第12話 急襲
私は、転移直後に振り下ろされる大剣に成す術もなかった。
基本的にワープポイント周辺はセーフエリアになっているので、モンスターに襲われることは無い。
そのため、油断していたのもあるが、あまりに突然のことすぎて対応できなかった。
頭の中では、最悪全裸になるだけという油断もあったのかもしれないし、上にローブを羽織っているから安心という気持ちもあった。
そんな状況が重なり、私は大剣の一撃をまともに受けてしまった。
しかし、予想通り、その一撃は弾かれ、それと同時に私の服も弾け飛んだ。
「えっ?!」
私は、突然の予想外の事態に呆然としていた。
その一撃を凌いだ私の体から、身体の上下を守るはずの服がローブごと消えていたからである。
「何で?! えええ?」
慌てふためく私だったが、そんな私のことなどお構いなしとばかりに再び大剣が振り下ろされる。
カチューシャの付与効果なのか、私の大事な部分には何故か濃い霧のようなものが覆われてた。
《レーティング対策の付与効果とか、もはや全裸になる前提で草》
《(肌色が)多い日も安心!》
しかし、先ほどとは違い、心の準備ができていたためか、予想外に遅く振り下ろされる大剣を軽く弾いた。
すると大剣は持ち主の手から離れて、遠くの壁に突き刺さった。
「お前は……ヒロシ!」
《ちゃうで、ヒロキや!》
《ていうか、またヒロキか!》
《ヒロキ死すべし慈悲は無い!》
「お前は……ヒロキ!」
私は先ほどのセリフをなかったことにして言い直した。
《アヤカたん、既に手遅れやで!》
《さりげなく、なかったことにするアヤカたんw》
「くそ、最初の攻撃をどうやって防いだのかしらねーが、運のいいヤツめ!」
《なんという情弱!》
《不意打ちしかける相手の情報を調べてないとか、どんだけ》
《しかし、さっきの攻撃を弾いた時、いつもよりもキレが良かった気がするんだが?》
《たしかに! もしかして、脱いだら本気出せるようになったのか?!》
《はっはっは、さすが忍者と言うだけはあるな!(英語)》
先ほどの攻撃を防いだことで、再びチャットがにぎわう。
確かに、先ほどの攻撃を弾いた時、少し遅く感じたし、あまり力を入れていないにも関わらず、壁まで吹っ飛んでいった。
「もしかしたら、これも装備エンチャントかな?」
《全裸になると強くなる? いや、カチューシャ残ってるしな。肌色面積に応じて強くなる?!》
《それはそれでヤバい効果だな!》
《忍者じゃなくて、トオヤマの子孫なのかもしれんね!(英語)》
《それもフィクションやで! しかし、完全に否定しきれない俺ガイル》
《このアヤカたんの双丘、潰せるものなら潰してみやがれ!》
《ヤバい決めゼリフキター!》
《なお、潰さなくても平坦な件……》
《おい、やめてさしあげろ!》
服が脱げたら強くなるという謎の付与効果にチャット欄が盛り上がる。
「さてと、まずはローブ代を弁償してもらおうか?」
「ふん、そんな減らず口もこれまでだ! 俺が一人でここに来たとでも思っているのか? おい、お前ら、出てきやがれ!」
ヒロキの言葉に、私を取り囲むように3人の男が物陰から出てきた。
「へっへっへ、これでお前は逃げらんねーぞ! おあつらえ向きに全裸じゃねーか! 脱がす手間が省けるぜ!」
「ヒロキさん、俺たちにも楽しませてくれるって約束果たしてくださいよ!」
「心配するな。4人でかかればすぐに堕ちるさ! 行くぜ!」
《本気を出したアヤカたんに4人ごときで挑むとは、愚かな……》
ヒロキたち4人が一斉に襲い掛かってくる。
だが、今の私にとって、彼らの攻撃はハエが止まりそうなほど遅く見えた。
私は手のひらと脚に魔力を集中すると、真上にジャンプし、ヒロキの頭の上を飛び越える。
そして、私に襲い掛かろうとひとまとまりになった瞬間を狙って、両の手のひらを彼らに突き出した。
「
突き出した手のひらから、濃密に圧縮された空気が彼らを巻き込み、4人まとめて壁に叩きつけた。
《あえて4人まとめてやっつけるとか、余裕すぎなんじゃが!》
《やはり、いつもと動きが違う……全裸パワーか?!》
「ふぅ、こんなものかな?」
彼ら4人の意識が無いことを確認して、私は安堵のため息をついた。
そして、服が元に戻る。
しかし、ローブはついに戻ることがなかった。
《全力モードの時に服が吹き飛ぶのはお約束やね!》
《どういうお約束だよ?!》
「あ、そうだ。忘れてたわ」
そう言って、私は彼らの服を探り、財布を取り出そうとする。
「みんな預けているかと思ったけど、意外と持ち歩いているのね。あ、ズボンのポケット探ってたら変な感触の物体に触れてしまった。キモ!」
そんなことを言いながら、私は4人の財布を取り出し、中を改める。
意外と持ち歩いているようで、4人合わせて現金で15万ほどになった。
「まあ、ローブ代よりはちょっと多いけど、迷惑料ってことでいいかな?」
《アヤカたんが追いはぎになっていて草》
「いやいや、こいつらのせいでローブ無くなっちゃったし、弁償してもらうだけだよ」
そして、無事にピンチを切り抜けた私は中身が空になった財布を捨てて、退出の手続きを行った。
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