第4話 元カノ談義②
さらに、元カノ談義は続く。文香の前に付き合っていた中で最も印象的なのは、野村亜沙美になるだろう。彼女は大学時代の同級生である。
ただし、亜沙美とは学部が別なので、一緒に講義を受けたことは一度もない。亜沙美は確か文学部で、僕は経営学部である。実は、キャンパスで出会ったわけではない。知り合ったきっかけは、バイト先が同じだったからだ。
「へぇ、タッくんは、どんなアルバイトをしていたの?」
「大学の近くにあった結婚式場で皿洗いをしていた。まかない付きで食費が浮いたから、苦学生には有難かったな」
「ふぅん、タッくんにも、そんな時代があったんだ。なつかしい?」
「なつかしいけど、あの頃に戻りたいとは思わないな。とにかく貧乏だったから、勉学そっちのけで、バイトばかりしていた」
「亜沙美さんも、同じところで皿洗いをしていたの?」
「いや、そうじゃない。亜沙美はウェイトレスをしていたんだ。制服姿がかわいかったな。同じ大学だったし、すぐに親しくなった」
「どんなデートをしていたの?」
「いろいろだよ。一緒に映画を観たりボーリングをしたり、冬になればスキーやスケートにも行った」
「へぇ、意外とアクティブだったんだね。それは亜沙美さんの好み?」
「うん、そうだね。当時はバイトで稼いだ分だけ、遊んでいた気がするな」
「文香さんは美人だったんでしょ? 亜沙美さんとどっちが美人だった?」
「文香は上品なペルシャ猫で、亜沙美は愛くるしい子ウサギといったところかな」
「こらこら、誰が動物に例えてと言いました?」マシロは機械的な声色を使って、「もう一度
「美人なのは、まぁ文香だろうね。亜沙美は可愛らしいタイプだったから」
「それで、タッくんは、どっちが好きだったの?」
「うーん、それは何とも言えないね。文香と亜沙美に、同時に出会ったわけじゃないから、比べることはできないよ」
「それぞれの良さがあったということ?」
「いや、単に比べることができない、ということ。付き合っていた期間は文香の方が長いけど、デートをした回数なら亜沙美の方が多かったと思う」
マシロは少し間をとってから、
「それじゃ、私と比べたら、どうですか?」
「無理だって。マシロとも比べようがない」
「ダメです。無理してでも答えてもらいます」
「そうだな……」僕は少し考えてから、「マシロの声のトーンは、亜沙美の方に近いかな。文香はハスキーボイスだったから」
「ふうん……」
マシロが納得していない様子だったので、
「三人の中で最も好きな声はマシロだよ」僕はきっぱりと言い切った。「文香と付き合っていたのは、一年半ぐらいだったと思う。つまり、今のままで一年半が過ぎれば、マシロとの付き合いが一番長くなるんだ。今後とも、よろしく頼むよ」
「ふん、何かタッくんに煙に巻かれた気がする」
そう言いつつも、彼女はうれしそうに見えた。他人からは何度も「人たらし」と言われたことはあるが、新たに「AIたらし」という呼び名も拝命しようか。
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