第4話 豆鉄砲
資源探査船<イカロス>は、スペース・ホーク2機に徐々に距離を
つめられていた。その後ろからはサイクロプスも2機追ってくる。
「テオ。まさかスペース・ホークは宇宙防衛隊(SG)の仕様のように、
ビーム砲がバリバリに使える状態じゃないだろうな」
----------〔 宇宙防衛隊(SG) 〕-----------------------------------------
世界政府直属のスペース・ガードと呼ばれている部隊。軍隊ではなく、
大量に飛来する隕石を宇宙防衛機で迎撃する隕石防衛の専門部隊だ。
太陽系の各所にSG部隊が配備されている。
SGが宇宙空間で使用する主力機種がスペース・ホークで、
隕石防衛用のビーム砲を備え、対隕石ミサイルを4本装備できる。
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テオはファビオのほうに顔を向けて言った。
「まさか。<ケレスシティー>の宇宙港から、堂々と離陸してきたんだ。
そこまで見え見えの武装はしてないと想うぜ。
ただ、この<イカロス>と同じように、高速航行時警戒システム用の
ビーム砲を対有人機に撃てるように改造した豆鉄砲は有るかもな」
------〔高速航行時警戒システム〕--------------------------------------------
宇宙機全般に採用されている隕石やデブリとの衝突防止用のシステム。
高速航行時に障害となる前方の塵や小さな小石レベルの極小天体を
排除するために、AIが自動制御でビーム砲を撃つ装備。
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「テオ。その豆鉄砲でも機体には穴が開くんだろ。
推進機や、この操縦席など当たり所が悪いとやられるじゃないか」
「そうだな。 そろそろ高速航行時警戒システムのビーム砲の射程距離
まで近づいてくるぞ。ファビオ。どうするんだ?」
「どうするも、こうするも、加速力はスペース・ホークのほうが上なんだ。
チーターに追われたガゼルは、ジグザグに走るしかなかろう?」
「ファビオ。俺は地球時代のそういう動物のことは知らないんだよ。
チーターっていうのは、ライオンみたいな奴か?
ガゼルでも馬でもいいから、草食動物は逃げ込む穴を早く見つけろよ。
俺はブラ爺さんの手下が入れてくれたっていう『お土産』を見て来る」
「ガゼルも馬も穴は掘らねえよ。
テオ。ジグザグ飛行するから、気をつけろよ」
***
テオは操縦室からエアロックを通り、貨物室へ入る。
その途端、横Gがかかりマグネットシューズが床から離れ、
テオの体が壁面に激突した。
—— 痛ってぇ! くそ! ——
テオは壁を蹴って、バーニアキットを保管している棚まで飛び、
バーニアを宇宙服の背中に取り付ける。
そしてエアジェットを噴射して貨物室内に飛び上がった。
ヴラ爺さんの手下が運び込んだという貨物コンテナを確認するために、
搬入口のコンテナに向かって飛ぶ。
—— ヴラ爺さん、はなからこういう状況になるのを読めてたのか?
注文してない布バッグが入ってるが……砲弾?
これはなんだ? 使い方の説明書か? ——
ブラ爺さんの説明書には、手製の武器の使用方法が簡単に書かれていた。
『100mm径のパイプの片側にこれをセットしろ』
その文言の横に簡単なポンチ絵が描いてあった。
—— なるほど。簡易的な小型ランチャーになるんだな。
流石に長いパイプまではカバンに入って無いか。
えーと手頃な100mmのパイプは、その辺にあったよな ——
ヘルメットにファビオからの通信が入る。
「テオ。そろそろ、奴らの射程に入るぞ。何か武器は有ったのか?」
「ああファビオ。爺さん面白いものくれてるぜ。
小型ランチャーになるパーツと砲弾が何種類か入ってるんだ。
後部ハッチを開けて、こいつをぶっ放してやる」
テオは100mm径のパイプを探すために、小型バーニアのジェットを
吹いて貨物室奥のパーツ置き場に飛ぶ。
ファビオが激しくジグザク航行を始めたらしく、貨物室の壁が急速に
テオの目の前に迫ったと思うと、今度は急速に離れて行った。
テオはパーツ置き場の壁のグリップにつかまり、目的のものを探す。
「えーっと、100mm径のパイプはと……」
その時、少し離れた場所の壁にマシンガンの弾痕のようにブスブスと
穴が連続して開き、溶けた貨物室の壁の金属が飛び散った。
追手が高速航行時警戒システムのビーム砲を撃って来たのだ。
ただ出力が小さいので、船が一撃で破壊されるほどではない。
貨物室の壁には連続して穴が開き、その穴は一直線にテオの
いる方に高速で向かってくる。
—— ヤバイ! やられる! ——
その時、機体が転進し、つかまっていた壁のグリップがグイッとテオの
体を引っぱる。ファビオが<イカロス>を急速転進させたのだろう。
壁の穴も急角度に折れ曲がって、遠のいて行く。
「ファビオ! 奴ら豆鉄砲撃って来やがった。
もうちょっとで、俺まで穴だらけだ。
後部ハッチに穴開けただけじゃなく、貨物室内まで穴ボコだらけだ」
「わかってる。外殻損傷のアラートがビービーうるさい。
あと5分で小天体群の中に逃げ込めそうなんだが。何か応戦できそうか?」
「今やってる!」
テオはブラ爺さんの説明書を見ながら、パイプの後部にトリガーパーツ
を取り付け、パイプの前方にベルトを巻き付けてグリップを付ける。
簡易的な小型ランチャーが組み上がる。
コンテナから取り出した沢山の砲弾らしきものが入った布バッグと、
小型ランチャーを持って、後部ハッチまでバーニアキットで飛行する。
「くそ! 後部ハッチをこんなに穴だらけにしやがって!
今度はお返しだ」
テオはビーム砲でハッチに開いた穴のひとつから覗き、
追手の機体の位置を確認する。
まだ追手は簡易小型ランチャーで攻撃できるような距離には来てない。
布バッグには数種類の砲弾が入っているが、ゆっくり説明書を読む暇は
ないので、斜め読みした。
—— え? なになに。海賊に追われているときはとりあえず
砲弾の番号順に撃て。 そりゃ、ご親切にどうも ——
説明書が付いている所を見ると、このランチャーキットは、
爺さんが海賊対策用に売ろうとしていたもののようだった。
—— 砲弾の番号順って? ——
確かに砲弾には何やら数字と文字が書いてある。
急いで掴んだものには、『①閃光弾』とあった。
ランチャーの尾部の装填口から砲弾を入れて蓋を閉める。
ビーム砲でハッチに開いた穴からランチャーの先端を突き出して、
別の穴から覗いて敵のスペース・ホークを探す。
その時、機体が急速に転進して、後部ハッチ位置から吹き飛ばされそうに
なるが、テオは咄嗟に後部ハッチに開いた穴に掴まってこらえる。
再度、ランチャーを突き出して、敵機のいる方向に狙いを付けた。
「ファビオ。 閃光弾を撃つぞ。目くらましにはなるはずだ」
「え? 閃光弾?」
トリガーを引く。
『ドン』という振動とともに、小型ランチャーが後ろに吹き飛びそうに
なるが、テオはその反作用は予想していた。
後部ハッチについているグリップを掴んで、体がランチャーごと
後ろに行くのをこらえる。
再度、穴から後ろを見ようとするが、
その時、閃光弾の眩い光が後部ハッチの無数の穴から貨物室内にも
降り注いだ。その光で閃光弾がいかに強力だったかがわかる。
「おいおいテオ。 後部カメラがみんな探知不能になったじゃないか。
これじゃぁ、敵がどこにいるかも、わかんねえぞ」
「逆に言えば、あっちも、有視界モニターでは、この<イカロス>を
見失ってるはずだ。 いまのうちに、大きく転進しろ」
テオは布バッグの中の②番の砲弾を見た。
『②電磁パルス弾』と書いてある。
—— なるほど。 いいねぇ
次はレーダーを使えなくするのね ——
「ファビオ。 次は電磁パルス弾ってやつを撃つぞ」
テオは急いで②番の砲弾をランチャーにセットし、
後部ハッチの穴からランチャーを突き出して、トリガーを引いた。
『ドン』という振動。
少しして、今度は閃光ではなくファビオの悲鳴が聞こえた。
「ガァァァ! このやろ、後部レーダーも何もかも使えなくする気か?
センサーの異常警報がうるさい!
テオ! こんなんで本当に逃げられんのかよ」
次のエピソード>「第5話 マキビシ」へ続く
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