第25話 ペキンダック

アステロイド・ハンターの資源探査船<イカロス>は、

小惑星が点在する宇宙域に到着していた。


直径が約450mほどの小惑星を資源探査対象に決めて、ファビオは

<イカロス>でその小惑星の周囲を回りながら、他の資源探査船の

探査済マーカーがないことを確認する。


すでにマーカーが有り、他の資源探査船の探査済の場合、ここで

資源探査を行って試掘をしても、世界政府の買取金額は付かない。

それどころか違法な試掘としてペナルティーを科されることもある。


「探査済マーカーはなさそうだし、金属鉱石もありそうだ」

とファビオ。


「そりゃぁいい。着陸してさっさと試掘しよう」


着陸すると、試掘コンテナや掘削ロボットを小惑星の表面におろして、

資源探査船<イカロス>の探査済を示すマーカーを設置した。


そして、いつものように、

ファビオが探査記録を付ける探査ドローンを飛ばすための準備、

テオが掘削ロボットで、金属鉱石の掘削を始める準備をする。


ファビオの探査ドローンで、かなり有益な鉱石が多いことが確認できた。

特に酸化ホルミウムを多く含む鉱石からは、レアアースのジスプロシウムを

採れるのでかなりの金になる。


ジスプロシウムはレーザーの材料にもなるし、発電機用の永久磁石としても

使えるため、常に市場では需要が供給量を上回っており、高値で売買されて

いるからだ。


ひとつの小惑星では試掘コンテナ3つまでしか試掘が許されていないため

できる限りジスプロシウムの含有量が多そうな所を狙って試掘を行った。


***


1時間ほど航行し、2つ目の小惑星のに到着する。ベース金属と呼ばれる

鉄やアルミニウムを多く含む金属鉱石の多い小惑星だった。


他の資源探査船の探査済マーカーがないことを確認すると、

手早く試掘の準備を進める。


自分たちの追う敵の一味が、カラカス・テクノロジー社(CT社)だと

はっきりしたことで明確な目標ができ、そのための資金集めとなる

資源探査も今まで以上に『熱』が入っているのだ。


何をするにしても資金は必要だからだ。


ファビオが探査ドローンの調整をする横で、テオは作業ドローンで

掘削ロボットを運ぶ。

そしてリモートコントローラーのカメラ映像を見て驚いた。


「おい、ファビオ。 見ろ、掘削の跡がある」


「何だって? マジか?」

ファビオがテオに近づいてモニターを覗き込む。

確かに地面には人工的な掘削跡が有った。


「他の資源探査船の探査済マーカーは無かったよな」とテオ。


「ああそれに、これは、資源探査船による試掘じゃない。

 かなり本格的な採掘だ」

とファビオはモニターにかぶりつくようにして見ながら言った。


2人はバーニアで飛んで、その採掘現場に行く。

そこには大きく窪んだ採掘跡や、採掘ロボットの走行跡が残っていた。


かなり大量に掘削しているが、何もそれらしいマーカーが無いので

世界政府公認の採掘現場で無いことは明らかだった。


「いったい誰が、こんな違法な届け出無しの採掘を?」とテオ。


「これだけの量の採掘をしたら、闇で売りさばくのも大変だ。

 ここを掘った奴らは、何らかの大きい組織だ。おそらく海賊団…」

とファビオ。


「何だって! 海賊団が採掘をしてるのか?」

テオは驚いて大声をあげた。


「そう考えると、いろいろ辻褄が合うだろ。 海賊団が宇宙機を

 多数調達できる資金源が何なのか分からなかったんだ」


「じゃぁここは、もしかして海賊団メデューサの……」


「いや、たぶんメデューサじゃない。

 海賊団メデューサにはブラックラットが組んでるから、

 違法賭博がその資金源と考えられる。

 だから、ここは海賊団レッド・ウルフや、他の海賊団の

 と考えた方がいい」


「どの海賊団だとしても、ここで試掘するのはヤバいんじゃないか?」


「ああ、ここは撤収するしかないな。

 海賊団が違法採掘している証拠写真を撮ったら、さっさと

 さっき設置した探査済マーカーも撤去して出発だ」


  ***


ファビオとテオは、自分たちが<イカロス>から降ろした機材を

手早く撤収して、自分たちが設置したマーカーも回収して離陸した。


「なんとか海賊団と鉢合わせしなくて良かったな」とテオ。


「いや、早くこの宇宙域を離れないと、近くに海賊団がいるかも

 しれない。まだ安心できないぞ。 あっ、待て!」


ファビオが言い終わらないうちに、後部レーダーに多数の宇宙機の

機影が映り出した。

「来やがった!」とファビオ。


「まずいぞ。 スペース・ホーク多数。 ムーン・イーグルもいる。

 探知されたぞ。 全部で6機。奴ら加速を始めてる」

テオが後部レーダーに映る機影の機種分析をしながら大声を上げる。


後部レーダーに映る機影は、明らかに速度を増しながら、

迫って来ている。


ファビオが大型推進機も始動する。

<イカロス>はぐんぐんと加速度を強めた。


「こっちは、もうただの『ペキンダック』じゃねぇ。

 驚くなよ。 スペース・ホークだってぶっちぎってやる」


ファビオは追われているのに、その大加速度を楽しんでいる

ように、顔がニヤついていた。

元運び屋としては、この急加速する感覚が快感なのだ。


運び屋時代には自分の小型輸送機で毎日のように味わっていた

加速度も、ガタイの大きい資源探査船ではそうもいかなかったのだ。

大型推進機をフルパワーにして、久々に味わう加速度と、

スピードを楽しんでいる。


一方、テオは大きな加速度に慣れていないので顔をゆがめている。

「奴らのスペース・ホークが、SGで運用していた機体が退役したのを

 買い取ってそのまま使っている…なら、3Gまでのリミッター

 ……が……付いているはずだ」

テオは3Gを遥かに超えて5Gぐらいになる中で、苦しそうに話した。


<イカロス>の大加速に海賊団のスペース・ホークもついていけず

宇宙機群との距離は離れ、速度計はぐんぐんと数字を上げる。


ただ、無限に速度を上げられるわけではない。

無数の小天体が漂う宇宙空間では、高速航行時警戒システムという

自動で小天体を排除するシステムが対応できる速度以上を出すのは

非常に危険なのだ。


小さな小石ほどの小天体であっても、高速で機体に当たれば、

大きなダメージを負う。すでに高速航行時警戒システムで

カバーできる速度を超えつつあった。


「テオ。ヘルメットかぶれ。 

 いつ機体に穴が開いて、気圧制御ができなくなるかわからない」


テオは慌てて首の後ろにぶら下げていたヘルメットをかぶる。

「ファビオ。あんまり無茶すんな」


後部レーダーのモニターを見ていたファビオが大声をあげた。

「くそう! 奴らミサイル撃ちやがった。速い!」


「何だって!」

テオも後部レーダーのモニターで、ミサイルのマークの付いた

映像にカーソルを当てて相対距離を確認する。


ミサイルは宇宙機よりも軽いので、当然加速も早い。

ぐんぐんと<イカロス>との距離を詰めて来る。


「このままだと、被弾まであと35秒!」

テオが叫んだ。






次のエピソード>「第26話 逃走」へ続く

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