第27話 ドッグファイト

資源探査船<イカロス>は、中型の推進機ポッドと大型推進機の

両方で加速し、最大加速度で加速を始めたが、海賊団の宇宙機が

放ったミサイルは軽量なため<イカロス>よりも加速が早かった。


後部レーダーのモニターの中。8発のミサイルのマークは、

<イカロス>にぐんぐんと近づいてくる。


「仕方ねぇ。やるぞ」

テオが新規に作成した武器システムの操作リモコンに手を伸ばす。

操作リモコンはまるでゲーム機のコントローラーのようなもので、

ジョイスティック2つとボタンが多数ついている。


テオが操作リモコンのスイッチを押すと、船体側面の左右の船殻外板

パネルが油圧シリンダーで開き、中からビーム砲がせり出した。


操縦室の複数のモニターのうち、3つが武器システム用に使えるように

なっており、テオは、そこに映る後部モニターの映像を見ながら、

手早くミサイルに照準を合わせる。


「これでも食らえ!」

ジョイスティックを操作しながらリモコンのボタンを連続で押す。

モニターではミサイルが次々に爆発するのが見えた。


2本のジョイスティックで、それぞれ左舷と右舷のビーム砲の照準を

合わせながらミサイルを次々に撃ち落として行くが、その間も、

ミサイルは<イカロス>にぐんぐん近づいてくる。


「まだ2発あるぞ!」ファビオが叫んでいる。


「分かってる、やってるよ」

残り2発のミサイルは、<イカロス>にかなり近い場所で爆発した。


「ふぃ~危なかった」と言いながらテオは連射で疲れた手をブンブンと

振った。


「テオいいぞ。上手いじゃないか」とファビオ。

テオに向かって親指を上げて、相棒の射撃の腕前を褒める。


そして、モニターに目を向けた途端に叫んだ。

「うわっ! 前からも来るぞ! 8機だ!」とファビオ。


「何だって!」テオが慌ててビーム砲を回転させて、前方へ向ける。


「ビーム砲は使うな! 電磁パルス砲を使え!」

ファビオが慌てて叫びながら、中型推進機ポッドの噴射角度を変え

ながら姿勢制御ジェットも併用し、急速に機首を上に向けて転進する。


「何でだ! 電磁パルス砲だと奴らを仕留められないぞ」とテオ。


もともと電磁パルス砲は、保安部隊が犯罪者の宇宙機の機能を、

一時的に止めて逃亡するのを防ぐ装置として開発されている。

だから宇宙機を破壊するような武器ではない。


<イカロス>の電磁パルス砲は、射程距離を伸ばすために出力を

上げているので、近距離で撃てば敵機の操縦システムを破壊する

ぐらいの威力は有るかもしれないが、それでも遠距離ではやはり

一時的にシステムダウンさせるぐらいの威力だ。


「俺の推測では、奴らは海賊団レッドウルフだ。

 俺達の本当の敵である海賊団メデューサじゃない。

 それにレッドウルフの敵もメデューサだ。

 も有る。

 奴らを一人でも殺してしまうと、味方にはできない」


「味方にするだぁ? 奴らはミサイルを撃って来てるんだぞ」

テオはファビオの考えは理解できても、不可能だと思っていた。


「いいから、ビーム砲を格納して、電磁パルス砲を出せ!」


そう言い合っている間も、正面から来る宇宙機8機は広がりながら、

<イカロス>の進行方向に回り込もうとして、コースを変えている。


言い争いを続けている時間は無かった。

テオは渋々とファビオの言うとおりにする。


「確か電磁パルス砲の射程距離は、通常の保安艇サイクロプスよりも

 ずっと遠くまで撃てるって話だったよな」とファビオ。


「ああ、保安艇の電磁パルス砲どころか、スペース・ガード(SG)

 の標準装備のビーム砲よりも1.2倍ぐらいの距離まで撃てる。

 この<イカロス>の核融合エンジンはバカでかいからな。

 宇宙防衛機のコンパクトなエンジンよりも、ずっと電力に余裕が

 有るんだよ。 連射だってできるぜ」


「そうか。じゃぁ、撃たれる前に攻撃できるんだな。 

 正面右の奴はあと30秒ほどで射程に入る。準備は?」


「いつでも撃てる」

テオはジョイスティックで照準を、

正面少し右から来るスペース・ホークに合わせる。


「奴らきっと慌てるぜ」操作リモコンのボタンに指を乗せた。


「ああ、<イカロス>は、ただの速度が速い『ペキンダック』じゃない、

 噛みつく歯をもっている翼竜だってわからせてやれ。

 射程に入るぞ、3,2,1」


テオがボタンを押すと、モニターにはスペース・ホークが急に進路

不安定になって、ふらふらするのが見えた。


「次は正面左だ」


「分かってる」

テオは電磁パルス砲を左に旋回させて、正面左のスペース・ホークに

向けて電磁パルスを発射する。

2機目のスペース・ホークも操縦不能で漂流を始める。


有視界モニターにくっきり映るようになってきた機影は、

仲間の機体が撃たれて操縦不能になったのを知って、

回避するために、複雑な動きをしながら距離を詰めてきている。

もうスペース・ホークのビーム砲の射程距離に入る寸前だ。


「これで正面の敵はあと6機だ。中央のスペースが空いてる。

 ジグザグ航行しながら、中央突破するぞ」

ファビオは言い終わらないうちに、ビーム砲で撃たれないように

ジグザグ航行をしながら加速をする。


体が激しく上下左右に振られる。

相手機も電磁パルス砲を恐れて回避運動をしているためか

ビーム砲の直撃を受けることはなかった。


急加速のGを受けながら、ファビオがテオに叫ぶ。

「すれ違う時に、あれやるからな。 連続発射で頼む」


「あれか? 試運転で1回練習しただけだぞ」

テオは電磁パルス砲の砲身の向きを機体の進行方向に対して、

右真横から少し前に向けた。


「あと、5秒、4、3,2、1」

カウントダウンが終わるとファビオは直進を続けながら、

機体を急速に反時計回りに急速にロール回転を始める。


テオはその回転に合わせ、電磁パルス砲を連射した。目が回るのを

我慢して必死に敵機に照準を合わせながらボタンを押す。


電磁パルス砲は<イカロス>の機体下部についているが、

機体がロール回転することで、横に向けた砲身の方向も、右から上、

上から左と変化する。


テオがロール回転に合わせ激しく連射したことで、すれ違おうとして

いた6機のうち3機に電磁パルスが命中した。


撃ち漏らした3機は、すぐに急速旋回を始め<イカロス>の

背後につこうとしている。


テオは、電磁パルス砲を機体後方に向けて、撃ち漏らした2機が

旋回して<イカロス>を追って来ようとするのを狙い打ちした。


残る1機は旋回を終えて、<イカロス>の背後を取った。


そして、背後を取ったスペース・ホークは4本のミサイルを撃つ。

ミサイルはぐんぐんと迫って来た。


テオは再びビーム砲を両舷側から突き出して、ミサイルを迎撃した。

そして、リモコン操作を電磁パルス砲に切り替えると、残る1機に向け

電磁パルスを発射する。


スペース・ホークは操縦不能になり漂流を始めた。


ファビオは<イカロス>を回頭させ、漂流している8機の宇宙機を

楯にするようにしながら、最初に追って来た6機を待つように

機体を停止させた。


「ファビオ。逃げないのか? この距離なら逃げられるぞ」

とテオ。


「ああ、俺に任せろ。ここからは戦闘じゃない。交渉だ」


「交渉?」


「今、逃げたら、奴らはこの<イカロス>を永遠に『敵』と

 認識したままで終わる。 ここからは、和平交渉だ。

 テオ。ビーム砲の照準を、そこの1機に合わせておけ。

 だが絶対打つなよ」

 

8機のスペース・ホークが漂流している宇宙域に、最初にミサイルを

撃って来た海賊団の4機のスペース・ホークが向かってくる。

少し遅れて2機のムーン・イーグルも向かって来ていた。


ファビオがテオに向かっている。

「奴らの味方機が漂流しているんだ。ミサイルは撃てない。

 それに、こちらがビーム砲を撃たずに、電磁パルス砲だけで

 8機を戦闘不能にしたのは、向こうから来る奴らも探知

 してるだろう」


「ああ、でもその8機だって、システムリセットをして、

 再起動をかければ、復活するんだぞ。 

 交渉なんて言うが、あまり時間はないぞ。14機を相手に

 したら、いくらなんでもヤバいぞ」


テオは心配そうにファビオに顔を向けた。






次のエピソード>「第28話 黒ずくめの男」へ続く

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