真実を追う者

第29話 交渉

小惑星帯のある宇宙域。


海賊団レッドウルフの団長であるファングは、

有視界モニターに映る光景を見て目を疑った。


味方のスペース・ホーク8機が漂流する向こう側には、

追っていた資源探査船が停泊灯を煌びやかに灯して止まっている。


—— 何のつもりだ? ——


その船が資源探査船とは思えない大きさの巨大推進機を両舷側の

上に付けているのは、この船を追いかけ始めた時に、遠距離からの

有視界モニターで見えていた。


しかし、今はその下側の船殻パネルが開き、両舷側からビーム砲が

突き出ている。さらに船体下部の船殻パネルも開いて電磁パルス砲

のようなものまで見えていた。


—— 何だあれは? 普通の資源探査船じゃない。

   ミサイルは、あのビーム砲で迎撃されたんだな  ——


自分たちの秘密の採掘場である小惑星に設置したセンサーが、

侵入船を検知したので、そのよそ者を始末するために、

海賊団レッドウルフの宇宙機に、総出撃の命令を出したが

すでに8機が漂流している。


しかも、あの船は停泊灯を付けて、悠々と停止しているではないか。

—— あいつは何だ! ——


『ボス! 味方の8機はどうも電磁パルス砲でダウンしてるだけだ。

 ジェイが、コックピットを開けて手を振ってる』

通信でマッドボーイが叫んでいる。


「全機、その場で停止しろ。

 あの変な資源探査船のビーム砲の射程外で待機するんだ」


ファングは指示を出しながら自機のスペース・ホークも停止させる。

他のスペース・ホーク3機とムーン・イーグル2機の合計6機の

宇宙機はビーム砲の射程外で停止した。


ファングは有視界モニターの拡大率を最大にする。


資源探査船は2機のビーム砲を漂流している仲間機に向けて、

いつでも撃てるという姿勢を取っている。

漂流機は機体のマークからすると『ブレード』の機体だ。


—— 奴はなぜ撃たずに停船している? ——


そこに、海賊団レッドウルフの専用周波数で通信が入った。

『あ~聞こえるか? 

 海賊団レッドウルフのボスのファングさんよ。

 俺はファビオ。 資源探査船<イカロス>の艦長だ。

 俺達はお前たちの敵じゃない。 少し話をしようじゃないか?』


—— なぜ奴は、俺達の使う周波数を知ってる? ——


ファングは通信機のスイッチをONにした。

「お前は、なぜこの周波数を知ってる?」


『あ~。 目の前にいるスペース・ホークに乗ってるブレード君に

 聞いたんだよ。この距離ならヘルメット通信が使えるんでな』


—— ちっ!ブレードの奴、ビーム砲突き付けられて

   ペラペラと喋りやがったな ——


『俺達はレッドウルフと戦う意思はない。

 だから、ここにいるスペース・ホーク8機は電磁パルス砲で、

 大人しくしてもらってるだけだ』


ファングは有視界モニターに映っている漂流中の多くの味方機を

順番にチェックして、ビーム砲で破壊されていないのを確認する。


確かに何人かはコックピットを開けて、顔を出していた。


近くにいる味方機のキャプランからのヘルメット通信が入る。

キャプランは海賊団レッドウルフに所属する優秀なハッカーで、

活動に必要な情報を収集する役目をこなしている。


レッドウルフの専用周波数は、あの資源探査機も聞いているので、

ヘルメット通信で呼び掛けてきたのだろう。


『ボス。 以前、資源開発局のサーバーをハッキングしたときの

 データに資源探査船<イカロス>の登録が有りました。

 乗員は2名です。

 艦長はファビオ・カルデローニ。 機関士がテオ・リヒテンベルガー。

 ただ<イカロス>の3年前の登録写真には、あんな巨大推進機は

 ついてません。 後から装備したんだと思います』


ファングは再び通信機の通話スイッチを押す。

「ファビオとか言ったな。

 そんなバカでかい推進機をつけてビーム砲や電磁パルス砲を

 持っている資源探査船の言うことが、なぜ信じられる?」



『俺達の敵は、ブラックラットという違法賭博業者と、

 その業者とつるんでいる海賊団メデューサだ。

 この武器はメデューサとやり合うことを考慮して装備したばかりだ。

 お前達、レッドウルフがメデューサと敵対しているのは知っている。

 つまり、我々は同じ敵と敵対しているんだ。

 少し情報を交換するなど、協力しあうっていうのはどうかな?』


—— メデューサの奴らと敵対しているだって? ——


再びキャプランが情報をヘルメット通信で連絡してきた。


『艦長のファビオ・カルデローニは元運び屋です。

 ムーン・イーストでは、やり手の運び屋として名が通ってたようです。

 それと、機関士のテオ・リヒテンベルガーは、あの整備士の神様と

 呼ばれていたギルベルト・リヒテンベルガーの息子で、

 MEE社の整備士チームに所属していたとの情報が有ります』


—— 元運び屋と、元MEE社の整備士?

   なぜ、そいつらがメデューサと敵対するんだ? ——


通話スイッチを押す。

「元運び屋が艦長の資源探査船もどきが1隻で、

 海賊団メデューサと敵対しているなんて言う戯言を誰が信じる?

 そこのブレードの機体にビーム砲を向けていれば、

 俺達が攻撃しないと思っているなら大間違いだぞ。

 お前たちは、俺達の資源採掘場を知ってしまった。

 生きて返すことはできないことぐらい、お前たちも分かるだろう?」


そのファングの通信内容を聞いていた他の5機は、ボスの言葉に

呼応するように少し横に広がりながら、攻撃姿勢を取った。


 ***


資源探査船<イカロス>の操縦室。


「おいおいファビオ。奴ら本気でやる姿勢だぞ」とテオ。


「慌てるなテオ。 まだビーム砲の射程圏外で威嚇しているだけだ。

 本気でやる気なら、有無を言わさずこっちに突っ込んでくるさ」


ファビオは通信ボタンを押す。

「レッド・ウルフのファングさんよ。 

 俺達を殺したら、お前たちが損するだけだぞ。

 さっきの小惑星の採掘現場のビデオ映像と位置データは、

 すでにあるサーバーにアップロードして有るんだ。 

 それに俺がある秘密のコードを送信しない限り、

 30分後に自動的に世界政府に通報するように設定してある。

 つまり、俺達を信用しないで攻撃したら、お前達は秘密の

 資源採掘場をひとつ失うことになるのさ」


テオは、目を見開いて横にいるファビオの顔をマジマジと見た。

よくもまぁ、平気でそんなハッタリをスラスラと口にできるなと

あきれ顔をしている。

小惑星で撮影した動画は、まだテオのタブレットの中に有るだけだ。


ファングからの通信。

『そんなのはハッタリだ。 お前たちは逃げるのに必死で、

 データをアップロードする時間なぞなかったはずだ』


「そうかい? 

 お前さんはさっき俺のことを『元運び屋』と呼んだな。

 つまり、そっちには、どこかのサーバーをハッキングして

 俺達のことを調べられるハッカーがいるってことだ。


 それなら、この<イカロス>に整備士の神様と言われたギルベルト・

 リヒテンベルガーの息子であるテオ・リヒテンベルガーがいるのも

 もう分かってんだろ?


 優れた技術者のテオなら、情報をアップロードしてセットするなんざ

 ミサイルを迎撃しながらだって、できるさ」


テオはファビオの横で、ビーム砲を撃ちながらそんなことはできないと

大きく首を振っている。


「ファングさんよ。俺達を信頼できずに撃ちたきゃ、撃っていいぞ」


海賊団のボスからの返信は無く、相手の宇宙機6機も動かなかった。


「それと、ファングさん良いことを教えてやろう。

 俺達の資源探査船<イカロス>が、武器を装備しているのを見て

 いるだろう? もちろん、これは世界政府の法律を違反している。


 お前たちが、この<イカロス>の映像を政府に送信するだけで

 俺達はアステロイド・ハンターの資格を剥奪されるんだ。

 さらに捕まれば、罰金もしくはブタ箱に放り込まれることになる。


 つまり、俺達はあんた達、海賊団レッドウルフの秘密の情報を

 握っているが、お前たちも俺達の秘密の情報を握っているんだ。

 漏らされたら困る情報を握られているのは、お互い様なんだよ。


 俺がこんなことをわざわざお前たちに教えてるのは、

 海賊団メデューサに対抗するために、本当に協力し合いたいと

 思っているからだ。これでも信用できなのか?」


ファビオは通信ボタンを離すと、テオに向かって言った。

「テオ。ビーム砲と電磁パルス砲を船体に格納しろ」


「何だって!」テオは、そんなことはダメだと手を振っている。


「銃を突き付けて、協力し合おうと呼び掛けても無駄なことは

 分かるだろ? こっちから銃を下ろすんだ。早くしろ」


テオはファビオを少し睨み返してから、言うとおりに武器を船体に

格納するボタンを押した。






次のエピソード>「第30話 男の正体」へ続く

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