暴かれた情報

第34話 漂流船

海賊団レッドウルフとの遭遇の後、資源探査船<イカロス>は、

小惑星ジュノーに向かうコースで小惑星の資源探査を続けようと

していた。


海賊団レッドウルフとは、協力して海賊団メデューサと戦う約束を

したものの、現時点でメデューサの居場所は不明だ。

それに<イカロス>のグレードUPに金を使いすぎて活動資金が

心もとない。何をするにもまずは『お宝さがし』が必要だった。


疑似重力モードで回転する居室の中で、テオ・リヒテンベルガーは

タブレットに向かって作業を続けていた。


部屋のスピーカーからファビオの声が聞こえる。

『テオ。 次の探査ターゲットの小惑星に到着するまで3時間だ。

 それまで飯でも食って、のんびりしようぜ』


テオは通信ボタンを押して、少し不機嫌な声で返答した。

「馬鹿やろ! 誰が、のんびりなんかできるかよ!

 <イカロス>が囮になってメデューサの攻撃陣を引き付けておく

 なんていう危ねぇ約束しやがって。

 ミサイルを一斉に撃ち込まれたら、 逃げ切れねぇんだぞ」


『お前ならミサイルの自動迎撃プログラムを、ちゃちゃっと作れるだろ?』


「バカヤロ。そんな簡単じゃぁねぇ。

 お前は、ミサイルをかわす飛び方でも考えてろ!」


そう言いながらも、テオはビーム砲の発射システムのプログラムを

見ながら、どのようにプログラム変更するのかを検討していた。


 ***


目的の小惑星に到着し、他の資源探査船の探査済マーカーが無いことを

確認すると、お決まりの手順で探査準備を進める。


この星には、レアメタルのパラジウムを含む鉱石や、磁性体の材料と

なるストロンチウムを多く含む天青石てんせいせき(別名セレスタイン)と

呼ばれる美しい結晶構造の鉱石が有った。


ファビオが探査記録を付ける探査ドローンを飛ばしながら、ヘルメット

通信で声をかけて来る。

『いいぞこの星は。こっちの東のほうはセレスタインがゴロゴロある』


「よし、じゃぁ試掘コンテナを東側に運ぶ」

テオは貨物室内で作業ドローンを試掘コンテナの上にドッキングさせて、

ドローンのエアジェットを吹かして試掘コンテナを持ち上げると、

後部ハッチから出して東に向かわせる。


作業ドローンについたカメラには、太陽光を反射してキラキラと光る

セレスタインの結晶構造があちこちに見えていた。


—— なるほど。確かに儲かりそうな星だな ——


 ***


掘削ロボットが試掘コンテナにセレスタインを送り込むのを見ながら、

テオはファビオに通信した。

「あのレスタンクールのオッサンの情報にはいつも驚かされるな」


『アラサーの人にオッサンはひどいだろ、兄貴ぐらいにしとけ。

 確かにサクライって奴の写真みたときは驚いたがな。

 小惑星プシケの留置場に暗殺者として潜りこんだ奴が、まさか、

 俺達が病院で会ったマサトシ・モリヤマだったとは……』


「病院で俺達が、耐久レース事件のときに月の保安部隊が何かを探して

 いたようだと、モリヤマ……いや、ショウジ・サクライっていう

 奴に話をしたから、奴は翌日に保安部隊員全員を事故死に見せかけて

 殺したんだろ? 相当な殺し屋だよな」


『ああ、やっぱりGSAが怪しいって思ってたのは正解だった』


「エルネスト・レスタンクールの同期生っていうのも、

 すごい偶然だよな。 驚いたよ」


『そうだな。彼がブラックラット側じゃなくて良かった。

 もし、そうだったら、俺達は<カシオペア3>で会ったあとに

 すぐに死んでたな』


「お前の人を見る目と、交渉力は信頼しているけど、少し紙一重の所が

 有るからな。 機械相手の整備員上がりの人間にとってみれば、

 少し話をしただけで、なんでレスタンクールのおっさ……いや兄貴を

 信用できると分かったんだよ」


『説明は難しいが……対面しているときは目が大事だな。

 目は口ほどにものを言うっていう古い言葉があるだろ?』


「知らねぇよそんな言葉。 

 マシンにはカメラは有っても、心を写すような目はない」


 ***


満タンになった試掘コンテナ3つを貨物室に格納し終わると、

ファビオは操縦室に向かって、モニターで小惑星帯のマップを見る。


「テオ。すぐ近くにもう一つ探査対象にできそうな小惑星が有る。

 このまま疑似重力モードにしないで飛ぶが、いいよな」


『ああ、それでいい。 俺は貨物室で少しやることが有るから、

 発進していいぞ』


ファビオは各種のセンサーに異常が無いのを確認して返信した。

「了解、発進する。 到着予想は30分後だ。

 パーツを貨物室に広げ過ぎんなよ。すぐに試掘作業だぞ」


『わかってる』


ファビオは、小惑星から離陸をして次のターゲットに向かうコースに

セットをする。


操縦室のドリンクサーバーでコーヒーを注ぎ、航行モニターを眺め

ながら、この先のことを考えた。


—— 海賊団メデューサとやり合って、カラカス・テクノロジー社

   との接点の証拠を掴んだら、その後はどうする? ——


ブラックラットと関係のある海賊団を弱体化させるのは、自分たちの

復讐の一環として意義ある行動だが、どこまでやれば自分たちの

復讐が達成できたということになるのか?


コロニー間耐久レースの事件で、テオは親父さんやチームメンバーの

多くを殺された。俺も左腕を無くしている。


事件の事件の首謀者を突き止めて、やっつけるまで復讐が終わったとは

言えないだろう。


準惑星ケレスを発って以降、ここ1ケ月弱の間に沢山の情報を掴んだ。

でも首謀者が誰なのかは全く分かっていない。

ということは、復讐のゴールが何処なのかも見えていないのだ。


そんなことを考えていると、航行モニターに注意ランプが灯る。

長距離レーダーに何かの宇宙機の機影を捉えたようだ。


—— 宇宙機? SOS? ——


コーヒーカップをサイドテーブルに置く。

通信機モニターを見ると、自動発信のSOSが送信されている。


通信ボタンを押す。

「テオ。進行方向に宇宙機。自動発信のSOSを発信してる」


『何だって? SOS? どんな船だ?』


「待て、まだ遠い。長距離レーダーではそれほど巨大な船じゃないが、

 小型艇でもない。おそらく……この<イカロス>と同程度の大きさ」


『そっちに行く』


 ***


「やっぱり、俺達の同業者の資源探査船だ。

 ジェネラル・スペースプレーン社(GS社)製の資源探査船

 タイプGS-2765 <ケルベロス>より一回り小さいタイプだな」

遠距離レーダーのモニターで機種解析をしていたテオが呟く。


「通信で呼び掛けても返信が来ない。乗組員はもう死んでるのか?」

ファビオは<イカロス>のコースを微修正して、SOSを発信している

漂流船に向けた。


間もなく有視界モニターでも機体の映像が捉えられるようになる。


「おい。あれかなり損傷してるぞ」とテオ。


「良く見えないな。もっとクローズアップできないのか?」


「これで最大のズームアップだよ」


「居住区の回転アームは回転してない。居住区の半分が無くなってる?」

ファビオがモニターにキスしそうなぐらいに顔を近づけて唸る。


「隕石か海賊にやられて居住区が吹っ飛んだか?

 そうだとしたら、もう乗員も死んでる可能性が高いな」とテオ。


「また遺体を回収するのか? 嫌だな」


 ***


ファビオは<イカロス>を漂流中の資源探査船に接近させると、

隕石ではなく、ミサイル攻撃を受けたことが良く分かった。


ファビオは<イカロス>の船底から電磁石アンカーを発射した。

アンカーケーブルを少し伸ばしながら自機の位置を調整し、

もう1本の電磁石アンカーを撃ち込んだ。


2本のアンカーケーブルの長さを調整しながら、漂流船の上に

ピッタリと機体を寄せて機体を停止させる。


「よし、行くか」

操縦室のエアロックを通り、船側部の搭乗ハッチへ向かう。


そこではテオが準備を整えて待っていた。

手には大きな工具箱を持っている。


ファビオも背中にバーニアキットを付けて、機外に出る準備をする。


「これ持てるか?」

とテオが酸素ボンベなどの入っている救命セットを指さした。


乗組員がまだ生きていた時に必要になると考えて、

搭乗ハッチ前に準備していたのだろう。


「あっちの乗組員が、これを使う状態ならいいがな」

と言いながら、ファビオは救命セットを手に取る。


テオが搭乗ハッチを開け、

2人は漂流していた資源探査船に向かって飛び出した。





次のエピソード>「第35話 情報屋」へ続く

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