魔王転生 ~僕は悪い魔王じゃない~

鯱福

プロローグ 異世界転生

やらないで後悔するよりやって後悔したほうがいい。

騙された、多分これは嘘だ。


柄にもなく人助けなんてしなければ良かった。

電車内で酔っ払った男に乱暴に声を掛けられていたOL風の女性、普段だったら寝たふりをしてやり過ごしていたが……


「嫌がっているだろ、その手を放せ!」


「あ?」


昨日ネ●フリで見た特撮ヒーローものの影響か、後先考えずにトラブルに首を突っ込んでしまった……。

次の停車駅で男に肩をがっしりと組まれながら降ろされ、俺は人気のない空き地に連れられて来た。

連れ去られる途中、絡まれていた女性に視線を送ったら目を逸らされた。

大丈夫、俺は『彼女いない歴=年齢』の非モテサラリーマン、最初から何も期待していない。


「ななななな何の用だ!?しゅしゅしゅしゅ終電なくなっちゃったじゃないか!!」


相手の男の目はバキバキに決まっており雰囲気が尋常ではない。


「………世の中に怖いものってある?」ニヤニヤ


今この瞬間ですと正直に言いたい。


「……な、ななななにが言いたいんだ!?いいいい今はそんなこと関係ないだろ!!!」


嚙み過ぎてきっと伝わっていないだろうなと考える冷静な自分がいるが事態は何も変わらない。


「俺はなぁ…怖いもん何てなんもねぇんだわww自分が死ぬのもどうでもいいし、それこそ相手が死ぬことなんかもっとどうでもいいwww」


こいつ本格的にやばそう…隙を見て逃げ出さないと……


「嫁さんが男作って子供連れて貯金持ってどっかいっちまったと思ったら車も家も勝手に売りに出されてて文字通り俺には何も無くなっちまったよww」


とんでもない不幸な話をしているが今の俺に同情する余裕などある訳ない。

男は空を見上げながら話を続ける。


「ねぇねぇなんで俺がこんな不幸なのにお前普通に生きてんの?ね゛ぇぇぇえええええええええ??」


「ひぃぃぃぃぃぃいいいいい!」ブシャァァァ


あまりの恐怖に腰を抜かし大人の尊厳を一瞬で失う俺。


「俺が不幸なのはもうどうでもいいけどさぁぁぁぁあああ、俺がこんな思いしてんのに何も考えず惰性でただただのうのうと生きてるような連中が許せないんだよねぇぇぇえええええ」


「そ、そそそんなのおおおお前にか関係ななないだろぉぉ!?」


「…………」


「…………」


「……確かにw」


「…(助かった)ホッ」


「でもなら俺がお前殺すのもお前に関係ないなぁぁぁああああああああwwww」


「……確かにーーーーーーー」ヒィーーーーー


こうして俺は早々に意識を手放した……


願わくば来世は死ぬ前に彼女が欲しいです神様………



---


オキロ…イツマデネテイルノダ…


(…んん…体が動かん……)


サッサトォォォ…起きろぉぉぉぉおおお!


(うぉぉおお、びっくりしたぁぁぁ!)


「いつまで寝ているつもりだ馬鹿者。そもそも貴様は今精神体なんじゃから寝るも起きるもなかろうが。」


(精神体?どうい…う……こと………あぁっ!俺は助かったのか!?)


「ようやく目覚めたか。寝ぼけおってからに」


落ち着いて周囲を見てみても何も見えないが、何故か目の前の真っ白なフードを被った恐ろしい程美形な少年だけは認識できる。

見た目は少年なのに年寄りみたいな話し方が目の前の少年の異常性を際立たせている。


「まぁそう慌てるな、今から順を追って説明してやるから落ち着いて聞け」


(こ、これはひょっとして、異世界転生的なあれか!!白い部屋、見たこともない美しい女神、みたいなイメージだったが真っ暗少年パターンもあるのか!!ようやく俺の時代が来る!!!!)


「はっはっはっは…察しが良くて話が早い。私は神だ…魔族の神、魔神だ!」


(…え?魔人??…何そのパターン?)


「貴様は間もなく魔界『ブラッドレイヴン』に魔族の王として転生する」


(え?…えぇ??ちょっ…ま……)


「貴様は魔王として魔族たちを束ね魔族の繁栄を目指すのじゃ」


(勇者は?俺勇者じゃないの??)


「はっはっは。転生する前から宿敵の存在を既に意識しているとは此度の魔王は期待できるな!!」


(違う!そうじゃない!!)


「勿論だ!無論貴様には私が直々に選んだ非常に強力なスキルを与えるぞ。」


(それは中二病心がくすぐられる…でも彼女も欲しい…)


「当然王たるもの見た目も重要だ。モテモテに決まってるだろう。」


(魔王最高かよ!!!)


「魔王よ、期待しているぞ…。人間どもを根絶やしにし、1万年以上続く戦乱の世に終止符を打つのだ!!!!!!」


(いえ、それは無理です。)


「はっはっは。謙遜するでない。貴様の持って生まれた悪の才能と我の与えるスキルさえあれば叶わぬことなど何一つとしてない。」


(俺の才能…?)


「そうだ!長いこと貴様らの世界を観察していたが、貴様程『負の波動』をまとった人間は初めてだったぞ。憎悪・絶望・憤怒・殺意・虚無、あらゆる負の感情が、信じられぬほど人間の常識を超えている。ほれ、今も溢れ…ん……ばか…りに…?」


(ん??)


「誰だ貴様?」


(え?え??どういうこと???)


「平凡過ぎるぞ?全てにおいて平凡過ぎ…る??」


(…てめぇ……まさか………人違いじゃ…)


「よし。では間もなく貴様は魔界に転生される。魔界は過酷な環境である故、十分気を付けるが良い。まぁ我が力を与える貴様は万が一も起こらんだろうがな。はっはっは」


(おい、お前何もなかったことにしようとしてねぇか?)


「我は忙しい故そろそろ『ブラッドレイヴン』に送ろう。貴様が次に目覚めた時、まずは主のステータスを確認するのじゃ。安心のアシスタント機能を付けておいたから心配はいらぬぞ。」


(待て待て、一旦落ち着いて話そうぜ魔神さんよ。)


「では魔王よ!貴様の覇道と混沌に満ちた生に祝福を!!」


そうして俺はブラッドレイヴンに転生することとなった。

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