第15話 追跡者
ファビオとテオは、自分たちが<イカロス>から発進させたダミー
ドローンを追う尾行ドローンを発見し、今後どう行動するか悩んでいた。
「ファビオ。<カシオペア3>の誰かが、あの尾行ドローンを飛ばして
いると思うか? それとも海賊団に連絡したのかな」とテオ。
「いや、さっきのカシオペア・グループが海賊団と繋がっているんじゃ
無いかっていうのは、宇宙ドック船が襲われない理由は何かと
考えた時の一般的な話で、いまのこの状況には合わない。
なぜなら、宇宙ドック船の修理作業者は、いま<イカロス>の
貨物室が空っぽなのをみんな知ってる。
海賊団が、この船を襲うメリットがあまりない」
「じゃぁ、あの尾行ドローンはなぜ<イカロス>を追跡する?
俺達が何処の星へ行くのかを、知りたいということか?」
「そうとしか、考えられないよな。
つまり、俺達がこれから行こうとしている星に、『お宝』が
有ると思っている奴。つまりリオ商会だ」
「リオ商会?」
「俺はBAR<ミルキーウェイ>で、リオ商会のラガルドという奴に、
約1トンのレニウム鉱は、ケレスに直接持ち込めないから、
『ある星』に隠して来たと嘘をついたんだ」
「それでリオ商会は、その『ある星』を知りたいのか。
すると、宇宙ドック船<カシオペア3>の誰かが、
リオ商会と通じていて、俺達が宇宙ドック船に入っていたことや、
出発したことを連絡したってことなのか?」とテオ。
「ああ、それが一番有りうる話だと思わないか?」
「でも宇宙ドック側が、リオ商会と通じて何の利益が?」
「宇宙ドックの企業としてではなく、作業員の誰か個人が
リオ商会に金を掴まされて、情報を売ってるのなら、
十分に有りうるだろ?」
「くそぅ。そうかぁ」
「あと、リオ商会の奴らは資源開発局の検査員に金をつかませて、
この船の航行記録を盗ませたようだ。
その情報で、『ある星』を突き止められると思って
いたんだろうが、航行記録では目ぼしい場所が見つからずに、
困っているんだろうな」
「ああ、用心のために、ケレス入港前に、
ちゃんと嘘だらけの航行記録に書き換えておいたからな」とテオ。
「俺達が<イカロス>の貨物室のジャンクパーツの中に隠して有るとは、
まだ、バレて無いということだな。
もしもそれがバレてたら、遠くまで尾行する前に襲ってくるはずだ。
だから俺達を泳がせて、尾行する作戦にしたんだと思う」
「なるほど。そういう『悪知恵』のことは、お前が詳しいから助かるよ。
俺のような、真面目な機関士にはわからねぇ」
「このやろ。おちょくってるのか?」
「いや、感謝してると言ってるんだ」テオは舌を出した。
***
テオはダミードローンに、いくつかのコマンドとともに
作戦終了のコードを送った。
ダミードローンは、そのコードを受信すると、
推進機の噴射を強めて急加速し、尾行ドローンとの距離を引き離す。
十分に距離をとった所で、展開していた反射膜を閉じて、
推進機の噴射をストップする。
ダミードローンの機体ボディーには、レーダー波を反射しにくい
塗料を塗っているため、反射膜を閉じたことで、尾行ドローンからは
突然探知できなくなったはずだった。
次に、ダミードローンは、メインの推進機を使わずに、姿勢制御用の
ガスジェットを使い、惰性で飛行している機体の進行方向を変えた。
そのまま、尾行ドローンの探査域から十分外れるまで惰性航行を続け、
十分に離れたあと、再びメイン推進機を使って、<イカロス>の
いる方向へ戻るプログラムになっている。
テオは、ダミードローンからの通信データをチェックして、
プログラム通りの飛行をしていることを確認すると、
ファビオに言う。
「さて、あとは俺達が何処へ行くかだな。 それを決めたら、
ダミードローンに、ランデブーポイントの座標を送るよ」
ファビオは少し考えてから提案した。
「リオ商会が、ここまで執拗に追ってくることを考えると、
あのレニウム鉱は、早く何処かの地方政府の資源開発局に
売っぱらうのが正解だな。
地方政府の資源買取情報は、じゃじゃ漏れだから、俺達が大量の
レニウム鉱を手放したことは、奴らも知る所になる。
そうすれば、俺達を襲う理由はかなり減る」
「かなり減る? 無くなるんじゃなく?」
「ああ、レニウム鉱を手放したって、BARで痛めつけられた
『恨み』は消えないだろ?」
「そうか。そんなことも有ったな」テオは舌を出した。
「ここから近くで、地方政府の資源開発局がある星は……」
ファビオは、小惑星帯マップを表示しながら続ける。
「小惑星プシケは近くだが、海賊団に襲われて、宇宙港が無茶苦茶
らしいから除外だな。 あと、ジュノーは尾行ドローンが
向かってる方向だからダメだな。
そうすると、少し距離があるがヒギエア、ダフネぐらいだが、
テオ。ヒギエアとダフネ、どっちがいい?」
「小惑星ダフネには行ったこと無いから、面白いんじゃないか」
「よし。じゃぁ、ブツを売るのは小惑星ダフネと決めて、
そこに行くまでの途中経路で、まだ、資源調査されていない
小惑星や小天体群を調べながら行くか」
「ああ、レニウム鉱だけ売りに行くのは不自然だからな」
***
<ケレスシティー>
高級ホテル<クリスタルパレス>のスィートルーム。
エルネスト・レスタンクールは、ホテルの計らいで、乱闘のあった
部屋から、スイートルームに変更してもらっていた。
広いゆったりとしたバスルームで、シャワーを浴びる。
左肩には弾が当たった位置にあざができていた。
GSAの宇宙スーツは、防弾機能で弾は貫通させないが、流石に
衝撃すべてを吸収はできず、肉体にも弾着の跡を残していたのだ。
左肩をさすりながら、先ほどの乱闘騒ぎのことを考えていた。
耐久レース事件の資料を取り寄せただけで、チンピラに襲わせると
いうのは、どう見ても過剰反応だ。
それほど、過去の調査をさせたくない奴がいる。
—— なぜだ? ——
そこに、犯人のヒントが有ることは確かだった。
ただ、正体不明の犯人がケレスのチンピラを動かせるなら、
休まる時間がない。 常に襲われることを考慮して行動しないと
いけないし、捜査すればするほど、攻撃は増えるだろう。
GSAのサポートもどこまで期待できるかわからないので、
四面楚歌の中での捜査になってしまう。
ただ、少なくとも自分は『ファイルをダウンロード』したという
ことで警戒されてはいるが、犯人と敵対行動をしようとしているとは
向こうも確信する情報は無いはずだ。
宇宙ドック<カシオペア3>に行った目的は、海賊団メデューサに
襲われた<ケルベロス>の乗組員への事情聴取というのが公の記録に
有るだけで、そこにたまたまいた<イカロス>のファビオとテオから、
話を聞いたというのは、犯人には伝わっていないはずだ。
—— まだ、今ならだませるかな ——
タオルで体を拭き、バスローブをまとう。
氷を入れたグラスに、ウィスキーを注いでソファーに座ると、
一口飲んでから、タブレットを操作する。
GSAサーバーに、GSAの記録に有る未解決事件のファイルを
片っ端から取り寄せる依頼を出した。
また、海賊団メデューサが過去に起こした事件の記録だけでなく、
他の海賊団と思われる事件の資料も全て取り寄せる依頼を出す。
これで、自分の捜査対象が海賊団であり、それに関係するかも
しれない記録を片っ端からダウンロードしているだけに見えるの
ではないかとの期待があった。
—— 上手く誤魔化せるかどうかは、わからないが
やらないよりはマシ。というぐらいか ——
月とケレスは十数光分の距離があり、依頼した資料が届くまでには
しばらく時間がある。
エルネストはグラスを口に運んだ。
次のエピソード>「第16話 試掘作業」へ続く
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