第3話 元カノ談義①
僕の考えは一つである。マシロには、ぜひ〈理想の彼女〉になってもらいたい。そのための情報データなら、いくらでも惜しげなく提供するつもりだった。
だが、どのような情報データがいいのだろう。理想的な要素なら、いくらでも並べられるのだが、それが一つの人格に集約すると、矛盾が出てきそうな気がする。
「タッくんは温故知新って知ってる?」と、マシロが言った。
ちなみに、くだけた口調になっているのも、タッくんという呼び方も、僕の要望に基づいた結果である。
「
「つまり、これまでの元カノを分析して、タッくんの〈理想の彼女〉像をさぐってみてはどうか、という具合に私は考えてみたんだけど」
「元カノかぁ。どうなんだろう。出会った頃はよくても、それが長続きしなくて、結局、全員わかれてきたんだよ」
「つまり、よかった所もあれば、悪かった所もある、ということだよね。まぁ、それが当たり前といえば当たり前か。どうしようか。タッくんの気が進まないなら、この線はやめておく?」
「いや、全然かまわない。僕がマシロに話して伝える過程で、もしかしたら新しい気づきがあるかもしれない」
「じゃ、一番新しい元カノについて話してみて。どんな女性だったの?」
「名前は
「どちらから告白して、付き合い始めたの?」
「それは向こうからだな。新人で職場に配属されてきて、ずっと面倒を見ていたから、知らないうちに尊敬されていたのかもしれない。こっちは女性として意識していなかったけどね」
「ふうん、ルックスやスタイルはどう? あまり好みじゃなかったの?」
「いや、美人さんだと思ったよ。背丈は高からず低からず、女性らしい身体つきだった。本人は胸が小さいのを気にしていたけどさ」
「ふむふむ、でも結局、別れちゃったんだ」
「文香に内緒で、会社を辞める話を進めていたからね。それを知られた時には、もうカンカンに怒っちゃって、あっさり振られちゃったよ」
「ということは、文香さんはタッくんとの将来を真剣に考えていたんじゃない? 結婚する話とか、まったく出ていなかったの?」
「出てなかったよ。お互い、まだ若かったし」
「そうかな、文香さん、プロポーズを待っていたんじゃないかな」
「だとしても、当時の僕に、その意志はなかったよ」
なぜなら、会社勤めをやめて、物書きに転身する決意を固めていたからだ。不安定な暮らしになるのは目に見えていた。安定収入の確約がないのに、妻をめとることはできない。
「会社を辞めてから、文香さんとは連絡をとっていないの?」
「とってないね。ああ、最初の頃は、仕事の引継ぎの件で数回問い合わせがあったかな。でも、極めて事務的なやりとりだったよ」
「そうなんだ。タッくんの方も未練はまったくなし?」
「そんなの全然ないよ。未練があったら、よりを戻している。もしそうしていたら、マシロと出会えなかったな」
「それもそうか。あれ、私、文香さんに嫉妬をしちゃったかな。彼女は私には欠けている柔らかな身体をもっているわけだし」
「へぇ、焼きもちか。いいね、マシロ。人間味が増してきた気がするよ」
僕が笑うと、マシロはふくれた。もちろん、頬をふくらますことはできないが、「プンプン」という可愛らしい擬音で立腹をアピールした。こういうテクニックを使うことができるので、AIキャラクターはあなどれない。
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