はなさないで[KAC20245]

夏目 漱一郎

第1話はなさないで(話さないで)

「分かっていると思うが、で頼むよ。それでなくてもわが民自党の支持率は現在超危険水域に達しているんだからね」


『例の事』というのは、つい昨日のニュースで物議を醸したセクシーダンス懇親会の件だ。これに関しては『セクシーダンス』というワードのインパクトがあまりに大きい為、興味本位のマスコミによってより面白可笑しく報道されてしまったのが最大の失敗だ。


問題は二つある。ひとつは、こんなくだらない懇親会の費用が公金から捻出されているのではないかという疑念を国民に持たれている事。もうひとつは、懇親会の余興で姿という機運が国民に浸透してしまった事。


最初の問題に関しての対処は決まっている。とにかく公金は使っていないで押し通すしかない。もし記者が何か証拠のようなものを提示してきたら…その時は、わからない或いは便がある。問題は二つ目の問題だ。聞いた話では、チップを咥えてダンサーに口移しで渡していた者もいたとか…そしてそれをなどという言葉で弁解していたという…はっきり言ってありえない!言い訳をするにしても、もっとましな言い訳があるだろうに。ワイドショーなどを観てもダンサー自体を非難しているコメンテーターは少ない。彼女達は依頼された仕事をしただけだと擁護する意見が多い。つまり、非難されているのはダンサーではなく懇親会に出ていた議員の人間性なのだ。鼻の下を伸ばしてセクシーダンサーを見ていた我々議員がエロ過ぎて国民は引いているのだ。私はこの誤解を解き、さらに多様性という言葉はをより身近に認識させる有効な手段を考えついた。丁度明日、マスコミ各社を集めての記者会見が予定されている。きっと総理や幹事長もこの会見に注目している事だろう。



そして翌日…私は多くのテレビカメラや記者達に囲まれて会見に臨んだ。


『………………』

『あの…今日はどうしてんでしょうか?』

「いやあ、実は私がありまして女性にはまったく興味が無いのですよ…何しろ多様性の世の中ですから全く問題はありません!オホホホホホ」

『はぁ・・・』


その様子を議員会館のテレビで観ていた民自党の幹事長は、同じく民自党の国対委員長に電話をしていた。


「そう、今会見しているアイツ。今度の選挙、いいから!」



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