第22話 武装強化
ファビオとテオは、ヴラ爺さんから連絡のあったジャンク屋に行くため
小惑星ダフネの<ゴルトシュミットシティー>宇宙港のC格納庫から
資源探査船<イカロス>を発進させていた。
紹介されたジャンク屋<バークリック整備>は、ダフネにある別の都市
<ニューナポリシティー>に有るのだ。
<ニューナポリシティー>は小さな都市で、民間施設の港しかないが
<イカロス>が近づくと、ジャンク屋から通信が入り、ジャンク屋の
敷地に着陸するように指示される。
後部ハッチを開けてファビオとテオが船から出ると、
かなり恰幅のある髭面の男が、パンパンに張った宇宙スーツの腹を
揺らしながら近づいて来た。
「ホッホー。ようこそ、わが整備場へ。 私がバークリックだ。
お前さんが、ヴラ爺さんの知り合いのテオ君かね?」
「いえ、私はファビオ・カルデローニ。この船の艦長です。
テオは彼の方です」
「機関士のテオ・リヒテンベルガーです。お世話になります」
ファビオは<バークリック整備>の敷地を見渡しながら思った。
—— 整備場というより、宇宙機の墓場じゃないかここは ——
敷地の至る所に、各種宇宙機の残骸が転がっている。
本来の姿に近いものから、分解されて何の機種かわからないものまで
多種多様あった。
—— これは、テオが喜び過ぎて、時間がかかりそうだな ——
***
バークリック・チワアリーというジャンク屋の親父は、ケレスの
ヴラ爺さんと、お互いにパーツを買ったりし合う仲間とのことだった。
ヴラ爺さんから通信が有ったとのことで、ファビオとテオが法を
破ってでも、武装を強化したいという願いを良く分かっていた。
「最近は物騒だからな。
確かにお前さん達の船のような、金目のものが詰まっとるかもしれん
太っちょの船は、海賊団にとってはペキンダックにしか見えんだろうな。
だが俺も保安部隊に逮捕されたくはないから、使える武器は
扱っとらんよ。壊れた武器なら山ほどあるがな」
「それで充分です。自分で直せますから」
テオが自信満々に応えた。
「SG部隊の機体のビーム砲は、対有人機には撃てんように、
制御されておるはずだが、それでもいいのか」
「それは、SGのターゲティングシステムを使う場合で、
別のコントロールシステムに繋げば撃てると思います」
「お前さんは、そんなことができるのか? そんな技術を何処で?」
「以前、MEE社の整備チームで働いていたんです。
あそこではMEE社以外の企業の宇宙機も整備していましたから、
カシミール・インダストリー社製の宇宙防衛機ムーン・イーグルや
スペーステクノロジー社製の宇宙防衛機スペース・ホークも
整備したことがあるんです」
テオは父親の名前を出さなかった。
「そりゃぁすごい」
「ところで、敷地のはずれに随分大きな推進機が見えましたが、
あれは何の推進機ですか?」
「ああ、あれか? あれはカラカス・テクノロジー社(CT社)の
高速長距離旅客船の推進機だ」
----------〔カラカス・テクノロジー社(CT社)〕----------------------
ここ数年で急激に成長した旅客船メーカー。
CT社は小型~中型クラスの高速旅客船の分野でシェアを広げていた。
-----------------------------------------------------------------------------------
「高速長距離旅客船の推進機ですって? あれは動きますか?」
「ああ、我々が動くように修理済だ」
「どうしてそんなものがここに?」
「船体の核融合エンジンの電気エネルギーを伝達する部分が損傷し
てたんだ。数日で修理できる損傷だったんだが、旅客船だから、
その修理できるまで乗客を乗せたまま待たせるわけにも行かず、
SSY社の一回り小さな推進機を代わりに搭載して出発して
行ったんだ。
プラズマジェット発生器部分は何も問題ないし、ほとんど
新品そのものだ。 でもお前さん達の船には大きすぎるだろ?」
「推進機が大きすぎて困るのは、燃料水の消費量だけですよ」
テオは、カラカス・テクノロジー社(CT社)の機体を整備した
ことは無かったが、主要パーツに問題がない大型推進機が有ると
聞いて、もう目がキラキラと輝いていた。
ファビオとテオは、有用なパーツが入手できることが分かったので、
<バークリック整備>の整備工場を約5日間貸し切りにしてもらい、
資源探査船<イカロス>の改造工事を行う契約をした。
テオはすでに以前から、<イカロス>の改造のための設計案を
いくつも準備しており、それらの中のいくつかを組み合わせた改造
を行うには、バークリック社長と、整備工場の2名の作業員、
そしてテオの4名で作業をすれば、5日でできると見積もっていた。
***
ファビオ・カルデローニは、パーツの移動や道具の準備などの簡単な
作業を手伝うことはできても、技術的に難しい作業はできないため、
先日の隕石嵐の時の宇宙塵で汚れた機体の洗浄作業などを行っていた。
また、その作業の合間に、GSAのエルネスト・レスタンクールに、
自分たちが、ここ小惑星ダフネで掴んだ情報を整理して通信していた。
ある小惑星でダフネ保安隊員の遺体を回収し、ダフネに来ていること。
そして、その遺体となっていたハヴェル・ノバチェクという、
小惑星ダフネの保安隊員だったこと。
そして彼は、元は月の保安部隊に所属していたので、コロニー間
耐久レース事件の時に、月の保安部隊から、レース機の飛行記録
データレコーダーのデータを通信で受け取った可能性があること
などの推測を交えて詳しく報告をした。
数時間後にはエルネストから返信が入り、小惑星プシケを襲った
海賊団メデューサの詳細な情報や、プシケの様子の情報が有った。
—— 海賊団メデューサはかなりヤバい奴らだな ——
ジャンク屋兼整備工場の、バークリック社長は海賊団の動向にも
かなり詳しかった。
海賊団に被害を受けた機体が、各地の整備工場に運び込まれるため、
整備工場のつながりで海賊団の情報が入るらしい。
以前は、海賊団レッドウルフが最大勢力を誇っていたが、その後、
メデューサが急激に勢力を伸ばし、小さな海賊団を吸収していって
いるということだった。
***
<イカロス>の改造を始めて2日後、整備工場の床にへたり込んだ
バークリック・チワアリー社長は、ヘルメットのバイザー越しにも
大汗をかいているのがわかる。
バークリックは宇宙スーツの冷却装置のパワーを上げてから言った。
「テオさんよ。あんたは最高の技術者だ。
ケレスのヴラ爺さんに可愛がられるのも納得だ。まさか、ここまでの
改造が本当に2日間で仕上がるとは思ってもいなかった」
近くに同じようにへたり込んでいた、作業員2名も同感だという
ように頷いている。
テオが応える。
「設計案は何度も改正しながらて準備していましたからね。俺達、
アステロイド・ハンターは、長距離移動中は基本的には暇なんで」
とテオ。
ヘルメット通信で、操縦席にいるファビオの声が聞こえる。
「テオ。 じゃぁ武器ハッチの開閉テストするぞ」
「OK。ファビオ。まず下部のハッチから順番に頼む」
ファビオが操縦席で操作をすると、<イカロス>の機体下部の
機体の船殻外板の一部が、油圧シリンダーで下に押し下げられて開く。
そこには、保安艇サイクロプスの残骸から移設した電磁パルス砲が
セットされていた。
「ファビオ。OPEN状態良好。 今度は閉じてくれ」
「OK。ハッチを閉じる」
ファビオが操作すると、電磁パルス砲は機体の二重船殻内に格納されて
船体外板がピタッと閉まる。 完全に閉じた状態では、通常の船体外板
とは全く見分けがつかず、そこに武装が隠されていることはわからなく
なった。
「格納状態OK。 ファビオ。次は左右のハッチを開けてくれ」
テオの通信の直後、<イカロス>の左右の外板が同様に油圧シリンダー
で開き、今度はスペース・ホークから移設したビーム砲が左舷と右舷に
それぞれ1基出て来る。
「ファビオ。OPEN状態良好。 両舷とも閉じてくれ」
すぐに両舷のビーム砲が機体に格納されて、その存在を隠した。
整備工場の床にへたり込んでいたバークリックと、2人の作業員は
拍手をして開閉テストの成功を祝った。
「ファビオ。OKだ。 今日はここまでにしよう。
明日からは、あの巨大推進機を取り付ける作業だ」
***
バークリック社長と2人の整備員は作業を終了し、整備工場から帰ったが
テオ・リヒテンベルガーは整備工場の床に置いてある巨大推進機の
前に設置した足場に立っていた。
カラカス・テクノロジー社(CT社)の中型旅客船についていたという
推進機は、バークリック社長の言う通り、核パルスジェット発生器は
全く故障しておらず、<バークリック整備>で修理した部分も完璧なの
は確認できている。
<イカロス>についているメイン推進機ポッド4機は生かしたまま、
いざという時の補助推進機として、この巨大な推進機を使うというのが
テオのプランである。
そうでないと、燃料水の消費量が多すぎるためだ。
明日からは、<イカロスの>機体後部の補強を行って、この巨大推進機
のパワーを船体に伝えられるようにする必要がある。
—— さてさて、俺はカラカス・テクノロジー社(CT社)の推進機は
良く知らないからな。 ちょっと学習しておくか ——
整備工場を出発した後、何か不具合が有ったら、宇宙空間で自分で修理
するしかないので、ある程度中身の機構を把握しておく必要があるのだ。
推進機の外板パネルを外す。
—— ああ、分かり易そうだ ——
テオは一目見て、MEE社の推進機と同様のシステムだと理解した。
MEE社の整備チームにいたテオにとって、この推進機は巨大だが、
エンジンの機構そのものは、自分の知っている機種とよく似ていて
分かりやすい構造になっていた。
—— いや……おかしい。分り過ぎる ——
テオはある部分の機構を入念に調べ始める。
そして、外板を開いたままの推進機の前で仁王立ちになり固まった。
—— 俺はこのエンジンを知っている。 何故だ? ——
次のエピソード>「第23話 大型推進機の謎」へ続く
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