幼馴染をはなさないで

薄味メロン@実力主義に~3巻発売中

はなさないで

「あおとー、今日の放課後なんだけど」


「悪い。ちょっとすることがあるから、遊べそうにないな」


「……そっか」


 藍都とは、幼稚園からの幼馴染。


 家が隣同士で、高校に入るまではずっと一緒に遊んでた。


「頑張ってね」


「おう」


 なにをしてるのか知らないけど、最近は忙しいみたい。


 どうせ、あの藍都のことだ。

 ゲームの特訓でもしてるに決まってる。


 そう思いたいけど、クラスメイトの話を聞いてしまった。


『藍都くん、カッコイイよね。彼女いるのかな?』


『いつも一緒にいる子じゃないの? あの、地味な感じの』


『違うらしいよ。あの子は、ただの幼馴染なんだって』


 その通りなんだけど、なんだかモヤっともする。


『そうだよね。釣り合わないもんね』


『わかるー』


 いたたまれなくなって、静かに立ち上がる。


 そのまま帰ろうとして、信じられない言葉を聞いた。


『私、見ちゃったんだよね! 藍都くんがデートしてるとこ!』


『そうなの!? お相手は?』


『たぶん大学生! すっごく綺麗で、スタイルのいいお姉さんだったよ!』


 綺麗な、お姉さん。


 私の記憶の中に、思い当たる人はいない。


 だけどクラスメイトたちは、隠し撮りをした写真を見て、盛り上がってる。


「……そうなんだ」


 そんな言葉が、口からもれた。


 うつむきながら学校を出て、冷たい風をゆっくりと吸い込む。


「……言ってくれたら良かったのに」


 幼なじみに隠し事するなんて、ほんとにひどい。


 今度は無理矢理にでも時間を作らせて、ゲームでボコボコにしてやる!


 その罰ゲームで、彼女さんのことを聞き出してやる!!


「それで、最後、かな」


 地味でゲームしか取り柄がないけど、性別はいちおう女性だから……


 藍都の彼女さんが、勘違いしても困るしね……


「ほんと、素直に言ってくれたら良かったのにな」


 おめでとうって、言ってあげたのに。


 心からの祝福は、無理かも知れないけど……


 そう思っていると、スマホが震えた。


「あおと?」


 画面の文字を見て、恐る恐る電話に出る。


『悪い、やっぱり今から遊べたりする?』


 聞き慣れた、藍都の声がした。


「……いいけど、急にどうしたの?」


『ん? あんまり元気ない感じか?』


 ほんと、変に鋭いよね。


 普段は鈍いのに。


「なんでもないよ。それで? なんのゲームする?」


『いや、ちょっと合わせたい人がいてさ。家で待っててくれるか?』


「……うん。わかった」


 嫌な予感がするけど、おとなしく家に帰って、藍都が来るのを待つ。


 ピンポーンとチャイムの音がして、藍都の隣には、綺麗な女性が立っていた。


(ほんとにバカ! 彼女さんを私の家につれてきてどうするのよ!!)


 藍都は、本当に女心がわかってない!


 幼稚園の時から、ずっと!!


「さくらさんですね?」


 女性はなぜか、私がゲームで使うときの名前を口にした。


 名刺を取り出して、渡してくれる。


  eスポーツ 推進課 広報担当

 鳩辺はとべ 麻美あさみ

                』


「ペア部門で優勝したおふたりに、取材をさせていただきたく思いまして」


 名刺を見て、女性を見る。


 そんな私に向けて、藍都が無邪気な笑みを浮かべた。


「記事の反響が大きかったら、プロチームに所属できるかもしれないってさ!」


 幼稚園の頃から変わらない、無邪気な笑み。


 藍都の方にメールが来て、危なくないか、ひとりで話を聞きに行ったみたい。


「……最近遊ぶ時間がなかったのって、そのせい?」


「おう。敬語ばかりのメールが大変でさぁ」


 詐欺でも何でもないってわかって、私に会わせてくれた。


 藍都なりに、私を護ろうとしてくれたのだろう。


 一応だけど、私を女の子だって思ってくれてるみたいだ。


「ほんとうに、バカなんだから」


 クラスメイトがデートだと思った相手は、たぶんこの人。


 ホッとしちゃってる私も、ほんとにバカだ。

 

「すぐに話さなくてごめんな」


「……いいよ。それが藍都だもん」


 このまま、私を離さないでくれたら。


 それでいいよ。

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