第10話 神童アルス&セニア

居残り補修の帰り道、トボトボと今後のことを考えながら帰るフレイム。


「…!?」


「フレイムよ…風の噂で聞いたのだが、何か馬鹿なことを考えていないだろうな?」


「………フレイムさん、私たちのことを何だと思っていらっしゃるの?」


珍しく怒気を含んだ表情でアルスとセニアがフレイムの前に現れた。


「べ、別に何もないよ!ただ今日の補修疲れたなーって考えてただけだよ」


「私たちにそんな嘘が通用すると本気で思って?」


「大方我らの足を引っ張るのが嫌とか勝手に考え、我らから距離を取ろうと思っていたのだろう。」


「そ、そんな訳ないじゃないか!一緒に魔王様の側近になるって夢忘れてなんかいないよ!ずっと一緒にいるに決まってるじゃないか!!」


突然図星を付かれてしまい咄嗟に否定する。


「嘘を付くなフレイムよ!担任の教師よりお前が我らから離れたがっていると聞いたぞ!」


そんなことは絶対に言っていない。

恐らくアルスとセニアを飛び級させたい教師が、フレイムと優秀な2人を引き離そうと画策しているのだろう。


…そんなことは言っていないし本当はいつまでも3人で頑張りたいが、今ここで2人から距離を取った方が2人の為かもしれないと考えるフレイム。


「…ウダヨ」


「声が小さくて聞こえないぞフレイム。」


「そうだよ!いい加減迷惑なんだよ!!君たちみたいに僕は優秀じゃないんだ。僕のペースがあるんだからいい加減放っておいてくれよ!!」


3人の間に気まずい沈黙が流れる。

幼い頃から一緒に育ってきた3人にとって沈黙自体は珍しいことではないが、こんなにも気まずいことは今まで経験がない。


「……フレイムさん、本気で言ってらっしゃるの?」


「当たり前だろ!!うぜえんだよ!!」


初めて汚い口調を使うフレイムに驚く2人。

しかし当然そんな言葉だけで2人を納得させられる訳もなく。


ガシッ


すると突然フレイムはセニアに手首を掴まれ、ぎゅっと握りこまれ自然と手が開いてしまう。


「ではこの手の平のマメはなんだフレイムよ?」


フレイムの手の平には、懸垂をしたりダンベルを使うとできるマメがある。

マメが出来ても痛みを我慢してトレーニングを無理に続ける為、マメの上にマメができる。

それを繰り替えしているうちに常人ではあり得ない程手の平が分厚く育っていた。

フレイムが人知れず努力を続けている何よりの証明である。


「こ、これは昔のやつだよ。こんな手の平になるのがわかってたら最初からやらなかったよ!やってねーよ!!」


ついついいつもの口調に戻りそうになるので慌てて言い直す。


(これで2人の足を引っ張らないで済むのなら僕は全然我慢できる!別に2人の為なら2人に嫌われたって構わない!)


「バカモン!」パシンッ


フレイムの大きな決意をセニアは簡単に打ち砕く。

生まれて初めてセニアに頬を叩かれたが、もしセニアが本気で叩いていたら恐らく頭と胴体が離れていただろうから相当手加減はしてくれたようだ。

しかしそれはフレイムにとって、今まで感じたどんな痛みよりも身に染みる痛みだった。


「わ、我ら2人だけに留まらず、今まで文字通り血の滲む努力を続けてきた自分に対しても嘘を付くなど大馬鹿者もいいところだ!恥を知れ!!!」


大声で怒鳴り大粒の涙を流しているセニア。

その横でアルスもフレイムを睨み泣いている。


「フレイムさん、私たちもお人好しではありません。幼馴染というだけで何も期待できない方に無駄に付き合うつもりはありません。貴方には誰にも真似できない努力の才能があるではありませんか…」


「!?」


アルスとセニアはフレイムの今までの努力と葛藤を知っていたのだ。

だからこそフレイムの負担にならないように敢えていつも通り過ごしていたのだった。


「ぼ、僕に君たちの横に立つ資格があるっていうのかい…?」


「そもそも私たちがともに魔王様の側近を目指すことに資格など必要なのでしょうか?」


「すまぬ、我らも気付かぬうちにお前に気を使い過ぎていたのかもしれん。これからは一切の情を捨ててフレイムを鍛えることにする。」


「確かにその通りね。これからは私たちと同じトレーニングを課しましょう。」


3人が感動に包まれる中、アルスとセニアが急に恐ろしい会話を始めた。


「え?それはちょっと待って欲s」


「それはいい考えだなアルスよ。我らも人に教えることで改めて基礎の復習が出来るな。」


「いや、そんn」


2人は既に自分たちが人外の存在に片足を突っ込んでいることを認識して欲しい。


「よし善は急げだ!家まで加重100㎏で全力疾走だ!!」


「ちょっと!まだ話は終わってないよ!!」


「負けないわよー!」


そうして3人は今日も訓練に明け暮れ魔王の側近になることを夢見るのだった。


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「いやいやいやいやいや。おかしいでしょ」


「どうなさいましたか魔王様?」


不思議そうな顔でこちらを見ているアルスとセニアだが『どうした?』はこっちの台詞である。

まるでアルスとセニアが神童の様な扱いではないか。


「俺はダークヘルムとフレイムのことを知りたいんだけど、2人の妄想とかは今はどうでもいいです。」


「で、ですから私たち3人の関係性を理解していただく為に、昔の話をさせていただいているんですが…。」


「つまり3人は幼馴染だったということですか?」


「は、はい。その通りでございます。」


なるほど。

ただ不思議なのは、ならばいつこの2人はこんな落ちこぼれてしまったんだ。

それと何故フレイムと仲違いしてしまったのだろうか?

今の話を聞く限りでは、少なくても中等部まではお互いを思いやるくらい仲が良かったはずだ。


「私たちが今の様な関係になってしまったのはもう少し後、私たちが史上最年少で魔王様の側近に抜擢された後の話です。」


し、史上最年少で魔王の側近だと!?

クソ、こいつらの過去の話にワクワクしている俺がムカつくぜ。

何か負けた気がするが…


そうして俺はアルスに続きを促すのだった。


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