第1話

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意識が覚醒し瞼を開くと目の前には豪華な装飾がなされた天井が見える。


(知らない天井だ……)


「ばぶぅー………!?」


俺の声か!?赤ん坊から開始とか…中々ハードモードだぞ?

寝返りを打つと、だだっ広い神殿のような作りの部屋の真ん中、俺は祭壇の上に寝転んだ状態で転生したらしい。

静寂に包まれた室内で、俺の微かなうめき声だけがこだまする。


「ばうー?」

転生したのは間違いないようだが、果たしてここは本当に魔族の国なのか?

周囲に親も保護者らしき大人もいないしどうしたものか……

そういやぁアシスタント機能がどうとか言ってたな確か。


『お呼びですか?』


(うぉっ!ビックリした)


俺の脳内に響く声、これがアシスタント機能とやらだろう。

どうやったら意志疎通が出来るのだろうか、とりあえず脳内で返事してみるか。


(ええと……初めまして、俺の名前は佐藤一郎です。とりあえず俺の置かれている状況が知りたいです)


『………解析が終了しました。』


(ん?どういうこと??)


『スクリーニング完了……個体情報の分析を完了致しました。今後のコミュニケーションに有効となるよう言語のオート変換が可能です。利用しますか?』


(い……イエスっ!!言葉が通じなかったらもうどうしようもないわ。)


『完了しました。本機能は歴代魔王の知識・経験の引用が可能ですが、魔王としての人生を楽しむ為に初期化することをお勧めします。』


(え?)


『初期化しますか?』


(しかし魔王としての人生って…よくわからないけど人生楽しむよりまずは少しでも生き抜く可能性が高い方でお願いします。)


『承知しました。それでは初期化を取りやめます。』


「ばうー……」

(まず俺は何から始めればいいんだ……あなたのことは何て呼べばいいですか?)


『私のことはお好きにお呼び下さい。今後魔王様の事をサポートさせていただきますので、呼びやすい名称や愛着のある名称をお勧めします。ちなみに私に対しては命令口調で構いません。』


(うーん、じゃあ小学生の頃飼ってた豆柴と同じ名前の『はちべえ』にしよう。)


『畏まりました。これより私の存在をはちべえとして上書きし魔王様のサポートを開始します。』


(上書きってどういうことかわからんが、俺は何から始めればいいんだ?)


『まずステータスの確認を推奨致します。』


(そうか、魔神もそんなこと言ってたな。俺のステータスや能力って確認できるのか?)


『はい。こちらが佐藤様のステータスです。』


頭の中に急に自分のステータスが浮かび上がる。


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【名前】佐藤一郎

【種族】魔神族

【状態】良好

Lv1/?????

HP:15000/15000

MP:30000/30000

攻撃力:7800

防御力:6200

魔法力:12000

素早さ:30500

【加護】

魔神の加護:周囲に恐怖と絶望を与える

【パッシブ】

絶望の共振:周囲の人間の恐怖や絶望など負の感情をオートで吸収。与える恐怖の分だけ所持者のステータスをアップする。

絶対服従:圧倒的な支配力を持つ。魔王の命令は絶対。不可避。

【スキル】

断罪の刃:魔王以外生きる事自体が罪。切れぬものはない。

不死の復活:魔王は死者の魂をも不死の力でその者を蘇らせる。魔王は自軍の兵士や配下を不死の軍勢として繰り返し戦場に送り込むことができる。

闇の召喚:魔王は暗黒の力を使って魔物や悪霊を召喚し、敵に攻撃させる。

絶望の実現:魔王は敵や周囲の者たちにとっての絶望を実現させる。不可避。

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いやいやいやいや……え?

ステータスの基準はわからないけど強すぎないか俺のスキル?

途中で見るのやめたけどまだまだスキルあるし…


(ひょっとして俺強過ぎない?)


『基礎ステータスは現時点で、成体含めた魔神族の平均値で設定されています。』


(な、なるほど。平均ってことはそこまで強い訳ではないのか…)


『はい。ですが魔王様はあと3日程で成体となります。そうなるとレベル1の状態で今の数十倍以上のステータスに膨れ上がります。』


(え?)


『そこからレベルが1つあがるごとにステータスは倍々になっていきます。ちなみに、魔神族は魔族最強で非常に希少な種族となっておりますが、魔王様の場合種族云々の前にパッシブスキルと加護のコンボだけで世界を制圧できるはずです。』


…なるほど。

戦うつもりがまったくない俺には本当に無駄なスキルばかりだな。

スキルの名前はかっこいいけど。

能力に関しては少し理解できたが、もうひとつ確認せねばならぬ重要な事がある。


(…なぁはちべえ……俺の見た目ってイケてる?)


『解析します。』


(………)


『解析結果を報告いたします……』


(頼む!!)


『……流石魔王様です。』


(ドキドキ…)


『過去未来の美的感覚に照らし合わせても、誰もが息を呑む信じられない程美しいお顔のつくりとなっているようです。』


(おっしゃーまじか!!)

『まさに魔界を統べるに相応しいお方でございます。』


(人生初の彼女が現実に…)


『魔王様にとって造作もないことです。』


(魔王最高じゃねぇか……)


しかし魔王ってのは一体何をする存在なんだろう…

ハーレムで悠々自適に暮らす為には是が非でも安定した生活が必要だな。


(はちべえ、俺はこの世界で何をすればいいんだ?)


『魔王様の使命は魔族の繁栄です。』


(具体的に何をすればいいんだ?)


『そうですね……まずは手始めに人間を滅ぼしてはいかがでしょうか?』


(却下だ!そんなことする訳ねぇだろ!そもそも俺は魔王違いでこっちに転生させられただけなんだぞ!?)


『しかし、魔王様は既に容易に世界を征服する能力をお持ちです。時間をかけずとも人間を滅ぼす事が可能です。色恋沙汰はその後でも十分かと。』


(………………)


俺の無言をどう捉えたのかはちべえは話を続ける。


『人間と魔族の戦いは1万年以上前から続いております。』


(そもそも戦争の切っ掛けはなんなんだ?)


『人間が、我ら魔族の領土に進軍を始めたのは13,000年前…


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大昔、人間と魔族は互いの存在は認識しながらも特に接触もなく、互いに一切の干渉もなく過ごしていた。


しかし、繁殖力の高い人間は徐々に住む場所を求めて領土を広げていき、長い年月を掛け、魔族が住む大陸以外は全て人間の手が伸びていった。


一方、寿命が長く人間ほど繁殖力が高くはない魔族は、住む土地にこそ苦労しなかったが、魔族の暮らす土地は資源に乏しく食物も育ちにくい土壌の為、飢えに苦しんでいた。


そしてある記録的な農作物の不作が続いた年、魔族も新たな領地の開拓を決意した。


神々のいたずらか、偶然の産物か、はたまた必然なのか。

人間が魔族の住む大陸へと進行を始めた時と合わせ、魔族も新たな土地を求めた。


そうなると最早争いは不可避。

何がきっかけか、どちらから先に手を出したか、そんな些末なことはもう関係ない。


1万年を超える魔族と人間の争いが始まっていった。


圧倒的な個の力を誇る魔族に対し、人間は集団の力で対抗。

開戦直後、魔族の強さを人間が理解していなかった頃こそ魔族が優勢だったが、1対1での不利を理解した人間が謀略や戦略を駆使しじわじわと優勢に。


そこから約3,000年の間、人間は緩やかに領土を広げていった。

そこに突如、後に魔王と呼ばれる、人間と比べ圧倒的な力を誇る魔族の中でも更に圧倒的な力の個体が現れる。

本来小規模な群れしか成さない魔族が、武力だけでなく知力も併せ持った魔王を中心に少しずつ軍隊を形成し始める。


人間に比べれば拙い組織レベルだが、それまで個の力だけで保たれていた均衡が崩れるには十分過ぎるきっかけだった。


しかしここまで二転三転してきた戦況、今回も当然魔族の優勢が続く訳がない。

魔王が現れてすぐ、今度は人間の中に勇者と呼ばれる者が現れる。

文字通り一騎当千、魔族と比べ個では劣っているはずの人間の中、1対1で魔族を圧倒する異質な力を持ち、更には不思議な力で周囲の仲間の力を大幅に増大させる。


また、魔王も勇者も一代限りの突然変異ではなく、理由はわからないが戦死しても天寿をまっとうしても、気付くととどこかで新たな魔王・勇者が生まれてくる。

あとはもう、時に魔族が優勢になり人間を窮地に追い込んだと思えば、翌年には人間側が形勢逆転、といった具合にダラダラと1万年以上戦争は続いていく。

子の世代へ、孫の世代へ…次の世代へ次の世代へ……

最早、なぜ戦っているのか、誰も理由すらわからない…


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『以上が、現在の戦況です。』


(……)


『先代魔王様は現代の勇者ら人間に討伐されてしまいました。勇者をあと一歩のところまで追い込んでいましたが、最後は人間の汚い策略により戦死されました。』


(なるほど……)


『現在の戦況は過去類を見ない程、人間側が優勢です。このままいけば魔族は滅亡してしまう可能性が高いと思います。』


(おいおいおい!それはまずいだろ!!)


『魔王様、どうか魔族をお導き下さい…』


(うーん……)


俺ははちべえから聞かされた話を脳内で反芻しながら思考を巡らせていた。


『魔王様、どうか魔族をお導き下さい……』


(あーもう!わかった!!わかったよ!!やればいいんだろ!?)


人間の時にはあり得なかった強さを手に入れたからなのか、今なら何でも出来る気がする。


(ただ俺は人間を滅ぼすつもりはないからな!?)


『なるほど、流石魔王様です。家畜として飼育する訳ですね。』


(……………)


本来あり得ないこの状況を受け入れていること自体、考えてみる不思議だが自然に受け入れている自分もいる。魔王に転生した影響なのかな。

だからと言って争いごとは俺には無理なので他の方法を考えないとね。


安定した生活と夢のハーレム生活の為の努力を惜しむつもりはない。

障害が大きければ大きい程達成した時の喜びも大きいだろう。

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