第13話 学校へ行こう

品川ダンジョンでのごたごたから数日後、私は久しぶりに学校へとやってきた。

といっても、決して行きたいわけではない。

元々、私自身がどんくさいこともあって、全体的にダメな奴だと思われているというだけでなく、何故か一部のグループから目の敵にされており、ことあるごとに嫌がらせを受けているのが理由であった。

一方で、こんな私にも数少ない親友と呼ばれる人たちもいる。


「お、彩香久しぶり。聞いたんだけどダンジョンでヤバかったらしいって?」


私に話しかけてきた八尋瑠衣である。

数少ないと言ったが、実際の友人は彼女だけである。


「ああ、うん。イレギュラーに襲われて死にかけたんだよね」

「ええ?! 大丈夫だったの?」

「うん、何とかね。ちなみに、こっちはどうだった? なんか復帰しようとしたら一週間待ってくれって言われたんだけど……」


瑠衣に状況を聞いてみると、少し逡巡した後、恐る恐ると言った様子で話し始めた。


「えっと、ちょっと彩香のことが学校内で問題になっていてね。特に理事長が彩香の配信を問題視していてね。まだ、ちょっと揉めてるんだよね」

「あぁぁ、それって、私の配信が校内に広まっているってこと?」

「そうね。と言っても、問題視しているのは理事長と教師と一部の学生だけで、大半の学生は好意的に受け止めているっぽいわ」


あの配信が好意的に受け止められていることを意外に感じていたが、確かに、チャンネルに来てくれる人も、何だかんだで楽しんでいるようなので、それと同じようなものだと理解することにした。


「それで、一部の学生っていうのは?」

「九條さんのグループよ。まあ、想像つくと思うけどね」

「あぁ、なるほど」


九條さんのグループと言うのは、私のことを何故か昔から敵視している九條早紀くじょうさきのグループで、ことあるごとに嫌がらせをしてきていた。

しかも、彼女は理事長である九條百合子くじょうゆりこの娘である。

どうやら、親子そろって私とは馬が合わないらしかった。


「親子で私を排除しようとしてるってことね」

「うーん、ちょっと違うかな? 早紀の方はいつも通りの嫌がらせなんだけど、親の方は彩香の配信の内容が不健全だと言っているらしいわね」

「なるほど……」


確かによく考えたら、毎回毎回、最終的には全裸になっているのだから、それは不健全だと言われても仕方ないかもしれない。

しかし、私も別に全裸になりたくてなっているわけでないんだけどなぁ。


「まあ、あとで呼び出しくらうかもしれないわね」

「うげぇ。理事長とか教師陣に囲まれながら、全裸について追及されるのイヤすぎるんだけど」


どこぞのAVのエロインタビューだと聞きたい。

「どうなんだ? 全裸になって、あんなところやこんなところを見られる気分は?」とか、「おいおい、(自主規制)てんじゃないのか? とんだ淫乱め!」とか言われるのがイヤすぎるんだが。

反射的に魔法でキルゼムオールしちゃいそうだわ。


「まあ、彩香が考えているみたいなことにはならないと思うけどね。暴れちゃだめよ。キルゼムオールとかもってのほかだからね!」


さらっと人の心を読むのやめて欲しいんだが。


「ま、まあ、大丈夫よ。私も少しは強くなったし。強者の余裕ってやつ?」

「その返しには不安しかないが、まあ、信じているわ」


そんな話をしながら玄関前まで歩く。

すると、そこには先ほど話していた九條早紀のグループが待ち伏せをしていた。


「ちょっといいかしら?」

「なにかしら?」

「昼休みに二人で話をしたいのですが、時間空けておいてくださいます?」

「もちろんですわ。今日こそ白黒つけますわよ」


思わず私にも早紀の言葉遣いが移ってしまったようで、気づいたら謎のお嬢様言葉で話していた。


「それでは、今日の昼休みに、校舎裏まで」


そう言って、早紀たちは去っていった。



退屈な授業を終えて、昼休み。

私は早紀の待つ校舎裏へと向かった。


「今日は、どんな嫌がらせをするつもりなの?!」

「余裕そうね。まあいいわ。言いたいことは一つだけよ。あなた、瑠衣さんと別れなさい」

「それは瑠衣に言えばいいじゃない。私みたいなカースト底辺にはどうしようもないよ?」

「それができれば苦労はしませんの、あの方、何度言っても言うことを聞きませんからね」

「それじゃあ、私にもどうしようもないわね。それじゃ」


そう言って踵を返すと、早紀は慌てたように引き留める。


「待ちなさい! あなた、本当に瑠衣さんに相応しいと思っていますの? あんな破廉恥な動画を晒しておいて、恥ずかしいと思いませんの?」

「不可抗力だしねぇ。探索者って命かけているんだよ? 知らないだろうけど」

「馬鹿にしないでくださいまし! それくらい知ってますわ!」


激高する早紀に気圧されていると、私の背後から瑠衣の声が聞こえた。


「やれやれ、彩香に絡むのは止めて欲しいんだけどね」

「何故、あなたがいらっしゃいますの?!」

「あんたなら、八尋の意味くらい知っているでしょ?」


私は知りませんが――どうやら、二人は知っているようで、私を置いてきぼりにしてヒートアップし始めた。


「なるほど、ずっと監視していたのですね。そんな事すると彼女に嫌われますよ?」

「大丈夫よ。監視じゃなくて見守りだから。彩香は目を離すと危険だからね」

「そんな子供扱いしてまで過保護ね。私なんて普段目も合わせてくれないのに……」

「それは、あなたが私を八尋の人間としてしか見ていないからよ」


瑠衣の言葉に、早紀は言葉を詰まらせた。

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