第11話 品川ダンジョン
品川ダンジョン第11階層に降りた私は、早速周囲を警戒しながらも、配信したことで続々と入ってきている視聴者に挨拶をする。
「こんにちは! 今日は新しい装備を買ったので、そのお試しも兼ねて、ここ品川ダンジョンの第11階層に来ています!」
《新しい装備! アヤカたんがローブを羽織ってる!》
《全裸対策か?! これはアヤカたんのアイデンティティの危機?》
《大丈夫だ、問題ない(英語)》
私がローブを羽織っていることで、一斉にツッコミが入る。
「ふっふっふ、私だって学習するんです! 毎回全裸になると思ってもらってはこまりますわ!」
《どう考えてもフラグを立てに行っているとしか思えない……》
《一瞬焦ったけど、これは期待が高まる!》
《だから言っただろう?(英語)》
チャットのメッセージは不安を煽るものであったが、とりあえずは気にしないようにして探索を始める。
この第11階層以降は10階層までと異なり、遠隔攻撃をしてくる敵が登場する。
一つがボウガンを使うアーチャー、もう一つが投石器を使うブレイカーである。
投石器はどちらかと言うと重装備のタンクにとっては鬼門になるが、回避主体の私にとってはあまり脅威ではない。
むしろボウガンの方が、私にとっては厄介であった。
弓と違って発射待機したまま移動できるため、一発目に関しては弓を引く時間が要らないのが大きく、一発でも当たるとアウト(全裸)な私にとっては鬼門である。
今日はローブを羽織っているので大丈夫だと思うが、注意するに越したことはない。
「さて、今日は慎重にいきますよ! ローブ着ているからって、私は油断なんてしませんから!」
《無意識なのか、ワザとなのか、フラグが積み重なっていって草》
不穏なチャットが流れる中、特に何事もなく、15階層までやってきた。
ここからは、さらにシャーマンが加わる。
シャーマンは毒や病気といったバッドステータスを与えることが得意な魔法タイプのモンスターである。
何よりも厄介なのが、範囲攻撃であることと射線が見えるわけではないということである。
気づいたら全裸でしたとか、マジでシャレにならない。
そのため、15階層からは、耳と足に魔力を常に集中するようにしていた。
そして、耳が詠唱のような言葉を捕えた瞬間に強化した脚力で接敵し殴り倒すという方法で対策していた。
《突然姿が見えなくなったと思ったら、オークの目の前に行ってボコボコにするの恐ろしすぎるw》
《全裸回避が癖になっているのか、オークへの殺意が凄まじいな!》
《瞬間移動並みの高速移動って、マンガの中だけの話だと思ってたけど、実際にあるんだな!》
《出てくるモンスターが全部オークっぽいんだけど、やっぱりこれって品川ダンジョンか?》
《そりゃそうだろ?! 他でもオークは出るけど、ここまでオークばかりなのは品川ダンジョン以外ありえないわ!》
《調べてみたけど、オークばかりなのは品川だけっぽいね。海外にはドラゴンばかりのダンジョンもあるみたいだけど》
《うはっ! それはヤバいな!》
私が初めて披露した脚力強化による高速移動に、チャット欄がにぎやかになる。
しかし、私の方も必死だったので、あまりチャットのメッセージを気にかけることができていなかった。
そのことが、あの事件に発展するなどとは、この時は予想すらできていなかったのである。
色々な意味で気を抜けない戦いだったが、それでも何とか第20階層までたどり着くことができた。
第20階層はオークランページという多段式のクロスボウを使うオークがボスとして登場する。
アーチャーに近いと思われがちだが、多段式のクロスボウはベルトが回転式になっており、矢の装填が自動化され、引き金を引くだけで、矢が連射されるという代物である。
その数は1秒間に10発にもなる上に射撃精度が高く、リロードの隙がないため、ボス部屋に設置されている障害物に隠れつつ、複数人で進行、接敵して戦うのが一般的な攻略法とされている。
しかし、ソロで攻略する私には、その戦法を使うことができないので、魔法による力押し戦法を取ることにした。
私は両手に風の魔力を集中させると、障害物から出る。
当然ながら、ランページは私に向けて矢を乱射してくるが、私が右手を前に突き出すと魔力によって生じた暴風の壁が矢を吹き飛ばす。
そして、その壁が消える前に右手に風の魔力を集中させつつ、左手を前に突き出し、再び暴風の壁を作り出す。
《矢がアヤカたんの目の前で弾かれている件》
《ソロでというのはモチロンだけど、障害物使わないで前に進むのは初めて見たわ》
《どうせなんかトリックでもあるんだろ?!》
《なんのトリックだよ! あるんだったら教えて欲しいわ!》
それを繰り返すこと数度、私はランページの目の前までたどり着いていた。
「これで終わりね!」
そう言って、ランページの腹に掌底を当てる。
巻き起こる暴風の壁によって、その体は浮き上がり、天井に凄まじい勢いで叩きつけられる。
暴風が収まり、地面に落ちてきたオークランページは既に絶命していた。
「はい、こんな感じに風で壁を作ってしまえば、意外と楽に倒せます!」
《へぇ、そうなんだ?! って、そんなのできんわ!》
《アヤカたんの戦い方が人外じみてきているな……。これも全裸(になりたくない)パワーなのか?!》
《だが、ヤツはまだ本気(全裸)じゃない》
《アヤカたん、恐ろしい子!》
私の言葉に対するツッコミが大量に流れる中、私は21階層のワープポイントに登録して、入口まで戻る。
私の視界がダンジョンの入口に切り替わった時、目の前にはまさに振り下ろされる途中の大剣があった。
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