第5話

 ぱんっ!

 話をしていると、準備をしましょう!とお母様が手を叩いた。


 私付きの見習いの使用人リーサに左手を繋がれ自室に向かう。

 お母様が持っていた本はリーサが持っていてくれている。

 オーちゃんは欠伸をして眠そうな顔をしながら、私の頭の上に乗っている。


 リーサはマーサの次女で、私より7つ上。

 使用人用の学園に通いながら、私の相手をしてくれている。

『ねえ、リーサ。…大お祖母様ってどんな人だろ』

(本来は私のような使用人とは、手を繋ぐような関係性ではないけど、ルシルお嬢様は手を繋ぎ歩いていると大人しく、私に着いてきてくれるからとても助かるわ)


「マリア様は素敵なお方と聞いています。きっとルシル様のことも大好きですよ。」

 その話を受けオーちゃんは私の顔を頭上から覗きながら、口を開いた。

「あーそうだな。…マリアは、俺が認めたやつだからな。気は強えし腕っぷしもな。まだ小せー時は正義感ばっかり前に出て、結構無鉄砲なところがあったな」

 マリア大お祖母様の話をしているオーちゃんはすごく懐かしい目をしていて、目は少し潤んでいるようにも見えた。


『あの、オーちゃん。どうしたの?』

 ぽかんと口を開けたオーちゃんはクシャッと笑い、なんもねえーよっと答えた。


 そんな話をしているうちに自室に到着して、リーサと準備をする。ほとんどはリーサがやってくれたので、大お祖母様へのプレゼントとして、オーちゃんを描いた絵を用意した。喜んでくれるといいなあ。


 御屋敷の玄関が慌ただしい音がしたかと思うと、バタバタとした音とそれを追いかけるかのように複数の走る足音が聞こえたかと思うと、いきなり扉が開いた。


 バンッ!

「ルシルちゃん!」

 慌ただしく入ってきたのは、お母様と同じふわふわの銀髪を靡かせたフレイアお姉様だった。

 入ってきて早々に私を抱きしめ、顔を眺める。

 ああよかった、元気そうねと言葉を漏らした。


「報せが来た時は、もう驚きすぎて倒れるかと思ったわ」

 息絶えだえにも見えるが、うふふと微笑むお姉様はとっても可愛い。

 お姉様の笑顔の周りにお花が散って見える。

 とても優秀で、学園でも人気者なんだとお兄様が言っていた。

『お姉様、しらせってなに?』

 あっと、口を開いたが内緒よと人差し指を唇の前に持ってきて、しーっと言った。

「ルシルちゃん、私も準備しなきゃならないからまた後でお話ししましょうね」

 そう言い残し、慌ただしく出ていった。

 お姉様は少しだけ、そうすこしだけ、いつも慌ただしい。


 お母様はそんなお姉様に淑女でしょ!って言っているけど、お父様はユリアよりマシと呟いて睨まれていたのを思い出した。

 私は慌ただしくも、私を可愛がっていつも大事にしてくれるお姉様のことが大好きだった。

 時々毒吐くんだけどね、あはは。


「あれが一番上の姉ちゃんかーえらい綺麗な子だな」

『そうなの、フレイアお姉様とっても素敵でしょ』

「あんま似てねえなー。ま、母ちゃんとはよく似てんな」

 オーちゃんと話しているとリーサが準備終わりました、奥様にご報告してまいりますねと外へ出ていった。

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