第14話 狙われた理由

両手を挙げたエルネストに、保安隊員が命令する。


「カードキーをかざして部屋に入れ」


エルネストは言われた通りに、部屋に入る。

待ちくたびれたようなチンピラ2人が、拳銃を構えて待っていた。


2人は宇宙服ではなく、前の1人は赤シャツ、後ろのもう1人は

黒の縦縞シャツだった。


「やっとお帰りか、GSAの旦那」と赤シャツ。


エルネストは、部屋を見渡す。

着替えなどの入ったトランクが開けられて、中身が散乱していた。

—— 大事な物は、全て持って出かけたからいいか ——


チンピラ2人が手に持っているレトロな拳銃をじっと見る。

大昔からある金属の弾が出る奴だ。 リボルバーという古典的な

銃で、連続発射は5~6発のはずだと確認する。

ただ十分に殺傷能力はある。


—— 前に2人。 後ろに2人。 ちょっと不利だな ——


「俺達は、GSAの旦那にちょっと聞きたいことがあるんだ。

 夜は長い。ゆっくり話をしないか」

赤シャツが薄笑いを浮かべる。


エルネストは、目を一定のリズムでパチパチさせた。

すると、メガネがその目の合図を感じ取り、耳の後ろのつるの部分に

ある後部カメラを起動して、後ろの映像をメガネに投影した。


エルネストからは、その投影画像が見えるが、他の人からは

普通の眼鏡に見えているだけだ。


すぐ後ろの痩せた保安隊員は、とても近い位置で、電気ショックガン

を構えエルネストの後頭部をすぐに撃てるようにしている。


—— 近すぎる。まるで素人だな。

   いや、本当は保安隊員じゃないのか? ——


「GSAの旦那に聞きたいのは、今、何を捜査しているのかだ。

 正直に言えば、命は助けてやる」


—— ちっ。海賊団が、もう探りを入れてきたか? ——


少し後から部屋に入って来たもう一人の小太りの保安隊員は、

自分の電気ショックガンを肩からひもで吊るしてぶら下げており、

エルネストが廊下の床に落とした超小型の電気ショックガンを

拾ってきて、珍しそうに見ている。その小ささに興味がある様だ。


—— それ珍しいだろ? 握ってみろよ ——


小太りの保安隊員は、E・レスタンクール専用と書いてある

その超小型電気ショックガンのグリップを持ち、

トリガーに指をかけた。


その途端、ガンは小太りの保安隊員に向けて強力な電気

エネルギーを放出した。


「バリバリッ」っと音がして、小太りの保安隊員が崩れるように、

床に倒れこんだ。


隠しボタンを押さないで、トリガーに指をかけると、

ガンが奪われたと判断して、持っている者に電気ショックを与える

仕組みなのだ。


痩せた保安隊員も、前にいる2人のチンピラも、突然のことに驚いて

一瞬、エルネストから目を離した。

エルネストはこのチャンスを見逃さなかった。


右手で、後ろの痩せた保安隊員がエルネストの後頭部に突き付けていた

電気ショックガンの銃身を握りながら、体を素早く左に傾ける。


慌てた保安隊員が、電気ショックガンのトリガーを引いたので、

前にいた赤シャツを目掛けて、高密度の電気エネルギーが放出された。


「バリバリッ!」「アゥッ」

今度は赤シャツが失神して、両ひざをガクッと床に落とし、

そのまま横に倒れこんだ。


その間にエルネストは、左肘で後ろの痩せた保安隊員に肘打ちを

かまして、右手で電気ショックガンを奪い取った。


慌てて黒縦縞シャツが、エルネストに向けて銃を2発連射する。


1発はエルネストの左肩に当たり、その衝撃でエルネストは

後ろに少しのけぞったが、弾はエルネストの宇宙スーツを貫通せず

前にポロっと落ちた。

特殊素材のGSA捜査員用スーツは防弾機能もあるのだ。


もう1発の弾は、エルネストが奪い取ったばかりの電気ショック

ガンのエネルギーパック部分に命中し、エネルギーパック部分が

激しく火花をあげて、電気ショックガンの機能が停止した。


エルネストは、壊れた電気ショックガンを黒縦縞シャツに向けて

投げつける。


黒縦縞シャツは、さらに銃を連射していたが、飛んで来る電気ショック

ガンを避けながらだったので、狙いが定まらず、残弾は全て壁に穴を

開けただけだった。


黒縦縞シャツの銃は弾がなくなり、空撃ちの音がした。


エルネストは、前転をするように床に左手をついて、側転しながら

黒縦縞シャツに迫り、男の顔面に強烈な踵落としを食らわすと

男は鼻が潰れて血しぶきを撒き散らしながら、床にひっくり返った。


エルネストが、態勢を整えながら振り返ると、目の前には

痩せた保安隊員のパンチが迫っていた。

間一髪、首を倒す。パンチはエルネストの左耳をかすめた。


保安隊員がその腕を引くときに、その右手首をエルネストがすかさず

掴んで両手でがっしり握ると、手首をひねり上げながら、

自分自身が壁の方向にジャンプし、さらに壁を蹴って舞い上がって、

グルっと回って着地する。


完全に一回転ひねり上げられた手首は、『バキッ』と音をたて、

保安隊員は、床に倒れこんで悲鳴をあげた。

エルネストが手首を離さずさらに絞り上げたので、

保安隊員は左手で床を叩き降参の意を示している。


エルネストは、倒れている保安隊員のスーツの襟の部分を

ぐいっと引いて、スーツの背中側を少し覗きこむ。


中には、ラフなカラーシャツが見え、

明らかに保安隊員用のアンダーシャツでは無いのを確認した。

—— やっぱり、こいつらは偽の保安隊員か —— 


ひねり上げた手首を、少し緩めてから、エルネストは聞いた。

「お前たちは何者だ。誰の命令でここにきた」


保安隊員は、無言で答えない。


「そうか。答える気はなさそうだな。仕方ない」

エルネストは手首にもう一度、少し力を入れる。


「うっ。やめろ。 俺達は頼まれただけだ」と偽保安隊員。


「誰に、何を、頼まれたんだ」


「上のほうからの声だ。誰からかはわからねぇ。本当だ」


「それで?」エルネストは、手首を動かす振りをした。


「あんたが、昨夜、何かファイルをダウンロードした理由を

 吐かせろと言われた」


「何だと、ファイルをダウンロードした理由だって?」


—— まさか、そんな。 GSAサーバーにコンタクトして

   耐久レース事件のファイルを転送してもらったことを

   言ってるのか? ——


「俺がファイルをダウンロードした理由を言ったら、

 誰に報告することになってるんだ?」


「誰かは知らない。明日、通信先のアドレスの連絡が来るので、

 そこに通信を入れたら、金をたんまり貰えることになってた。

 それしか、俺達は知らない」


「そうか、お役目ご苦労」

エルネストは、偽保安隊員の首の後ろにチョップを入れて気絶させた。


立ち上がり、テーブルに置いてある部屋の通話機のボタンを押して、

ホテルのフロントを呼び出す。


「はい。フロントです。レスタンクール様、何か御用ですか」


「あぁ。部屋に帰ったらゴミがいっぱいあってね。 床に血もついてる。

 できれば部屋を変えてもらいたいんだ。

 それとロビーの何処かに、身ぐるみはがされた保安隊員が2名

 転がっていないだろうか? 探してもらえると助かる」


 ***


本物の保安隊員2名は、身ぐるみを剥がされ、ロビーのトイレで気を

失っているのを、すぐに発見された。


少しして駆けつけた、ケレスの保安部隊のリーダーは、

部屋の中に横たわる4人のチンピラを見て絶句した。


「なぜ、こんな街の下っ端チンピラどもが、GSAの

 あなたを襲ったんでしょう?」


「さぁ。 それは俺が聞きたいね。こいつらはどういう組織の

 手先なんだ? 誰に頼まれたのか分かるかな」


「こいつらは、金さえもらえれば何でも請け負うような集団で、

 通信一本で、窃盗、強盗、恐喝、拉致、なんでもやります。

 だから依頼元は、いろいろ考えられます。

 たいていの場合、こいつらは何も事情を知らず、依頼主が

 誰かもわかっていません」


「そういうことか。まぁいいか」


エルネストは、先ほど偽保安隊員が言った言葉で、

『狙われた理由』ははっきりしたので、十分だと思いなおした。


—— ちょっと資料を取り寄せただけで、ここまでやる? —— 


あの事件を調べられるのを恐れている奴が犯人で、

しかも、そいつはGSAのサーバーからの情報の出し入れを

監視できる奴とつながっている。


—— ファビオとテオが、GSA内にも犯人と通じている

   者がいると考えていたのは、完全に当たっていた ——


少なくとも、この件に関しては、

自分の所属しているGSAすら信じられないことが確定した。


経験豊かなエルネストも、この状況にどう対処すべきなのか

答えが分からなかった。





次回エピソード>「第15話 追跡者」へ続く









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