第31話 ある作戦

小惑星帯のある宇宙域。


海賊団レッドウルフのボスであるファングのヘルメット通信に、

仲間のマッドボーイからの通信が入る。

『あの資源探査船、ビーム砲と電磁パルス砲を格納しましたぜ。

 ボス。今なら簡単に殺れます。 どうしますか?』


「分かってる。殺るのはいつでもできる。少し待つんだ」

とファング。


—— あいつは、何を考えてる? ——


ファビオとやらが言う通り、資源探査船が武器を装備するのは違法だ。

だから政府に密告すれば、アステロイド・ハンターの資格を剥奪され

奴らも困ることになる。


こちらは、秘密の資源採掘場のある小惑星を知られてしまったが、

奴らの弱みも握っている。奴らが政府に通報すれば、

こちらがその報復として違法武装を通報することも可能だ。


向こうからそれをわざわざ教えてきたのだ。

しかも武器を船体に格納し、攻撃意志がないことを示した。


ファングは通信ボタンを押す。

「武器を格納するとはいい度胸だ小僧。

 お前を殺るのはすぐにできるが、その度胸に免じて話を聞いてやろう。

 お前たちはなぜ海賊団メデューサと敵対しているのか詳しく話せ」


資源探査船からの返答は早かった。

『簡単に言えば復讐だ。 

 ある事件で俺は左腕を失い、相棒のテオは親父を失った。

 その事件の背景にブラックラットという違法賭博業者がいること

 が分かって、情報を追っているうちに、

 その業者が海賊団メデューサと関係していることが分かったんだ』


—— なるほど。ブラックラットがらみか ——


そこに海賊団レッドウルフのハッカーであるキャプランの

通信が割り込んできた。

『ボス。こいつらの情報を見つけた。俺から質問してもいいか』


「ああキャプラン。いいぞ」


キャプランが質問する。

『ファビオ・カルデローニ。俺はキャプランと呼ばれている。

 お前と相棒のテオ・リヒテンベルガーの名前を

 5年前の宇宙機耐久レース事件の被害者リストに見つけた。

 この事件がブラックラットの仕業だったということか?』


『キャプランさん。その通りだ。

 あの耐久レース事件で、俺達はそれまでの生活の全てを失った』


『しかし、保安部隊の資料にはブラックラットという名前は

 何も出てこないぞ』

とキャプランが疑問点をぶつけた。


『そうだ正式な捜査記録には、載っていない。

 俺達の独自調査でブラックラットのことを突き止めたんだ』


ファングは通信ボタンを押す。

「ブラックラットという違法賭博業者がメデューサの資金源だという

 ことは俺達も知っている。

 ブラックラットが金儲けの目的で、耐久レース事件を起こしたと

 いうのも有りうる話だ。巨額な賭博の対象だからな。

 だがな小僧。 いくら武器を装備したからと言って、そんな船1隻で

 宇宙機を沢山保有する海賊団メデューサと戦えるわけが無かろう」


『そんなことは分かってる。この1隻では闘うのは無理だ。

 俺達はメデューサを弱体化させるために、奴らを支援している企業の

 ことを世界政府に密告して、その企業がメデューサを支援できなく

 しようと考えている』


「海賊団メデューサを支援している企業だと? それは初耳だな。

 そんな企業が有るというのか?」


『カラカス・テクノロジー社だ』


「馬鹿め。旅客船メーカーが、何の目的で海賊団を支援する?

 そんな話は到底信じられねぇ。どんな証拠が有るというんだ」


『あの耐久レース事件の目的は、ブラックラットが違法賭博で

 儲けるだけじゃなく、もう一つの目的が有ったんだ。

 ブラックラットはミサイルによる爆発のどさくさに紛れて、

 MEE社のレース機に搭載されていた試験データや、

 ピットに有った開発中のエンジンの設計図も盗んだんだ。

 そして、それをカラカス・テクノロジー社に流したんだと、

 俺達は確信している』


海賊団レッドウルフ団長のファングは、ヘルメット通信でファビオに

聞こえない様に、ハッカーのキャプランに聞く。


「キャプラン。奴の言っていることが、本当だという情報は有るか?」


『いえボス。無いです。

 最も宇宙機耐久レース事件ではピットの関係者がかなり死んでいて

 あの船の二人は、数少ない生存者です。

 だから、保安部隊が掴んでいない情報を持っている可能性は有ります』


—— 事実かハッタリかわからんな ——


キャプランは続けた。

『以前は弱小企業だったカラカス・テクノロジー社ですが、市場シェア

 が上がり始めたのは約5年前で、耐久レース事件の少し後からです。

 同社がMEE社の技術を盗んだというならば、辻褄は合います』


—— なろほど ——


ファングが返答しないので、<イカロス>のファビオが待ち

くたびれたように話しかけてきた。

『おーい。ファングさん聞こえてるのか~』


ファングは通信ボタンを押す。

「小僧。さっきのは面白い作り話だな。

 MEE社の設計図やデータを、カラカス・テクノロジー社が

 手に入れたという証拠はあるのか?」


『この資源探査船<イカロス>に増設した巨大推進機が見えるだろ。

 これはカラカス・テクノロジー社製の推進機だ。

 この推進機の中の機構が、5年前にMEE社が秘密裏に開発していた

 テクノロジーを使っているということを、MEE社のピットチームに

 いた相棒のテオが確認している』


「MEE社が秘密裏に開発していたテクノロジーだ?

 はっはっは。そんなのは、証拠とは言えんぞ、小僧。

 カラカスの奴らも独自開発していたといくらでも言える」


『もう一つ情報が有る。 写真のデータを送る』


「写真だと? 何の写真だ?」


ファングは送られて来た写真を開く。

「なんだこれは? メデューサの船なのか?」


—— こんな船を持ってやがったのか! ——


『それは、メデューサがプシケ宇宙港を襲った時に撮影されたものだ。

 保安部隊の知り合いからもらった。そこに写ってる宇宙空母の

 ような船は、市販の船じゃない。

 メデューサに、宇宙機製造企業の支援が有る証拠だ』


「これが、カラカス・テクノロジー社の建造した船だというのか?」


『その写真から分かるように、その船はアーム式の回転型居住区を

 持っている。つまり旅客船メーカーが製造したと考えられる』


再び、キャプランがヘルメット通信で呼び掛けてきた。

『ボス。メデューサが疑似重力を発生できる移動基地を持っている 

 なら、今まで疑問だった奴らのテリトリーの広さも説明できます』


—— なるほど ——


キャプランは続けた。

『あと、レッドウルフの宇宙機が充実して来たのもこの5年間です。

 奴らの話の、カラカス・テクノロジー社が耐久レース事件の後、

 ブラックラットを通じてレッドウルフを支援しているとすれば、

 奴の話は、全て辻褄が合います』


—— なるほど。そうか ——


ファングは通信ボタンを押す。

「小僧。 面白い推論じゃないか。 

 しかし、この写真は保安部隊が撮影したものだと言ったな。

 そうなら、世界政府も知りうる情報だ。

 お前がいう『世界政府に密告』するネタとは言えんのじゃないか?」


『そうだ。その通りだ。

 俺達はその写真に写っている船はカラカス・テクノロジー社製だと

 確信しているが、政府サイドはそこまでの証拠写真とは思わない。

 だから、俺達は海賊団メデューサと、カラカス・テクノロジー社の

 関係をもっと明白にする情報を掴みたいと考えている。


 例えば、カラカス・テクノロジー社の輸送船が、メデューサに補給

 している現場の写真などだ。

 その為にレッドウルフとも協力し合いたい』


—— 協力だと? ——

 

「協力というが、お前たちは何ができると言うんだ。

 俺達レッドウルフだって、奴らと一回交戦したが3人が命を落とし、

 宇宙機は5機やられた。

 そんな資源探査船1隻が加わっても、まだ戦力は劣っているんだぞ」

 

 ***


資源探査船<イカロス>の操縦室内。


テオは、ファビオとレッドウルフの交信を聞きながら、<イカロス>の

周囲に漂っているレッドウルフのスペース・ホークを監視してた。


電磁パルス砲で一時的にダウンさせたとは言え、パイロットがシステム

をリセットし、再起動すれば、それらの宇宙機はすぐに通常の攻撃が

行えるようになる。

時間的には、そろそろ復活する機体が有ってもおかしくない。


「ファビオ。そろそろ周りの奴らが復活するぞ」


「分かってる。大丈夫だ。

 ボスのファングはこちらの提案に興味を持ってる」


ファビオ・カルデローニは通信ボタンを押す。

「ファングさん。 

 まずは、仲間に俺達を攻撃しないように命令してくれないか。

 そうしたら、メデューサと戦ういいアイデアを教えるよ」


『いいアイデアだと? まぁ、聞いてやる。

 おいキャプラン。 信号弾で攻撃中止の合図をしろ』


『こちらキャプラン。了解。信号弾を撃ちます』


キャプラン機から数本の信号弾が放たれ、宇宙空間に眩い閃光が

広がった。 


<イカロス>の周囲で漂流中のスペース・ホークのパイロット達は、

システムの再起動を行いながら、コックピットのキャノピーを開いて

周囲の様子を見ていたが、停泊灯を灯して停船している資源探査船と

海賊団のボスのファングが通信で話をしているのだと理解すると、

安心をしたように、キャノピーを閉めた。


『小僧。見ただろ。停船命令を出した。 

 いいアイデアとは何かを言え。 つまらないアイデアなら、

 ミサイルを撃つから覚悟しておけよ』


「ああ、ファングさん信号弾を見たよ。

 いいアイデアというのは、俺達がこの<イカロス>で囮になって

 海賊団メデューサの攻撃陣を誘い出しているうちに、あんた達

 レッドウルフが、奴らの移動基地を襲うっていう作戦だよ」


とんでも無い提案を聞き、横からテオ・リヒテンベルガーが驚いて

ファビオを見つめながら口をパクパクさせながら、

手を横に振って抗議をした。


ファビオは口に指を当てて、交渉に口を挟むなという

ゼスチャーをしてから、構わず続けた。


「この資源探査船<イカロス>が、高価な資源のある星を発見した

 という偽情報を流してから、メデューサの周りをウロウロするのさ。

 奴らは絶対に食いついてくる。

 ところがこの船は、さっきあんた達の船も追いつけなかったぐらいの

 加速度を出せるから、奴らの攻撃機群を移動基地から遠くまで

 おびき出せるはずだ。

 その隙に、攻撃機がいなくなった移動基地を、あんた達レッドウルフ

 が襲撃するのさ」


少しの間、レッドウルフのファングの応答は無かった。

おそらく面白い提案だと思っているのだろう。


『小僧。いい度胸だ。

 お前たちの船が沈められようが、俺には知ったこっちゃないが、

 レッドウルフが奴らの移動基地を攻撃している間に、メデューサの

 攻撃隊がすぐに戻って来ないという保証はないだろ?

 奴らは、ミサイルも使うんだぞ。

 いくらその船でもミサイルより早く飛ぶことはできまい?』


「ファングさん。舐めてもらっては困るね。

 さっきもあなた方のミサイルをテオが全部撃ち落としただろ?

 こっちには、機体整備士の神様の息子という大天才がいるんだぞ。

 この作戦を実行に移すまでに、テオがミサイルの自動迎撃システム

 ぐらい、チョチョイのチョイと創れるさ」


またテオが大きく手を振って、そんな自動迎撃システムをすぐに

創るのは難しいと、抗議の姿勢を見せたが遅かった。


『ハッハッハ。 元運び屋の小僧は本当にいい度胸してやがる。

 よしいいだろう。 お前の作戦に協力してやる。

 俺達は移動基地をぶっ潰せばいいんだな』


「ファングさん。 違う違う。ぶっ潰すのはダメだ。

 あの移動基地は、カラカス・テクノロジー社の製品で、

 同社が海賊団を支援しているという証拠になるんだ。

 航行不能にするだけでいい。

 俺達が海賊団に襲われたというSOSを出して、どこかの地方政府の

 保安艇に救援を求めるんだ。保安部隊が出て来た所に、移動基地が

 漂流していれば、その保安部隊が何らかの証拠を見つけてくれる。

 そうやって、カラカス・テクノロジー社がメデューサの支援を

 続けられなくするのが作戦の狙いなんだよ」


『ほう、なるほど。 ずいぶんと頭が回るな小僧。

 お前の度胸と知恵、そしてテオとやらの技術力は気に入った。

 どうだ? お前達、レッドウルフの一員に加わらないか?』


「ファングさん。 そのお誘いは丁重にお断りするよ。

 俺達は資源の密売や、身を守るための武装など法律違反はしても、 

 人殺しや、旅行者を襲う気にはなれない。

 政府公認のアステロイド・ハンターという身分を捨てる気はない」


『ハッハッハ。そうだろうな。冗談だよ』


その後、お互いにメデューサの移動基地の居場所を掴んだら、

連絡を取り合うということを決めた。





-

次のエピソード>「第32話 黒幕は誰だ」へ続く

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