第42話 ダフネへ急げ

資源探査船≪イカロス>は、<エベレスト>と別れてからも

周辺の小惑星の資源探査を続けていた。


「絶対にあの映像で大騒ぎになって、どこの小惑星も武装を強化したい

 と言い始めるだろうな」

ファビオが探査ドローンを飛ばしながら、ヘルメット通信で言った。


「ああ、どこかのさんの通りにな。

 でも、皆が武装を強化するって言っても、武器メーカーの生産量なんて

 すぐには増えないぜ。 ミサイルもビーム砲もいままで、SG部隊の

 装備補充分ぐらいにしか製造していないんだから」


テオは試掘ロボットを操作して、金属鉱物の純度が高そうなところを

狙いながら試掘を開始させる。


「そうだな。 <イカロス>の武装強化をしておいて良かったな。

 これからは、ビーム砲や電磁パルス砲のジャンクパーツも手に入り

 難くなるかもよ」とファビオ。


「そうか、先にヴラ爺さんに通信して、その手のジャンクパーツを

 押さえて置けと教えれば、爺さんが大儲けできただろうなぁ。

 俺も<イカロス>にミサイルのパイロンも付けたかったんだけど、

 小惑星ダフネのバークリック整備のジャンクパーツ置き場には、

 使えそうなものが無かったしなぁ」


「ミサイルの発射装置を付けたって、ミサイルそのものが、

 そんなに手に入んないだろ? 消耗品だからジャンクパーツが

 出回ることもないだろうし」


「それもそうだな。ジャンク屋でミサイルの残骸は有っても

 修理して使えそうなミサイルなんか見たことない」


ファビオが、少し大声で質問した。

「そう言えば、海賊船メデューサの宇宙空母にも

 ミサイル発射装置が着いてたな。

 奴らは、いったい何処でミサイルを入手してるんだ?」


テオは掘削ロボットを操作する手を止めて考え込んだ。

「そうか。スペース・ガードの装備品の転売が有るわけ無いし、

 まさか自前で作るような工場持ってるわけないよな」


「考えられるのは……多分、無人輸送船だ。

 SGMBに装備の補給があるとしたら、その無人輸送船を

 襲えばミサイルも手に入るのかもしれない。

 ん? そうか。いいこと思いついたぞ、

 神出鬼没のメデューサの居場所をつかむよりも、SGMBへの

 無人輸送船のルートをハッキングするほうが、簡単なんじゃないか?

 それが分かれば、そのルート上にメデューサが出没するかもしれない」


「それはSGの無人輸送船の航行ルートという極秘情報をハッキング

 できればのの話だろ」


 ***


ある小惑星の試掘を終えて、<イカロス>の操縦室に戻った

ファビオは地球圏のニュースサイトを開いた。


思った通り、海賊団メデューサのニュースが沢山ある。

中でも『地方政府の保安部隊の武装強化を許可する法律成立か?』

というニュースがひと際大きく取り上げられている。


記事をよく見ると、世界共和党が臨時国会で保安部隊の武装強化を

許可する法律の提案を準備しているとの内容だ。


「テオ。いよいよ保安部隊の武装強化が議会で議論されるようだぞ」


「誰かさんの目論見通りじゃないか。

 でもその動きが、思っていたよりもかなり早いな」


「待て、こっちの記事には、資源開発局の

 民間の旅行会社の長距離旅客船などを、保安部隊がガード出来ないなら、

 自衛できるための武装を許可すべきでは無いか…

 なんて論評が乗ってるぞ」


「俺達はもう武装強化済みだから、いまさら言われてもな」


「違う!違うぞテオ。

 武器を違法に搭載しているのと、合法的に搭載しているは全然違う。

 合法的に武装していいならば、宇宙港で堂々と武器のメンテナンスが

 できるじゃないか」


「そうだな。そうなるとメンテしやすい」


ファビオが何かの記事を見てじっと考え込んだ。


「なんだファビオ。 他にも面白い記事が有るのか」


「ウィルソン大統領が、民間船への無制限な武装を許可するわけには

 行かないので、武装の許可制度や、搭載した武器の登録制度などを

 整備しないといけないと、記者に発言しているぞ」


「許可制度に登録制度?」


「つまり、あののウィルソン大統領も、おそらく、この武装化の

 動きを止められないと判断してるんだ。

 だから、無制限に武器が出回るのを、何とか抑え込もうという

 方針に切り替えたんだと思う」


「あのガチガチ平和主義の大統領がか?

 世の中動くもんだな。 お前の知恵も大したもんだ」


「いや、俺じゃない。世の中を動かしたのはメデューサだよ。

 あんな船は目立つから、いつかは世間に知られる。 

 俺はそれを、ちょっと早めただけだ」


「ちょっと? だろ」


「ま、待てよ。 えーと、もう日が変わったから、臨時議会は今日だな。

 テオ。急いで小惑星ダフネに戻るぞ」


「小惑星ダフネに? 何でまた。次はジュノーに行くんじゃないのか?」


「この臨時国会では、世界共和党の強硬派がすぐにでも武装許可の法案を

 成立させる見込みだとの予想が出ている。

 そのあとは、資源探査船や長距離旅客船への武装許可の法律が成立する

 だろう。そうなったら、俺達は小惑星ダフネの<バークリック整備>

 の工場で武器を搭載するというを取り、搭載後は、

 その武器のをする必要が有るだろ? 」


「そうだが、それは小惑星ジュノーに行った後じゃだめなのか?」


「考えて見ろ。 べらぼうに多数の宇宙機が、武装化の競争をするんだ。

 <バークリック整備>だって、何ケ月先までも整備予約で埋まって

 しまうじゃないか。 

 そんな中で、俺達は武装化工事をしたという証明書が

 取れるんだよ」


「そうか。ダフネのバークリックのおっさんの工場を押さえとかないと、

 オフィシャルに武器を搭載したなんて言えないんだな」


「大至急、小惑星ダフネに戻るコースに変える。

 テオはバークリック・チワアリー社長に、通信メッセージを送ってくれ。

 えーと、臨時議会が終わってから1週間ぐらいの期間を、

 工場を貸し切りにする予約を入れたいって言うんだ」


「分かった」


 ***


月のアースサイド、大統領府の会議室。


有識者を集めた武装許可制度、登録制度の仕組みの議論がされていた。

臨時議会は3日間を予定しており、2日目正午の法案提出期限まで

時間がないため、昨夕から夜通し議論が行われている。


ヴィヴィアンヌ・ル・メール副大統領は、ウィルソン大統領より

この法案作成会議の進行を任されて、四苦八苦していた。


ある有識者が声高に発言する。

「民間船への武装許可は世界政府がコントロールすべきだ。

 そうしないと、地方政府での許可を許した場合、地方政府が保安部隊

 以外の民間船に多数の武装許可を与えてしまい、実質的に『軍隊』を

 創設するに等しい行為になってしまう」


ル・メール副大統領が意見を言う。

「ご懸念はごもっともです。

 しかし、今日、もうすぐ始まる臨時議会1日目で地方政府の保安部隊

 には武装許可する法案が提出され、明日には決議がされます。

 おそらく保安部隊に武装を許可することになり、 地方政府が

 軍事力を持つことはもう止められないのが現状です」


「しかし、保安部隊の保安艇は、数が無限にあるわけでは無い。

 保安艇や宇宙港への武装を許可したとしても、戦争を起こすほどの

 戦力にはならないと私は思う。

 それが、民間船への武装を地方政府が許可してしまうと、

 ほぼ無制限に武装ができ、戦争の火種を抱えてしまうことに

 なりかねないと言っているんだ」


別の有識者が発言する。

「それは確かにありうる話とは私も思いますが、

 現実的には無数の民間船の武装許可を世界政府がコントロールしていく

 だけの仕組みを早期に作るのは不可能だと思いますわ。

 そもそも小惑星帯以遠にある民間船の武装状態を、地球圏からどうやって

 チェックすることができるのでしょうか。 まさか、地球圏まで航行して

 チェックを受けないと武装させないと言うつもりですか?」


延々と同じような議論が続いていた。


各地方政府への権限を強めれば強めるほど、世界政府としてのガバナンス力

が低下し、かつての宇宙紛争のように、人類が壊滅する危機に陥るような

戦争の火種を抱えるという意見がある。


一方で、凶悪な軍事力を保有した海賊団への自衛力を高める仕組みを、

早急に整備しないと大勢の市民を守ることができない……

というジレンマがあった。


誰がどのようなチェックで民間船の武装化を認め、その搭載した武器類が

不当に『転売』などされないための武器登録制度を、どうやって構築する

のかという点が、臨時議会と並行しながら議論されていった。


 ***


資源探査船<イカロス>。


テオが<バークリック整備>からの返信を見て言った。

「よし、バークリックのおっさんから返事が来た。

 工場を臨時議会終了後の1週間押さえるのを

 でOKしてくれたぞ」


「条件ってなんだよ。工場の貸し切り費用が高いのか?」


「貸し切り費用はタダでいいと言ってる。その代わり……」

「その代わり……なんだ? タダより高いものは無いというぞ」


「<イカロス>はもう武装済みなので、実質やることが何も無い

 はずだから、工場を『貸し切り』にしている間は、

 俺達に『労働』しろと言ってる」


「労働だ? あのオッサン、俺達に何をやらせるつもりだ」


「バークリックのクソ親父は、今度の武装許可で大儲けしようと考えてる。

 今はもうすでに、SG部隊の退役したスペース・ホークのジャンク品を

 買いあさっているらしい。

 そのジャンクパーツの武器を、俺に修理しろって言ってる」


「ほぅ。それで貸し切り無料か。

 流石! 整備士の神様の息子はずいぶんと技術力を認められてるねぇ。 

 いいじゃないか、壊れたビーム砲なんてチョチョイのチョイで修理

 できちゃうんだろ」


「何のんきなこと言ってやがる。ファビオ。

 おっさんから、お前のも指定されているぞ」


「俺の労働? 俺はパーツの洗浄ぐらいしかお役に立てないぞ?」


「『運び屋』の仕事だよ。 おっさんが買い付けたジャンクパーツは、

 ダフネの数カ所の場所に有るので、小型輸送機を貸与するから、

 買い付けたパーツを輸送しろって」


「うへぇ~。 そんな、駆け出しの運び屋でもできる仕事を、

 延々と1週間やれってかぁ? 

 俺のほうは、ずいぶんと、『安く』見積もられたもんだな」


運び屋としては、大加速度に飢えてんだろ。 

 おっさんの小型輸送機の機種名は書いてないが、

 それをバンバン飛ばしまくって楽しめよ」


「ジャンク屋の小型輸送機? 

 そんなの、ぜんぜん性能が期待できないよ。

 やだなぁ、オンボロ輸送機でエンストでもしたらどうすんだよ」


「がまんしろよ、工場の貸し切り代が無料なんだから」






次のエピソード>「第43話 映っていなかった物」へ続く

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