第14話 嫌がらせの真相

「そ、そんなわけありませんわ! 私だって瑠衣さんのことを慕って……」

「その言い訳が私に通用すると思って?」

「でもっ! それなら、そっちの彩香だって!」


早紀の言葉に、瑠衣はやれやれと言った感じでため息をついた。


「彩香は……友達がいないのよ。どんくさすぎてね」

「そんなの見ていればわかりますわ! でも、それを逆手にとって、あなたに近づいているのでは」

「そう見えるなら、ずいぶん都合がいい目をしているわね」


何やら、私を置き去りにして、二人の世界に入っているかのようであった。

しかし、何を言っているのか、これっぽっちも理解できなかった私は、ひたすら黙って聞いていることにした。


「そもそも、彩香は八尋の意味すらわからないわ。彼女にとって、私はただの親友の瑠衣でしかないのよ」

「そんなばかな話が! 『開拓者フロンティアーズ』を知らない探索者などいるわけないでしょうが!」

「あ、『開拓者フロンティアーズ』なら知っていますよ! 一色アヤメ様に憧れて探索者になったのですから!」

「ほら、知っているじゃないですか!」


瑠衣は一息ついて、私の方に向き直った。


「それじゃ、『開拓者フロンティアーズ』のメンバーも知っているよね?」

「もちろんです! 一色アヤメ様です!」

「……他には?」

「……なんかでかい人がいたような気がします。あとちっこい人もいたかな? そういえば、瑠衣に似たような感じの人もいたわ!」

「まあ、大体あっているけどね」

「まさか、瑠衣って。『開拓者フロンティアーズ』の関係者なの?! もしそうなら、アヤメ様のサインを……」

「まぁ、そのあたりは……あとで話すわ。それで、その話を聞いて、どうかしら?」


瑠衣は再び早紀の方を振り返った。


「そんな! そんな適当にしか覚えていない人がいるなんて……」

「この学校でも、私を色目で見ないのは彩香だけだったのよ」

「そんな、ずるいです……う、う、うわーん。私なんて『開拓者フロンティアーズ』からも除け者にされていたんですのよ。」


突然、早紀が泣き出してしまうことに焦って、私はとりあえず何かを言わなければと思った。

何よりも、この場をうまく収めることがアヤメ様のサインにつながると思えばなおさらであった。


「うわ、修羅場ってやつですね!」

「彩香は黙ってて!」

「ふぁい……」


瑠衣の言葉に一瞬にして黙らされてしまう。


「別に除け者にしたわけじゃないわ。そもそも、構想は『開拓者フロンティアーズ』だけじゃなくて、もう一つ計画されているわ。調整に手間取っていて、まだ発表はできていないけどね」

「うっうっう。も、もう一つですか?」


早紀の言葉に瑠衣は大きく頷いた。


「まだ、極秘なので、他の人には言わないで欲しいんだけど……。『開拓者フロンティアーズ』の目的はダンジョンの脅威から人々を守るためのもの。だけど、九條の力は、それに適さない。だから、もう一つダンジョンの脅威自体を取り除く、攻めるためのクランを作る構想があるの。そこに元々は九條が入る予定だった」

「え? 除け者にされてたわけじゃないの?」

「もちろんよ。ただ、あなたの母親が早とちりした挙句に拗ねてしまったので、計画はしばらく頓挫していたけどね。それが、先日やっと再開の目処が立ったのよ」


そこまで話して、瑠衣は困ったような顔をして一息ついた。


「『開拓者フロンティアーズ』には私の妹が加入しているわ。だから、私はこちらのクランに入ることになるわ。本当は関わりたくなかったんだけどね。上にごり押しされたわ」

「へぇ、さすが瑠衣ね。私は応援することしかできないけど……」


私は、まるで他人事のように言った。


「何を言っているの? この計画の再開の目処が立ったって言ったでしょ。なぜかって言うと、彩香が覚醒したからよ。だから、彩香は既に計画に組み込まれているから逃げられないわよ」

「うぇぇ? でも、私はFランク探索者よ。無理っぽいんだけど……」


戸惑う私に、瑠衣は笑顔で親指を立てた。


「大丈夫よ、昨日までの成果で暫定Cランクまで上がったから。本当はAランクまで上げる予定だったんだけど、一気には上げられないってことで保留になったわ」


いきなりの話に私は目を白黒させることしかできなかった。


「さて、それじゃあ、早紀。あんたはどうするの? この計画に載るか、それとも母親と同じようにこのまま拗ねているか。私としては、二人でも大丈夫だと思っているんだけどね」

「うぇ?! ちょっと、それは私的に無理っす!」


瑠衣の無茶振りにもはや、自分でも何を言っているのかわからなかった。


「わかったわ。協力する。いえ、是非とも協力させていただくわ! 九條の名に懸けて!」

「そう、それじゃあ、よろしくね」


二人は固く握手をした。


「そ、それから! 彩香さんも、これまで酷いことしてごめんなさいね! こ、これまでのことは水に流して、くださると、ありがたい、のです、が……」


恐る恐る、伺うように早紀が私に行ってくるが、別に断る理由もなかったので受けることにした。


「もう、わかってますよ。瑠衣が良いなら、私からは言うことはありません」

「それじゃあ、決まりね。と言っても、まだ、計画が再開しただけだから、いろいろとあるんだけどね。目下の問題は隣国との交渉かな。私たちには直接関係ないけどね」

「ダンジョン攻略するだけなのに?」


意味が分からなかったので質問すると、瑠衣は苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「『開拓者フロンティアーズ』はいわゆる『守り』のクランという建前だから、隣国も見て見ぬふりをしてたんだけど、今回の計画は『攻め』のクランだからね。かなり警戒されているわ。でも、隣国もダンジョン攻略に注力しないと、スタンピードで大きな被害を被ることが分かってきたみたいだから、交渉も近々うまくいくと思うわ」

「へえ、でも、隣国も探索者みたいな人たちが攻略しているんじゃないの?」

「そうだけど、あちらの国は兵力を増強するのを第一としているのよ。だから、必然的に効率の良いダンジョンしか攻略されないの。結果、あちこちでスタンピードが発生して、街ごとロックダウンしたわ」

「うへぇ、それじゃあ、街の人はモンスターに皆殺しにされたとか?」

「確かにモンスターに大勢殺されたんだけど……噂ではモンスターよりも軍隊に殺された市民の方が圧倒的に多いらしいわ」

「なんという世紀末……」


国外のことではあるが、あまりにもひどい話に私は顔をしかめる。


「ということで、動くのはまだ先だから、彩香と早紀は探索者としてレベルアップに励んでおいてね」

「はーい」「わかりましたわ」

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