GSA捜査員

第6話 事情聴取

<ケレスシティー>のBAR<ミルキーウェイ>。


ケレス保安部隊のメンバー4人が、荒れ果てた店内で、

BARの騒動の犯人の遺留品を探している。


割れたテーブル、皿、グラスなどが散乱し、床には血痕が残っている。

何かの爆発物が使用された場所には、床に深いくぼみが出来ていた。


大きな爆発音が有ったという通報で、ケレス保安部隊が駆けつけたが、

すでに店内には誰もおらず、争った跡と爆発の痕跡が残っているだけだ。


保安部隊の現地調査が始まってから少し経つと、

BARの店長のアーロ・マイヤネンと、彼が監禁されていたのを助けた

という男性、ブラスチミル・ラーンスキーという男が店に入って来た。


保安部隊のリーダーがカウンターに座って、事情聴取を始める。

店長のマイヤネンが、自分は見知らぬチンピラに拘束され、

近くの倉庫に監禁されていたことなどを説明した。


そして、ヴラスチミル・ラーンスキー(ヴラ爺さん)が

友人を助けだすまでの経緯を説明した。


「じゃぁ、ラーンスキーさんが知人と商談をしながら飲んで、

 店を出る時には、リオ商会のチンピラ達しか店には残って

 いなかったんだな」


「そうじゃ。 ワシはこの友人のアーロがいると思って、

 この店に来たのに、知らないバーテンダーが入っていたので、

 何かが怪しいと思って、しばらく様子をみていたんじゃ。

 その時は、リオ商会のチンピラどもが店に沢山いたんじゃ」


「その後はどうしたんですか?」


「そこの壊れたテーブルで飲んでいた若者たちに、この友人の

 捜査協力をしてくれないかと依頼して一緒に店を出たんじゃ」


保安部隊のリーダーと一緒に、証言を横で聞いていた男が口を挟む。


その男は、細身で背が高くグレーの宇宙スーツを着ている。

ケレス保安部隊の白を基調として、腕や肩に青い筋が入った

宇宙スーツとは異なっている。


きりっとした表情や気品のある身のこなしは、ただ物ではない

オーラを出していた。


「ラーンスキーさんは、先ほど店にいたチンピラたちが、リオ商会の者

 だと話されましたが、なぜリオ商会だと分かったんですか?」


「ワシはジャンク屋の仲介をしているじゃが、以前に一度だけリオ商会

 の奴らが宇宙機の補修パーツを探すために事務所に来たんじゃ。

 その商談の時に、会ったチンピラ数人があのボックス席で飲んでいた」


「なるほど。 あなたはリオ商会と取引が有ったんですか」


「いや取引はなかった。彼らの探していた補修パーツが見つけられ

 なかったからな。商談は成立しなかったんじゃ」


「では今日、このBARでラーンスキーさんが商談していた相手

 というのは、そのリオ商会の者とは違うんですか?」


「古い知り合いのアステロイド・ハンターじゃよ。

 資源調査船の機体のメンテ用品の注文を受けただけじゃ。

 そして久々の再会を祝して、軽く一杯飲んで分かれたんじゃ」


「なるほど。その方は、この騒ぎの時どうしてたんでしょう?

 まだ店にいた可能性は有りますか?」


「いや、それはない。彼はすぐに出発しないといけないと言って、

 ワシ達よりも先に店を出たからね」


「念のため、その商談相手の方の名前も教えてもらえますか?」


「テオ・リヒテンベルガー。若いアステロイド・ハンターじゃよ」


長身の男はタブレットにメモを書き終わると、ポケットから名刺を出して

2人に手渡した。


「ご挨拶が遅れました。

 私は世界政府直属のグローバル・セキュリティー・エージェンシーの

 エルネスト・レスタンクールです。

 他にも何か、思い出したことが有ったら、夜中でもかまいませんから

 この番号に通信してくれないでしょうか」


「グローバル・セキュリティ・エージェンシー?」

店長のマイヤネンが名刺を見て首をひねった。


「ええ略してGSAと言ったほうが、わかりやすいですかね。

 世界政府直属の保安部の捜査部門ですよ」


「世界政府のGSAとやらが、こんなチンピラの騒ぎの捜査を?

 まさかこのために、わざわざ地球圏から来たわけじゃなかろう?」

ヴラ爺さんが質問する。


「我々GSAは、太陽系の各所にまたがるような広域犯罪に対処する

 組織です。最近、ここ小惑星帯では治安が悪化して、大きな組織

 犯罪が起こるようになって来ているので、 捜査のために昨日、

 ケレスに到着したところです」


「大きな組織犯罪? リオ商会はそんなヤバイ組織だったのか?」

ブラ爺さんが、しかめっ面をしながら聞き返した。


「いや、それはまだ分かりません。

 旅客船が海賊団に襲われるケースも増えて来ています。

 彼らが何処の星で武器を調達しているのかどうか? 

 というのが私の捜査の目的です。 近くのホテルにいた時に

 たまたまこの騒動の話を聞いて、ここに来ただけですよ」


「ではケレスの誰かが、武器を流している可能性が有ると?」


「いえいえ、ケレスではなく他の小惑星かもしれません。

 先日あった小惑星プシケを襲った海賊団メドゥーサは、かなりの

 武装を持っていたと聞いています。

 それだけのものを供給できる者がバックにいるはずです。

 そうだ、リオ商会があなたの事務所を訪れたとき、彼らは何か

 連絡先のようなものを、伝えませんでしたか?」


「いやぁいきなり、ワシの小さい事務所に押しかけてきて、少しデータ

 検索をしていっただけじゃから、何も連絡先などは聞いとらんよ」


「そうでしたか。 じゃぁ、私はしばらくこのケレスに滞在しています

 から、もしも、またリオ商会からコンタクトが有ったら、

 私にご一報願います」


GSAのエルネスト・レスタンクールは、それだけ話をすると、

他の保安部隊員たちに挨拶をして、店を出て行った。


 ***


ケレスから少し離れた小天体群の中。


小惑星に着陸して身をひそめている<イカロス>の中で、

ファビオとテオは、偵察用のセンサーのモニターを注視していた。


追って来たサイクロプス2機は、<イカロス>を見失ったようで、

ウロウロしている。


「奴ら、あきらめが悪いな。何度も行ったり来たりしてやがる」

ファビオが呻いた。


「くそう、しばらくはここで息をひそめてないとだめか」とテオ


その時、テオの腕の通信端末に通信が入り、腕にビビッと感触が有った。

「あ、ヴラ爺さんからまた通信が来た。なんか長いメールだな」


テオは操縦室のモニターにメールを転送し、ファビオも一緒に

読めるようにした。


『ジュニア。生きてるか? こちらは、BAR<ミルキーウェイ>で

 保安部隊の事情聴取を受けたところじゃ。


 まぁ、店や廊下の監視カメラは、リオ商会の奴らが故障させてたんで

 お前達二人が騒動のときに店にいたかどうかの証拠はない。

 ただ、居住施設周辺の監視カメラも有るからな。

 お前達二人が、BARのある施設に来たことは隠せないじゃろう。


 ケレスの保安部隊は甘っちょろいから良いんじゃが、GSAの切れ者も

 操作に来ておった。 エルネスト・レスタンクールという奴じゃ。

 

 背の高いパリッとした鋭い感じの奴だった。 お前たちが保安部隊に

 捕まらない様に、ジュニアはワシよりも早く店を出たと言っておいた。 

 それと、お前さんの相棒のことは何も話しておらん。


 もしも、それらしい奴に事情を聞かれるようなことが有ったら、

 ジュニアはワシよりも先に店を出たと口裏を合わせるのがよかろう』


メールを一緒に読んだファビオが、テオに質問する。


「おいテオ。 このヴラ爺さんって、かなりお前を気に入ってるな。

 お前、初めてケレスに来た時、ヴラ爺さんとは、面識がないと言って

 たよな。 この爺さんは、なんで俺達のことをここまで

 気にかけてくれてんだ? それに、なんでお前をジュニアと呼ぶ?」


「ああ、詳しくは話してなかったな。 

 ヴラ爺さんは、死んだ親父の兄弟子なんだよ」


「お前の親父の兄弟子だって? 

 宇宙機整備の神様とまで言われていた、お前の親父の兄弟子?

 ギルベルト・リヒテンベルガーの兄弟子なんて凄い奴じゃないか」


「ああでも爺さんは宇宙機整備のプロになる前に、ジャンク業のほうに

 目覚めてここに来たらしい。それが、ちょうど俺が生まれた頃の話で、

 俺が赤ん坊のときに、抱いたことが有ると言ってたな。 

 俺は全く覚えちゃいないが」


「なるほど。それで、お前をジュニアと呼んで可愛がってんだな」


「ヴラ爺さんは、親父のことも、若い時から可愛がってたらしい。

 だから、5年前に親父がテロで死んだことを物凄く悲しがってた。 

 だから、俺達のことも良く理解してて、いろいろと、

 助けてくれようとしているのさ」


「それは心強いね。 強力な味方じゃないか。

 でも世界政府のGSAが捜査に来てるってのは、なんかヤバいな」


「そうだな」


世界政府直轄のグローバル・セキュリティ・エージェンシー(GSA)

は、太陽系の各所にある地方政府に所属する保安部隊とは異なり、

複数の宇宙域にまたがる広域犯罪を追う組織である。


小規模な密輸をしているアステロイド・ハンターを捕まえるために、

GSA捜査員がわざわざ地球圏から来ることは無いはずだが、

優秀な捜査員がBARの捜査に来ていたというのは気になる情報だった。





次のエピソード>「第7話 アステロイド・ハンターの過去」へ続く





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