とある夫婦の会話

よし ひろし

とある夫婦の会話

「はなさないで」


「もちろんさ、もう二度と離さないよ、おまえのこと」


「違う、もう話さないでって言ってるの。あなたの言い訳は聞き飽きたわ」


「そんなこと言うなよ。オレにはやっぱりお前しかいないんだ。見捨てないでくれよ」


「何度目よ、あなたの浮気! もう疲れたわ、結婚すれば落ち着くと思ったのに……」


「そうだよ、結婚したんだ。お前しかいないから。なぁ、わかるだろう」


「――あなたは、いつもそう。わたしが許すと思って、いつもいつもいつも……」


「心から好きなのは、おまえだけなんだ。愛してる、な、ほら――」


「うっ…、ううぅん――、やめて、キスなんかで誤魔化されないから……」


「誤魔化しなんかじゃないよ、オレの本心だよ。なあ――」


「あ、いや、うん、ううぅぅぅっ……」


「ううん、うん、はぁ、はぁ~」


「はぁ……、だから、キスなんかじゃ――あっ、うん……」


「無理するなよ、ほら鼓動が早くなってるぞ。いいんだろ」


「あっ、だめ、いやよ、いや。いつもそうやって――あん!」


「ふふふ、ここ、弱いだろ。ほら、ほら――」


「やめて、あっ、あん、ああぁ、はぁ……」


「おまえのことならなんでも知ってるさ。本当に好きだから。なぁ、わかるだろ?」


「いつも、あ、はぁ…、今日は、あん、絶対に、はぁはぁ、許さない――はなして!」


「離す? 話す――ああ、今度の女の事、聞きたいのか? そうか、心配するなよ、あんなのただの遊びだから」


「はぁはぁ……」


「確かにいい体してたよ。おまえより十も若いからな。肌もぴちぴちで、胸もこれより随分大きかったなぁ」


「はぁはぁ……」


「あっちの具合もなかなかよくてな――ただ、性格がな。色気がないんだ。若くて、元気なのはいいんだが――それだけじゃなぁ。体は最高だったんだがな――それにすぐ、金を要求するんだよ。困ったもんだ、最近の若いは――」


「……はなして」


「え、なに? だから、話して――」


「違う、離せって言ってるんだ、このクズが!」


「えっ、あっ――、痛っ…! ――何すんだよ、いきなり突き飛ばして!」


「――もう限界。若くなくてごめんなさい」


「な、なんだよ。そんな怖い顔するなよ…」


「あなたと付き合いだしたころは、わたしもぴちぴちだったよね。こんな浮気者だとは知らずに――」


「おい、待て! そんなもの持って――」


「もういい、疲れた」


「落ち着け。な、いつもの事じゃないか。オレはおまえが本当に好きなんだ。わかってるだろ。な」


「――はなさないで」


「え、なに?」


「もう、終わり。聞きたくない。何も、話さないで」


「まて、あっ――、ぐあっ、ぐ…、ぐああっ!」


「はぁ~……、やっと静かになった、話さない。離さない、もうわたしだけのもの……」

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とある夫婦の会話 よし ひろし @dai_dai_kichi

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