第2話 予言の子とかちょっと憧れるでしょ

取りあえず魔王としての役割は前向きに考えてみるつもりだが、何をするかは何も決まっていない。

この世界の知識が乏しすぎる以上いきなり動くのは危険、そもそも赤ん坊だし。

さてどうするかね。

はちべえ曰く3日後には大人になるって言ってたけど赤ん坊の状態で放置は下手したら死ぬ。

ん-どうしたもんかなー。


ダダダダダダダダッ

なんて考えていたら突然神殿の扉が乱暴に開け放たれる。


「魔王様!!!!!」


「おぉ!遂に降臨されたか!」


(え?なにこれ、誰この人達!?)


扉から入ってきたのは、男女の二人組。

二人ともすんげー美形だけど男の方はぽっちゃり、女性は不健康なほどガリガリに痩せている。


「予言の通りだわ!!」


「魔王様!遂に我らの願いが叶い、こうしてお目見えすることが叶いました!!」


(予言??)


「あぁ……なんて神々しいのかしら。まだ赤子のお姿でありながら視界に入るだけで恐怖で意識を持っていかれそうになるわ。」ガクブルガクブル


二人は俺を見るや否や跪き、涙を流し始めた。


(えぇーなにこれ!?情報が多すぎるわ!!)


「魔王様!どうか我らにお導きを!!」


女性魔族が涙を流しながら必死に訴えて来る。


(いや、だから怖いって!!)


「この命尽きようとも、我らは魔王様に忠誠を誓います!」


男性魔族の熱量も変わらない。


(重い重い重い重い!!)


『解析完了……。』


(え?なに??)


『魔族の個体名:女性魔族が、アルス・リザレス。男性魔族がセニア・ゼファートという名のようです。二人は先代魔王軍の幹部であり、現在は魔王不在の中、一応まとめ役として魔王軍の内政を担っているようです。脳みそ筋肉が蔓延る魔族の中でも珍しい知略に長けた魔族です』


「あぁ……なんと神々しくも悍ましいお姿」ガクブルガクブル


(え?え??ちょ、怖いって!!あーもう!!!)


「ば、ばぶぅ(ちょ、ちょっと落ち着いて)」


あ……しゃべれねぇんだ。あらやだ恥ずかしい。


アルス・セニア「!?」


あー、そのほら、あれだ…


「魔王様のお言葉を理解できない私たちなど存在そのものがゴミ以下ね。」


「うむ、人知れず死のう。」


待て待て待て待て待つんだ。


『魔王様、魔王様が望む大抵のことは実現するはずです。彼らとの意思の疎通など簡単なことです。』


はちべえが脳内で囁く。

よくわかんねーけーど………こいつらと会話する能力をくれ!!


ピコン

スキル【万物の理】を手に入れた。全ての物質や生命体、事象や概念、歴史すらも書き換えられる。魔王が望むことは全て実現する。


脳内に突如無機質な音声が流れる。


ちょ!?


『…魔王様、またとんでもないことを…』


はいごめんなさい。

気を付けないと折角手に入れた異世界生活が一気に面白くなくなってしまう。

何事も多少の苦労はスパイスとして必要であろう。


「ん、んーゴホン アルスさんにセニアさん、よく来てくれました。と、取りあえず二人とも楽にして下さい。」


「あぁ……なんて恐ろしい声なの?魔王様が我等に語りかけてくださるなんて!」ガクガクブルブル


「ああ恐怖で意識が持っていかれそうだ……た、たまらん…」ガクガクブルブル


父さん、母さん、どこの世界にも変態はいるようです。


「それで、早速で恐縮ですがお二人にお願いがあります。」


「「なんなりと!どうぞこの身をお使い下さい!」」


「えっと、先ずは俺ここから出たことないんで魔族の国を一通り案内して貰えませんか…?」


「そ、そんな…魔王様自ら我ら下々の生活を見ていただけるなんて……」


「あぁ……身に余る光栄…もう俺は死んでも構わない……」


いっそのことこの二人に頼らなくてもさっき手に入れたスキルで何とかなるんじゃないかとすら考える。


「……も、もっと気軽に敬語無しで会話してもらえませんか?」


「…!?…まままま魔王くんおおおお安い御用よ゛……」グギギギギギ


「…!?…よーし、じゃししし視察にいいいいいくか…」グギギギギギ


「…すみません、血の涙を流すくらいならもう今まで通りで結構です(魔族はみんなこんな感じなのかな…)」ハァ…


『こいつらの忠義が異常なだけです…』


「視察に行く前に簡単に『ブラッドレイヴン』の事を教えてください。都市の情報とか位置関係とか。」


「お安い御用ですわ魔王様。」


「私どもの命に代えてでも、魔王様にお伝えさせていただきます。」


「………」


アルスらの話によれば、魔族は大きく分けて5つの都市に分かれている。

魔王城のあるレイヴンズフェルを中心に、北にシャドウヴェイル、南にナイトクリーク、西にダークヘルム、東にグリムウッド。


レイヴンズフェルは魔王城のある都市で魔族の絶対的中心である。

その周辺に東西南北と4つの都市が隣接している形だ。

レイブンズフェルを囲う4つの都市はそれぞれ大きな特徴に分かれており、シャドウヴェイルは商業都市、ナイトクリークは工業都市、ダークヘルムは軍事都市、グリムウッドは農業と畜産が盛んな地域となっている。


また4つの都市にはそれぞれ四天王と呼ばれる、圧倒的な武力を持つ魔族が1人ずつおり、その4人がそれぞれの都市を統治している。

ちなみに、知力に長けたアルスとセニアだが、四天王と比べると武力は圧倒的に劣るらしい。

なので、民衆からの尊敬を集める四天王が統治している。どこまでいっても強いが正義、が魔族の根っこだな。


ちなみに、今俺がいるのはシャドウヴェイルの奥地にある魔神を祭っている神殿にいるらしい。

魔王城のあるレイヴンズフェルは、東西南北の4つの都市の中心に位置する巨大な湖に浮かぶ島で、島を囲うようにして城壁が築かれている。それぞれの都市から橋が架けられているそうだが、各都市の橋には門番がいて通るには門番と戦う必要があるとのこと。そして、その橋を渡った先に魔王城があるそうだ。


「「以上が、ブラッドレイヴンについてです」」


「はい、ありがとうございますお二人とも。大変参考になりました。ではこれで俺は失礼します。」


嘘だよ、冗談です。二人ともなぜ剣を自分の首に刺そうとしてるのさ。

よし、簡単な情報は手に入れたし後は実際に見ながら考えよう。


「では、早速行きましょう」


「「御意!!」」


………

魔王「忘れてた、まだ動けなかった…」


「で、では僭越ながら、だだ抱っこで移動させていただきますね///」


「ず、ずるいぞアルス!では私はおんぶで……///」


「ちょっと、邪魔しないでよ!」


「こっちのセリフだ!!」


「…………」プカプカプカ


「「………」」


「なんか自分で飛べたみたいです…」


2人とも膝をついて泣き崩れているが知ったこっちゃない。

気持ち悪い。


「さ、流石魔王様ですわ。」


「じゃあ今度こそ案内をお願いします。」


「「お任せ下さい!我が命に代えましても必ずやご案内させて頂きます!!」」


「自分の安全第一でお願いします……」


こうして、俺は魔族の都市を巡りに出発した。

まずはこのまま、今いる神殿があるシャドウヴェイルから訪れてみるか。

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