第12話 禁術『ステロイド』

ザワザワザワ

「お、おい!なんで先生は試合を止めないんだ?」

「始める前にフレイムがルールを指定したんだ。どちらかが死ぬか負けを認めるまで試合を止めない、てな。」

「な!?しかもイグニスくんじゃなくてフレイムからかよ…何を考えているんだあいつは?」


クラスメイトたちがざわつくのも無理はない。

試合開始と同時にイグニスが今まで一報的にフレイムを叩きのめし、試合が始まり5分程しか経過していないがフレイムは既にボロボロの状態だ。

あまりに凄惨な状況に審判をしている教師も周囲で観戦しているクラスメイトたちも気が気ではないが、当のフレイムはまだまだ終わらすつもりはない。


「どうした?もう終わりかい??」


「ぐっ…ふざけやがって。もうボロボロじゃないか!!死にたいのか!?」


「君のそんな中身の伴わない筋肉に僕の今までの努力が負ける訳ないだろう?」


傍から見ればどう考えても優位なのはイグニスなのだが、実際精神的に優位に立っているのはフレイムである。

どんな攻撃を浴びせようともゾンビの様に立ち上がってくるフレイムに対し、イグニスは得体のしれない恐怖を感じていた。


「だ、だったらとことんやってあげようじゃないか!!そもそも攻撃すらしてこない君に勝つことなんて不可能なんだよぉぉおお!!」


バシッ ドゴッ グギャンッ ムキッ ガンッ


さらに激しさを増すイグニスの攻撃を無防備に喰らい続けるフレイム。

しかし一向にフレイムは負けを認めない。


「「……………」」


そんなフレイムを無言で見つめるアルスとセニア、その横で心配そうにフレイムとアルスたちを交互に見るアクアス・ガイア・ゼファの三人。


「ね、ねぇ。流石に止めた方がいいんじゃないかしら?」

「うん、ウチも我慢の限界だよー」

「うむ、これ以上は弱い者いじめになってしまう。」


フレイムと付き合いの浅いアクアスら3人はすぐに止めた方が良いと主張するが、付き合いの長いアルスとセニアは見守るだけである。


「あら、弱い者って誰の事かしら?」

「はっはっは。フレイムが止めるなと言っているのであれば止めたら我々がフレイムに怒られてしまうな。」


「で、でも…」


アクアスは納得できず止めるように再度呼び掛けようと思ったが、アルスとセニアの握り込んだ拳から血が滴り落ちているのに気づき黙った。

本当は誰よりも我慢しているのだろう。


「ハァハァハァハァ。い、いい加減意地を張るのはやめたらどうだい?」


「おかしなことを言うねイグアスくん。こんな攻撃なら僕はまだまだずっと耐えられるよ。」クスクス


明らかにフレイムの肉体は限界を超えているはずだ。全身ボロボロになり、顔など元々のフレイムの顔の面影すらわからない。

それにも関わらずフレイムはいつも通りの口調で強がる。


「フレイムよ、まだ大丈夫なのだな?」


「セニアくん、僕はまだまだ平気だよ。いくらセニアくん達でももし途中で止めたら一生許さないから。」


「我らを見損なうなフレイム。」


「ありがとうセニアくん。もしここで諦めてしまったら、僕は一生君たちの横に立てなくなる気がするんだ…」


こんなフレイムの決意を聞いてしまったら教師たちも止められなくなる。

周囲はただ黙って事の顛末を見守るしかなくなってしまった。


「い、いくらお前が我慢強くたって攻撃してこないことには僕に勝てないぞ!」


「今の僕ではどう頑張ったって君を倒せる攻撃何てできやしないよ。僕にできることは君の心が折れるまで、君の攻撃に耐える事だけさ。」


「お、お前、あ、頭どうかしてるんじゃないのか?」


「禁術に手を出した君には言われたくないね。僕は僕自身の為、僕の友の誇りの為、君には絶対に負けないって決めているだけさ。」


しばし2人の間に沈黙が訪れる。

周囲の観客たちも固唾を飲んで見守り、2人の息遣いだけが際立つ。


「ハァハァハァ。いいだろう、次で終わらせてやるよ。俺の全身全霊乗せた拳で、お前のそのちんけなプライドを粉砕してやるよ…『ステロイド』4倍!!!!」


「「「な!?」」」


禁術を唱えた時点で教師は模擬戦を中止にすべきだったが、あまりに突然だった為か教師たちの反応が遅れた。


「大丈夫。僕は何の心配もいらないよ。こんな見た目だけで美しさの欠片もない上腕二頭筋に、僕の心は砕けやしない。さあ来いイグニス!僕がお前の見せかけだけの筋肉の鼻っ柱をぽっきりと折ってやるぅぅぅうううう!!!」


ドカーーーーーーンッ


余りの衝撃の強さにより辺り一面土埃が舞う。

周囲は土埃が落ち着くのを待ち、勝負の行方を見守る。


「「「……………」」」


「僕の…負けだ……」


禁術の反動で小さくなったイグニスが小さく呟く。


「君の敗因は、自分の筋肉を信じてやれなかったことだ。」


「し、勝者……フレイム!!!」

ワーワーザワザワスゴイゾショウブダッタゾフレイムーワーワー



保健室-


「あなたは馬鹿なのフレイムさん?」


「まぁまぁそう言ってやるなアルスよ。男には引けぬ戦いというのがあるんだ。」


「い、痛いよアルスちゃん!もう少し優しくしてよ!!」


さっきまでの雄姿が嘘のように弱音を吐くフレイムに心配して駆けつけたアルスたち5名は胸をなでおろした。


「「「……………」」」


フレイムの治療一通り終わると3人の間に沈黙が流れる。


「感謝しますわフレイムさん。」


「え?」


「教師たちに捕まったイグニスが全てを白状した。お前が我らの為に怒り、我らの誇りを守る為に戦っていた、とな。」


あの後イグニスは治療もほどほどに、禁術を使用した罪で拘束され教師たちによって警察へ引き渡された。

警察が来るまでの間にそれまでの経緯をポツリポツリと語りだしたそうだ。


「………。僕はこれで良かったのかな?僕が他の方法をとったらイグニスくんも禁術になんか手を出してなかったのかもしれない…」


「そんな『たられば』の話は誰にもわかりませんわ。ただ、イグニスさんは最後に貴方のおかげでやり直すチャンスを貰えた、と貴方にお礼を言っていたそうですわ。」


「フレイムよ、本当に強くなったな……」


しみじみとセニアに褒められ泣きそうになるフレイム。

少しは2人の幼馴染として恥ずかしくない魔族になれただろうか。


「フレイムよ、我らもお前のおかげで覚悟が決まったぞ。」


アルスとセニアが決意した表情でフレイムを見つめる。


「ど、どうしたのさ改まっちゃって。」


「私たちは来年の春から一足先に魔王様の側近になるわ。」


「んな!?」


かねてよりアルスとセニアには魔王軍からスカウトが来ていたが、今の自分たちで通用するのか不安だった2人は返事を保留していた。

しかし、フレイムの雄姿を目の当たりにし自分たちの中途半端な覚悟を恥じ、2人は即座にスカウトに応じることを決めた。

何よりも自分たちを信じてくれたフレイムの気持ちを裏切りたくなかった。


「一足先に我らは約束を果たすが、お前も自分のペースでしっかり成長を続け、我らの幼き時の誓いを必ず果たしてくれ…」


「フレイムさん、貴方は誰にも負けない強い心をお持ちです。離れていても安心して貴方の成長を信じられます。」


「す、すぐには無理かもしれないけど、絶対に僕は2人に追いついて見せるよ!だから心配しないでよね!」


「はっはっは。あんな強い姿を見せられて心配なんぞする訳ないだろう。」


「それでは残りの期間、精一杯フレイムさんのトレーニングに付き合いますわ。」


「ああ、そうだな。少なくても2年は離れることになるからその分を明日から上乗せしなくてはならないな。」


「え、ちょ。怪我しt、明日からは無r……」


こうして3人の幼馴染たちは残りの一緒に過ごせる学生期間をより一層充実したものにしていくのであった。

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「そうであったな、我らが最年少の側近になる覚悟を決めることができたのもフレイムのおかげだったな。」


「懐かしいですわね~。」


「…………」


「どうかなさいましたか魔王様?」


「は、早く続きを聞かせてくれ…」


なんだこの胸熱な展開は…アルスとセニアのくせに。

フレイム、なんでお前は変わってしまったんだよー!


……いや、一番変わったのはアルスとセニアなのか?

もうよくわからん。


続きはよ!!

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