第3話

「ルシル?」

 椅子に座り、本の上のぬいぐるみと話しているとキィっと薄茶色の扉を開けルシルの母親が入ってきた。


『お母様!』

 ジョージと稽古していたのではなかったのかしら、と言葉をこぼしながら入ってきた。

 そして銀髪の長い髪の毛を耳にかけた。


「まあまあ。あなたのところに来たのね。しかも、ぬいぐるみの姿にしたのね。…お祖母様の時とは、大違いなのね」

 そう言葉を口にし、口元は笑みを浮かべつつ目は少し憂いを帯びていた。

 ルシルを左腕に、右腕には本とぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

 少しぎゅっと抱きしめ、軽く息を整えた。

「…っ、お祖母様にすぐにお伝えしなきゃね」

『おばあさま?』


 後ろに控えていたメイドのマーサがハッとした顔をしていた。

「奥様、旦那様にもすぐにご連絡いたしますか?」

「ええ、すぐに。それとウィルを呼んでちょうだい、報せを出します」

「承知致しました」

 軽く頭を下げたマーサは、執事長のウィルを呼びに駆けていった。マナーを重んじるマーサが屋敷を駆けている姿は初めてルシルは見た。

 廊下に出て歩みを進めつつ、お母様は私に話しかけた。

「ねえルシル、ぬいぐるみさんのお名前は聞いたのかしら?」

『ええ!もちろん。オーちゃんって言うんですって』

「そうなの、ぜひ私にも紹介してくださる?」

 にっこりと笑みを浮かべる母親にルシルは返事をした。


『こちらはお友だちのオーちゃんです。オーちゃん!こちらは私のお母様よ』

「おう、お前がルシルの母ちゃんか。ってことは、マリアの孫娘か」

 目を細めた顔をし、笑顔でお母様は返事をした。

「初めまして、オーちゃん。私はユリアと言いますの。マリアお祖母様から聞いていてたのね」


「オーちゃんと私も呼んで構いませんこと?」

「もちろんそれで構わないさ。記憶はあるが所詮今はすっからかんで、なんもできないしな」

 くすくすと笑うお母様と少し不貞腐れた顔をしているオーちゃんを見て、私は仲良くなってくれたのかとニコニコしていた。


『お母様、マリアってどなたですの?』

「マリアお祖母様、えっとねルシルの大お祖母様で今はハーベストのお屋敷に住まわれているの。ルシルが生まれた頃にあったきりなのよ」


 そうなんだ!覚えてないなあと言う私に、オーちゃんは複雑そうな顔をしていた。

「報せをお出ししたら、みんなでハーベストに行ってご挨拶しましょう。その時はオーちゃんもね」

「…かもしれねーしな」

 下を向いて答えるオーちゃんの顔は私には見えなかった。

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