第2話

「ルシルー!どこにいるのー?」

 ベンティンク家の御屋敷はとても広い。


『うふふ、お兄様ってば見つけるの下手だなあ』

 わたくしは、ルシル。

 5歳になったばかりの女の子。

 いまはお兄様とかくれんぼしている最中、お兄様はルシルを見つけるのが下手っぴ。

 まあ正確に言えば、剣のお稽古をつけるなんて言うから逃亡の最中だったりするのよね。

 お兄様ったらいざ始めると、長いったら仕方ないのよ。先生じゃ負けばっかりだからって、私を相手にするなんてひどいわ。


『きっと、ルシルがお父様のお部屋にいると思ってないし、ここが丁度いいわね』

 お部屋が沢山あるから、探すのはとても大変。

 まあそもそもお兄様は難しい魔法関連の本が大量に置いてあるお父様のお部屋は苦手なわけだし…。どうせここには入ってこないもの。


『お父様のお部屋は入っちゃダメって言ってたの、なぜなのかしら』

 たくさん並んでいる本棚をぼーっと見つつ、真ん中辺りにある濃い色の本が気になった。


『あれは、なにかしら?不思議なご本だわ』

 いつもなら気にも留めないのに、何故だか無性にこの本に惹かれてしまった。

 あとで触ったことが分かれば怒られるかもしれないけれど、戻せば大丈夫よね。

 自分よりも少し高い位置にある本を取るために、書斎として使用している少し大きめの椅子を運び、椅子の上に乗ることで取ろうとした。

 んっしょ。と思わず声を漏らしながら足元に気をつけつつ、目の前の本に手を伸ばした。


『あれ?』

 厚みのある本のはずなのになんだか違和感がある。重さはあるのに軽いかのような不思議な感じだった。

 本を両手に取り、椅子に座る。

『どんな本なのかしら』


 膝に本を乗せつつ、本を開くと指輪が挟んであった。不思議なことに本に指輪の跡が残っていない。

『ゆび、わ?お母様のかしら?』

 綺麗な装飾品を付けている母を羨ましいと思っていた。

 まだ子供にはつけるのは早いことは自覚しているものの、装飾品には憧れる年齢だった。

 左手で指輪を天に掲げ、陽の光が僅かに反射していることに気づいた。

『うわあ…綺麗』

 そのままの流れで右手の中指にはめてみた。

 手に取った時は少し大きかったはずの指輪は、指に通した途端にピッタリとハマったのだった。

『え…』

 指に通した途端にサイズの変わった指輪に驚いた。驚きつつも、綺麗と感じた指輪に安堵感が芽生えた。その途端に


「これまた思ってたよりちーさい子だなあ」

 気づいた時には開いた本の上にぬいぐるみが座っていた。


『え、ぬいぐるみさん?』

 膝の上の本の上、私の実質膝の上にいるぬいぐるみに向け瞬きを何度もする。


「もうちょい大人になってからでも良かったんだが、しゃーないなあ。こればっかりわ」

 ぶつぶつと話しているぬいぐるみにきょとんとしつつ、その可愛さににこりと笑顔で

『ぬいぐるみさん!はじめまして、ルシルだよ』

 ぬいぐるみは、驚いた顔をしつつも

「おうよろしくな、ルシル」


 私とオーちゃんはこうして出会った。

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