第11話 探り合い

「襲ってきた相手機に心当たりはないんですか?」とエルネスト。


—— これは、探りを入れていやがる。

   普通なら、襲ってきた機体の機種や機数を質問するのが

   先のはずだ。 こいつ、 どこまで知ってる? —— 


「相手も機種も良く分かりませんが、4機ほどいました。

 必死で小天体群に逃げ込んで隠れてたんです」


ファビオは相手がリオ商会だということだけを伏せて、

捜査員の目をしっかり見ながら、事実を簡潔に述べた。

下手に目をそらしたら、疑われるだけだ。


「そうですか。 実はあなた方の<イカロス>が離陸したあと、

 リオ商会の船が4機、急発進したのが、宇宙港の記録に

 有ったんですが、相手はそのリオ商会じゃないんですか?」


—— こいつ、やっぱり、そこまで調べてやがった。 

   どう答える? 下手なこと言うと、嘘だとばれる——



ファビオは、エルネスト・レスタンクールの目をじっと見た。

こちらが、正体不明機と言っているのに、向こうからリオ商会の

名前を出して来た。つまり、リオ商会が襲ったことは知っている。


—— この捜査官は、何を聞き出したい? 

   何が目的で、ここに来た? ——


「えーっと。俺達は、撃って来た相手が高速宇宙機ということしか

 わかって無いんで、 それがリオ商会なのかどうか……」


テオがパスタを食べ終わり、紙ナフキンで口を拭きながら、

わざと、すっとぼけた喋りかたで口を挟んだ。

「リオ商会ってさぁ、資源開発機器から生活用品まで売る

 総合商社だよなぁ? 高速宇宙機まで持ってんのかぁ?」


「それが、持ってるんですよ」


エルネスト・レスタンクールはテオににこやかな表情を

向けて続ける。

「もしかすると裏では麻薬や武器も持っているかもしれません。 

 私は海賊団に武器を流しているのがリオ商会じゃないかって

 疑って調べているんです」


「え? 麻薬? 武器? ひでぇ」

とテオはまだすっとぼけている。


ファビオはますます捜査員の目的が分からなくなっていた。

—— BARの騒ぎの捜査じゃないのか? ——


ファビオのほうから質問した。

「仮にですよ。 俺達を襲ったのがリオ商会だとしたら、

 何の目的で、彼らは海賊行為をしてるんでしょうか?」


「そこです。 『何の目的で?』 が私は知りたいんです」


—— やはり、そこに来やがった。

   まさか、レニウム鉱を密売しようとして、

   商談がもつれたとは言えない ——


に襲われた理由はこっちが教えてもらいたいです」

ファビオはあくまで、しらを切る作戦を通した。


ここまでのやり取りで、このエルネスト・レスタンクールという

GSA捜査員が頭の切れる奴だと分かっている。


これ以上、話が進むと俺達がレニウム鉱の密輸取引をしたことまで、

話さざるを得なくなる。それは絶対に隠し通さないといけない。


エルネスト・レスタンクールは、ファビオの目の迷いをじっと見て

いたが、口元を少し緩めて、笑顔でファビオに話しかけた。


「ファビオさん。 そんなに警戒しないでいいですよ。

 あくまでの話ですが、リオ商会とあなた方の間で、

 何かの『取引』のもつれが有ったとして、それが追われた理由だと

 しても、私はその取引内容には興味は有りません。 

 

 興味が有るのは、リオ商会が、海賊団に武器を流すようなことを

 しているのかどうか、それを知りたいだけです」


—— くそう、ど真ん中の直球で来やがった。 

   やはり奴は全て知ってて、質問してやがる ——


「じゃぁ、として、

 俺達がそのリオ商会と、何かの理由で、もつれて追われたと

 分かったら、海賊団とのつながりが、どう分かるんですか?」


「あなた方の<イカロス>を撃ったのが、リオ商会と確定できたら、

 やつらの事務所の捜査令状が取れるんですよ」


ファビオは、GSA捜査員の目をじっと見返した。

エルネスト・レスタンクールも、ファビオを真っすぐ見つめている。


にビーム砲で撃たれた跡が有るだけで、何も証拠が

 無いのに、そのリオ商会の捜査令状が取れるんですか?」


「取れますよ。 の証言が有れば」

エルネストは、ファビオの目を見ながら少しだけうなずいた。


それは、明らかに嘘でもいいから、相手機はリオ商会だと言ってくれ

という合図だった。


—— だめだ。そんな危ない橋は渡れない ——


「まさか、としての証言では無理でしょう。

 何度聞かれても、私たちはに襲われただけです

 としか言えません。 それが真実です」


ファビオはそう言いながらも、相手の目をじっと見ながら、

軽くうなずき返した。


それは、リオ商会に襲われたのだと、言えないが、

エルネストの考えの通り、リオ商会との取引のもつれで襲われた

ことを認めているという目つきだった。


エルネストとファビオは、しばらくじっと見つめ合って動かない。


少しして、エルネストは視線を変えて、テオの顔を見た。

テオもファビオと同様に、何も言わず、エルネストを見つめ返す。


「よく、分かりました。

 じゃぁ、別な事件の質問をしてもいいですか?」


「別の事件って?」

ファビオは、突然の話題変更が何なのか全くわからなかった。

小惑星プシケを襲った海賊団のことは何も知らない。


「5年前の事件です」


ファビオとテオは、目を丸くして顔を見合わせる。

5年前の事件と言えば、コロニー間耐久レース事件のことしかない。


「いつの間に俺達のことを、そこまで調べて有るんですか?」とテオ。


「あなた達のこと? 

 あの耐久レース事件は、GSAが追う未解決事件の中でも、

 トップクラスの重要事件なんです。 お二人の名前を検索すると、

 すぐに被害者として、報告書がヒットするんですよ」


「じゃぁ、その報告書に書いてあるでしょう。

 俺達はいきなりドカンとやられて負傷しただけで、お話しできる

 ようなことは、何も無いことが」

ファビオは両手を広げて、降参の合図をした。


「では、質問の仕方を変えましょう。

 お二人が<ニューシドニー・シティー>の病院で入院中に意気投合し、

 MEE社から資源探査船を購入してアステロイド・ハンターに

 転身したことは、こちらも調査できています」


エルネストは、交互に二人の顔を見ながら話を続けた。


「しかも、資源探査船を購入するために、ファビオさんは自分の

 高速小型輸送機を売り飛ばし、さらに『運び屋』時代の貯蓄を全て

 使ってる。テオさんのほうも、お父様の遺産を全てつぎ込んだ。

 そこまでして、なぜアステロイド・ハンターに?」


ファビオとテオは、再び目を丸くして顔を見合わせた。

—— そこまで俺達のことを調べてるとは! 

   いや、GSAにはそんな記録まで残っているのか ——


ファビオは、先ほどのリオ商会の話は、自分達と話を始めるための

単なる口実で、彼はこっちの話を聞くのがメインだったのだと

気が付いた。


「お宝さがしで、一発当てて、儲けるため……と言っても、

 レスタンクールさんは信じそうにないですね」

ファビオが薄笑いを浮かべながら言った。


「ファビオさん。どうぞ。エルネストと呼んでください。

 わたしのほうも正直に言います。

 私は、あなた方が『宝探し』以外の目的も持っていると踏んでいます。

 例の事件のことで、我々GSAの掴んでいない『何か』を知って

 いるんじゃないんですか?

 お二人が全財産を投げうってまで、ここ小惑星帯に来るという

 決断をさせるほどの『何か』の情報を」


—— 参った。全て見抜かれている ——


「そこまで……」

とファビオが言いかけると、テオが横から注意をうながした。

「いいのか?」


ファビオはテオに向かって深くうなずいた。

「この人なら大丈夫だろう」


ファビオはエルネストに向かって言った。

「GSAの記録に乗せないと約束してくれるなら、エルネストさん

 あなたにだけ話しますが、ここでは話せません。

 俺達の船に行きましょう」




次回エピソード>「第12話 転身の理由」へ続く

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