第11話 フレイムの覚悟

高等部教室-


「く、屈辱だわ。こんな頭が悪そうな魔族に私が『筋肉学』で負けるなんて」


「アハハハー。二人とも点数高過ぎだよー」


「次も負けないわアクアス!」


アルスとセニア、それとフレイムは、後に四天王に選抜されるアクアス、ゼファ、ガイアと魔学園の高等部で出会った。


「ぐぬぬぬ。同級に生まれて初めて腕相撲で負けたわ。」


「俺も本気を出したのは初めてだガイア。良いライバルになれそうだな!」


幼い頃から地元で優秀な成績を修めてきた面々ではあったが、それでもアルスとセニアは頭一つ飛び抜けていた。


高等部に入る頃にはアルスとセニアは魔王軍の幹部たちが直々に視察に訪れる程名が知られ、将来の魔王側近に選ばれることは間違いない、とまで噂されていた。


そんな幼馴染たちをフレイムは誇らしく感じていた半面、早く追いつきたい焦りはあったものの中等部時代の一件以来腐らず地道な努力を続けている。


とはいえ、ようやく成長期に入ったばかりのフレイムではあったが、まだまだ他のクラスメイトたちからも大きく遅れていた。


(そんな僕が学年一優秀な集団の中にいるのは違和感しかないんだよなー)


「遅いぞアルス!加重逆立ちで体育館まで競争だ!!」


「ぬ?私も参加するぞ」


「ず、ずるいぞセニア!あ、ガイアくんも待ってよー!」


「………」

「あいつら調子乗りやがって…」

「俺のハムストリングスの方が絶対に優れているはずだ…」

「貧弱な広背筋の癖に…」

ヒソヒソヒソヒソ


学生の身といえど、周囲は将来の魔王軍幹部候補たちばかり。

当然目立つアルスやセニアたちを面白く思わない連中も存在した。

それでも圧倒的な実力を持つ彼らに直接文句もいえず、そういった連中の鬱憤も徐々に溜まっていくのであった。



放課後校舎裏-


「な、何か用かなこんなところに呼び出して…。友達を待たせているから早く用を済ましてくれると助かるんだけど…」


「………」


放課後フレイムはクラスメイトのイグニスに呼び出された。


「僕はね、小さな頃からずっと一番だったんだよ。筋肉も勉強もね。」


「た、確かにイグニスくんは凄い上腕二頭筋してるよね…ハハハ」


「君に何がわかるというんだ!」


そう言いつつもイグニスの上腕二頭筋はピクピクと躍動しその存在を主張している。


「は、早く用件を言ってくれよ!取り返しがつかないことになるんだよ!!」


一分約束の時間を過ぎるごとに加重腕立ての加重が5㎏ずつ加算されていく。

中等部時代からの3人の暗黙の了解である。


「アルスとセニアの秘密を教えて欲しい…」


「え?」


「普通に考えて僕が負ける訳ない!あの2人は何か卑怯な真似をしているんだろ!?」


「ち、小さいころから僕は彼らと一緒に育ってきたけど、彼らがそんなことする訳ないじゃないか!」


アルスとセニアの努力を一番近くで見てきたフレイムはそれがどんなに愚かな想像なのか誰よりも知っている。

何よりも自分のヒーローを馬鹿にされれば温厚なフレイムでも流石にキレる。


「そ、そんな訳ないじゃないか。そ、そうだきっと禁術のステ


「やめろ!!!」


「…!」


イグニスは言葉にする事も禁止されている魔族の禁術を口にしようとした為、フレイムは激しく遮った。


「イグニスくん、僕は何も聞かなかったよ。君も何も言っていない。……いいね?」


「ハァハァハァ」


黙ってうなずくフレイムを確認するとイグニスは幼馴染たちの元へ急いで戻っていくのだった。



数日後教室内-


(あれからイグニスくんと話す機会はないけど、きっともう大丈夫だろう。目線も合わそうとしないし。)


あの後フレイムはアルスたちと合流し、遅れた分の加重腕立てで大変な目に遭った以外は日常を過ごしていた。


(そもそもアルスとセニアと張り合おうと考えること自体間違っていることを早くイグニスくんも理解できるといいな。)


なまじイグニスが優秀なだけに受け入れがたいのだが、それは幼い頃から身体の弱かったフレイムにはわからない感情だった。


「ふっふっふ、セニアよ今日こそお主から一本取ってみせるぞ!」


「ガイアよ、その言葉忘れるでないぞ!」


今日は学生たちが最も熱くなる実技授業、『近接格闘術』の模擬戦の日である。

まだまだ仲間たちと比べると圧倒的に弱いフレイムではあったが、成長期を迎え始め、勝てはしないが他のクラスメイトとは良い勝負が出来るようになって来ていた。


「今日こそ一本取れるよう頑張るぞ!」



近接格闘術模擬戦、校庭-


「ゼファ、勝った方が次にアルスと戦うということで宜しいですわね?」

「OKだよーアクアス!えい!!」

「どちらも頑張って下さいな。」


「ぐあっ。ハァハァハァ」

「はっはっは、どうしたガイアよもう終わりかw?」

「舐めるなー!!!」


そこら中で熱戦が繰り広げられている中、まだ実技では勝てそうにないフレイムは、将来肉体が追い付いてきた時参考にする為、ライバル達の一挙手一投足も見逃すまいと必死に眺めていた。


そんな中不穏な空気を身に纏ったイグニスが近づいていた。

教師もクラスメイト達もレベルの高いゼファやセルスの模擬戦に夢中になっており気付くのが遅れた。


「あいつらが悪いんだズルばっかりしやがって…」ブツブツブツブツ


「なっ!?イグニスくんその身体は!?」


明らかに今までと違う肉体。

噂でしか聞いたことはないが、禁術『ステロイド』を使用したとしか思えない程、今までのイグニスと比べ一回りも二回りも身体が大きくなっていた。


「あ、あいつらだってやってるんだから僕だってやっていいだろう?見てくれよ僕のこの上腕二頭筋を!」ムキッ


「な!?その力こぶは…」


元々凄かったイグニスの二頭筋だったが、まるで手羽先の究極完全体のようになっていた。


「ば、馬鹿野郎!二頭筋しか見てない君がセニアたちに勝てる訳ないだろう!!」


「な!?貧弱な君に僕の何がわかるっていうんだ!!!」


確かに筋肉の発達具合でいえばイグニスの方が圧倒的に優れているが、筋肉は当然そんな甘いものではない。


「二頭筋にしか目がいっていない君には一生わからないよ。三頭筋があって、三角筋があって、前腕筋群とか大胸筋があって、それらのバランスが絶妙に互いを支えあって、それで初めて二頭筋が活きてくるんだろうがよぉぉぉおおお!!」


「うるさいうるさいうるさーーーい!!ならば貴様のその貧弱な筋肉で僕に勝って証明してみろよ!!」


「そんな作られた偽物筋肉に僕が負けるか!!」


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「今でこそああなってしまったけど、あの時のフレイムだけは今思い出しても最高に素敵でしたわね。」


「うむ、あ奴が一番輝いていた瞬間かもしれぬな。」


どうしよう。

きっと凄い熱い展開なんだろうけどふざけてる様にしか聞こえない俺は性格が悪いのだろうか?

手羽先の究極完全体って本気で言ってるのだろうか…意味がわからん。


俺の疑問を他所にいよいよフレイムとイグニスの熱い戦いが始まろうとしていた。

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