第8話 ストーカー
「あれは仕方ないことだったんだよ! 俺たちの他には1人しか入っていなかったし、逃げるように言ったんだから問題ないだろ?!」
「しかし、イレギュラーに手を出した挙句、逃げたということは他の探索者を危険に晒す行為です。あなたたちの記録を確認したところ、その方を置いて逃げましたよね。まだ、彼女の安否は確認できておりませんが、とりあえず罰金として50万円はお支払いいただきます」
《また、ヒロキのヤツかよ。こいつら懲りないな……》
《だからこそ、地雷扱いされているわけなんだが、ヒロキをなめんな!》
《そうだな! 悔い改めないからこそのヒロキだ!》
彼らの様子が映るとチャットが再びにぎやかになった。
しかし、それよりも話している内容が二人とも前回と同じだったのが気になってしまう。
「この人たちってNPCっていう人たちなのかな? 前とそっくり同じこと言ってるんだけど……」
《いやいや、どう見ても生身の人間ですよね……?》
《まあ、いつものことってヤツだな》
言っていることはよく分からなかったが、また長くなりそうなので、遮って担当者に話しかける。
「あ! お前は! また、俺たちの獲物横取りしたんじゃないだろうな?!」
「またっていうか、前回もしてないけど……。あ、私たちの退出の手続きをお願いします!」
私がヒロキを適当にあしらって担当者に手続きをお願いすると、先ほどまでとは打って変わってにこやかな表情で応対してくれた。
「かしこまりました。少々お待ちを。あれ? 今日もイレギュラー討伐ですか? あ、でも今日はお二人での討伐になっておりますので、報酬は山分けになりますがよろしいですか?」
「はい、問題ありません」
報酬は山分けになるらしいので、問題ないと言ったところ、玲子さんが慌てていた。
「いえいえ、倒されたのは、彩香さんだけですので、山分けは……」
「まあまあ、良いじゃない。5万だよ、5万。生活費5か月分!」
「チッ、貧乏人が! やっぱり、横取りしていたんじゃねーか! おい、討伐報酬は俺たちのものだぞ!」
私と玲子さんが話しているところに、ヒロキが割り込んで悪態をつく。
しかし、私は無視して、担当者の人に山分けにしてもらうようにと伝える。
担当者の人は機械を操作し、私と玲子さんのカードに討伐報酬の記録を追加してくれた。
「はい、これを支部に持って行っていただければ、いつでも報酬をお受け取りいただけます」
そう言って、私たちにカードを返すと、いまだに喚いているヒロキ達に向き直った。
「いい加減にしてください! そもそも、あなた達のカードには討伐記録が入っていないじゃないですか!」
「そ、それは、あいつらが横取りを……」
「あなたたちはご存じないかもしれませんが、逃走していなければパーティー扱いとなって討伐記録は付くんです。仮に、横取りしていたとしても、あなたたちのカードに討伐記録がつかないことはないんですよ」
「な、馬鹿な!」
「もっとも、あまり公にはしておりませんがね。ちなみに、逃げた先の誰かを囮にして倒そうとしても無駄ですよ。逃走した記録は残りますし、誰かに当たる前に戦線復帰しなければ、逃走した記録は消えません。仮に討伐記録があったとしても、逃走記録があれば、ほぼ討伐したと認められることはないでしょう」
「そんな! 横暴な!」
「ちゃんとルール通りにやっていればいいんです。まあ、逃走記録があるので、あなたたちは今回も罰金50万円です。早々に払ってください」
担当者の恐ろしいまでの圧に、ヒロキがたじろぐ。
「い、いや、待ってくれ! 今は持ち合わせがないんだ! 後日、必ず払うから……」
「わかりました。ちなみに延滞料は10日ごとにで10%になります」
「なんという暴利……」
延滞料が暴利すぎじゃない? などと私は思ったが、どうやらヒロキも同じことを思っていたようだ。
「前回分のも未払いですので、こちらは3日前ですから、7日後に5万、10日後に5万、17日後にさらに5万、という形で加算されます。私たちも鬼じゃないですから、延滞料は単利ですよ。感謝してくださいね」
「……くそっ」
淡々と説明する担当者に対して、ヒロキは吐き捨てるように言うと、どこかに行ってしまった。
私たちも、彼らの気配が無くなった頃を見計らって帰ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の夜、トレインパーティのヒロキこと
もちろん、彼一人ではなく、彼の裏社会でのつながりのある人間を3人ほど引き連れていた。
「あの女、一度ならず二度までも、俺たちから獲物を横取りしやがって! おかげで俺は罰金払わされるわ、親にまでこってり絞られるわ、散々だった!」
「へへへ、ヒロキさんも災難でさぁ」
「それで、あのアパートが、その女の家なんですかい?」
「そうだ、これからたっぷりと立場っていうものを分からせやるぜ!」
「俺たちにもいい目を見させてくれなきゃ困りますよ?」
「安心しろ、あの女はちょっと強いかもしれないが、ダンジョンで全裸になるような変態だ。ちょっと教育してやれば、俺たちの言いなりになるさ!」
そんなことを男4人がイヤらしく笑いながら話していると、突然桜吹雪が舞い散った。
「あん? なんだこれは?!」
4人の視界を桜吹雪が遮る、そして、それが収まると目の前にはショートボブで動きやすそうな恰好をした少女が立っていた。
「こんなところで下衆どもが何をやっているのかしら?」
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