第17話 異端審問

翌日、私は再び渋谷のダンジョンに行き、40階層から攻略を開始する。

そこで、私はゴブリンスナイパーの不意打ちで狙撃された結果、めでたく全裸となってしまったのであった。

2射目を昨日と同じ要領で投げ返して倒したものの、服が戻るまでもう少しかかりそうだった。


「うーん、ここで脱がされちゃうなんて……残念だけど、今日はここまでかな?」


《えっ?! 50階層のボスまで行くんじゃないですか?》

《どうせすぐに服も戻るし、2回目チャレンジしてもいいんじゃない?》

《もう、お約束は果たしたから、ボスでは脱がされないかもしれないしね!》

《大丈夫だ! 我々も心の準備だけはできている……アヤカたんが全裸になるということのね!》


どうやら、視聴者のみんなは私がここで全裸になってしまったことで、消化不良のようであった。


「しかたないですね! それじゃあ、ご要望にお応えして探索続行します!」


その後は、私が警戒を強めたこともあり、危なげなく第50階層まで到達した。

ボスの部屋の扉を開けると、頭が3つある巨大な犬が鎮座していた。


「出たわね、ケルベロス!」


《こいつやたらと強いんだよね。炎のブレスが消えないから、途中で逃げ道なくなって脱出した》

《ファングクラッシュで炎消えるから、うまく誘導すれば意外と大丈夫じゃね?》

《途中で入る咆哮で前衛スタンしたせいで、ターゲットがブレたわ》


「うへぇ、咆哮持ちかぁ」


スケルトンキングの咆哮で全裸にされた嫌な記憶が蘇った。

しかし私は、このために用意した秘策の品をカバンから取り出した。


《ウクレレ?》

《アヤカたん、何をする気だ?!》


「ふふん、ケルベロスは音楽で眠らせられるのよ! 私の美声に酔いな!」


《まじか?!》

《確かに、音楽で眠らせることができるという話はあるが……良質な音楽ならな!》

《ウクレレでそれは無理じゃね?》

《いや、アヤカたんならあるいは……》


やたらと失礼なチャットが飛び交うが、無視してケルベロスに聞かせるようにウクレレをかき鳴らしながら歌い始める


「HEY! HEY! 愛の魔法~♪ HEY! HEY! 叩き込む~♪ HEY! HEY! みんなまとめて~♪ HEY! HEY! KILL、KILL~♪」


私の素晴らしい歌声がボス部屋に響きわたる。

ケルベロスは不快そうな顔をしながら、炎を吐いたり、爪を振り回したりしていたが、回避しながら歌い続けた。


「なかなか眠らないわね!」


《いやいや、この歌じゃ無理だろ? 酷い曲だ》

《酷いのは曲だけじゃないぞ! 歌詞もだぞ!》

《いや、歌もだ!》

《全部ダメじゃねーか!》

《ジャイアンリサイタルより酷い……》

《もうやめて! ケルベロスの精神力はもうゼロよ!》


酷い言われようだが、この時、私は歌に集中していて気付かなかった。

そして、ケルベロスも攻撃してきていたが、ついに我慢の限界に達したのか、「もうやめろ」と言わんばかりに全力で咆哮した。


わぉぉぉぉぉん!


咆哮によるスタンで私の服が消え、再び全裸となった。


「ちょっ! なにすんのよ!」


《いや、これはケルベロスが正しい!》

《歌のダメージが酷すぎて、アヤカたんの全裸に反応できなくなってる……》

《まるでバンシーのような歌だったぜ!(英語)》


「くそぅ、おとなしく寝てれば楽に死ねたものを! 轟爆水霊拳アクアオーバーフロー!」


私が拳に魔力を込め、ケルベロスを殴ると体内に大量の水が発生する。

これで窒息させるのが本来の使い方であるが、ケルベロスの体内に入った大量の水は体内の炎によって水蒸気となる。


ボガァァン!


大量の水蒸気を撒き散らしながら、ケルベロスの体が爆発した。


《歌も倒し方もグロいんですが!》

《これは配信してはいけないレベル》


「ふふふ、倒せばいいんですよ! 私の歌声に魅了されなかった自分を呪ってください!」


《あれに魅了されなきゃいけないケルベロスがかわいそうな件》

《アヤカたん、おそろしい子!》


「さて、無事に50階層まで突破したので、ワープポイント解放して帰りますね!」


《おつかれ~》

《次回も全裸期待してます!》


こうして渋谷ダンジョンの50階層まで踏破した私は、翌日学校の会議室に呼び出されていた。

向かって中央の席には理事長である九條百合子と校長先生が座っていて、左右にも数名の教師が席についていた。


「なんで呼び出されたかは、ご存じですよね?」


理事長が知っていて当然と言うかのように高圧的に話しかけてきた。


「知りませんが? いったい何のご用でしょうか?」

「まぁっ! この期におよんでとぼけるなんて、本当に頭ぱっぱらぱーなんですのね?!」


私が聞き返すと、教育者にあるまじき罵詈雑言の嵐を叩きつけてきた。


「まあいいですわ。あなたの探索者活動についてですわ。聞いた話では、あなたダンジョンで人目が無いのをいいことに全裸になって、その猥褻な動画を配信しているそうですね?」

「いえ? 違いますけれども」

「とぼけちゃって……。これが動かぬ証拠ですわ!」


そう言って、理事長は私の配信の中から全裸になった部分だけを抜き出した動画を再生した。


「こんな恥ずかしいことをしているのが本校の学生だなんて、信じられませんわ! 即刻退学させてくださいまし!」

「いや、しかし……。探索者法の問題が」


探索者法と言うのは、探索者がダンジョンを攻略するにあたって制定された法律である。

端的に言えば、ダンジョンの攻略を目的とした場合は、特定の個人に対して危害や損失をもたらさない限り、あらゆる行動が容認されるというものである。

私の例は極端であるが、それ以外にもダンジョン攻略に有用だけど法律上は問題になるスキルを持ったものも少なくない。

そういった探索者がスキルを活かせず、攻略の支障が起きないようにするために制定された。


「そんなのは、何とでもなります! 現に、私が損害を被っているんですから!」


喚き散らす理事長に、校長先生はおろか、誰も発言できない状況になっていた時、会議室の扉が開き、凛とした声が響いた。


「そんな理屈が通らないのは、お母様自身がご存じではないですか!」


そこに立っていたのは、かつて私をことあるごとに苛めていた九條早紀であった。







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