たっても大したダメージを受けていないようであった。

そうして、自動的に服が復元しては、全裸になるということを繰り返しながら、着実にモンスターを減らしていく。


そして、彼女たちが来てから一時間ほど経った頃には、完全にスタンピードが沈静化していた。

到着する前には不幸にもモンスターに襲われて数名の死者や、数百名の怪我人こそ出たものの、彩香がその自慢の歌声を披露してからは、彼女に押し寄せるモンスターを避け損ねて軽傷を負う人が数人出たくらいで、被害はほとんど出なかった。


後日、この時のスタンピードの鎮圧において目覚ましい活躍を遂げた3人を、政府は『開拓者』クランに続く、ダンジョン攻略のための『三種の神器(仮)』という形で大々的に発表した。

周辺諸国の一部に反発はあったものの、それらの国々もダンジョンにより発生するスタンピードの被害が深刻であったことから、最終的には黙認することとなった。

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